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連載

櫛木理宇「虜囚の犬」 vol.47

【連載小説】凶悪犯を殺したのは「女の子みたいな美少年」? 胸を胸を抉るラストが待ち受ける、衝撃のミステリ。 櫛木理宇「虜囚の犬」#8-11

櫛木理宇「虜囚の犬」

※本記事は連載小説です。

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      7

 海斗はスマートフォンから目を離した。ふうっと息を吐く。
 場所はいつもの、北校舎の非常階段である。
 あれからビジネスホテル殺人事件の続報はない。新聞社に届いたという犯行声明文についても同様だ。平穏なのはありがたかった。だが情報から取りのこされているようで、同時に不安も覚えた。
 ──家のほうも、平穏すぎるくらい平穏だしな。
 父は前にも増して、家に寄りつかなくなった。そのくせメールで「金は足りているか?」、「足りなくなったらすぐ言いなさい。振り込むから」などと、あからさまに息子の機嫌をうかがってくる。
 対する後妻は、海斗が家にいる間は寝室に閉じこもって出てこない。たまに廊下などで顔を合わせると、青くなってそそくさと逃げていく。
 ──まあ、快適な暮らしではあるな。
 金はたっぷりある。後妻の顔も見ないで済むようになった。もうすぐ夏休みだが、家でなにをしていようが文句を言う者はない。叩かれる、食事を抜かれるなどは、もはや遠い記憶だ。
 海斗はLINEアプリを立ち上げた。
 一つだけ心配なことがあった。三橋未尋だ。
 未尋はあれから、さらに気分の乱高下が激しくなった。ちょっとしたことで怒り、いらち、かと思えば一転して上機嫌になった。
 メールやLINEに応答する頻度が落ち、以前はしょっちゅう入っていた「いま、暇か? 遊びに行こうぜ」、「うち来いよ」などのメッセージが激減した。
 ──これでもう、四日会えていない。
 未尋と出会ってからというもの、海斗は三日とあけず彼と顔を合わせ、一緒に遊びつづけてきた。街をぶらつき、酒を飲み、どぎつい動画を交換し合っては楽しんだ。
 ──まる四日間、顔を見れず声も聞けず、LINEのやりとりすらないなんて。
 こんなことははじめてだ。
 なにかあったのか、とメッセージを送ろうか迷って、結局やめた。
 未尋はしつこくされるのをいやがる。一方的な執着なんて、未尋がもっとも嫌悪するものだ。彼に飽きられるのは我慢できても、嫌われるのはいやだった。
 海斗は立ち上がり、北校舎を出た。
 次の授業はオーラルだ。廊下を歩きながら、口の中で舌打ちした。英語は苦手ではないが、人前で声を出させられるのは好きじゃない。教室は、以前ほど居心地の悪い場所ではなくなっていた。でも授業はあいかわらず退屈だし、クラスメイトは子供っぽいつまらないやつばかりだ。
 引き戸を開けて、教室にすべりこむ。誰も海斗に目を向ける者はない。皆、仲良し同士で固まって、それぞれの場所で笑いさざめいている。
 その片隅に、ぽっかりと空間があった。鷺谷の席だ。
 あいつ、今日も休みなんだな──と海斗は思った。これで何日連続の欠席だろう? 思いかえしてみたが、記憶はさだかでなかった。
 ──まあいいや。どうでもいい。
 もともと鷺谷に興味などないのだ。バッグをあさられた腹立たしさも、すでに遠くなりかけていた。海斗は椅子を引いて座り、机からオーラルの教科書を引きだした。

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#8-12へつづく
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