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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.13

【連載小説】椎名が頼りにする意外な人物とは? 二人の女性刑事が、特殊犯罪に挑む!  矢月秀作「プラチナゴールド」#4-1

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。



前回のあらすじ

盗んだ宝飾品や金属を売買する窃盗団を摘発する捜査班のチーフを任された警視庁刑事部捜査三課の椎名つばきは、捜査の失敗から広報課に出向となった。合コンが大好きな後輩・彩川りおとコンビを組み交通安全講習業務に従事していたところ、通信障害が周囲に発生。現場で二人は携帯電話基地局アンテナを盗みだそうとしている犯人を捕らえた。そのことで本庁から呼び出された二人は、椎名の捜査課復帰と、彩川の異動を伝えられたのだった。

詳しくは 「この連載の一覧
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 取調室を出たつばきは、保管庫に寄ってやすたにのスマートフォンを受け取り、庁舎五階のサイバー班が入るフロアに出向いた。
 なんとなくわさわさとした雰囲気のある刑事部のフロアとは違い、整然として落ち着いた空気が流れている。
 エレベーターを降りて廊下を進み、中ほどにあるドアを開けた。
 室内にはオープンスペースのブースが並び、各ブースにパソコンが置かれている。
 ドアが開いたにもかかわらず、作業中の職員は振り向きもせず、モニターを見つめていた。
 つばきは開いたドアにもたれ、コツコツとノックした。
 手前の職員がノックに気づき、顔を上げた。
「ああ、しいさん。お疲れさまです」
 若い男性職員が笑みを浮かべた。
「相変わらずね。らん、いる?」
いちさんなら、奥のブースに張りついてますよ」
 男性職員はフロアの最奥に目を向けた。
「ありがとう」
 つばきはほほみ、歩きだした。
 オープンスペースの右手に、分厚いアクリルの壁に仕切られた場所がある。
 一つのブース内は広く、大きなテーブルに何台ものパソコンとモニターが置かれている。
 ここは主に、解析を行なうところだ。その道に精通した捜査員が、ダークウェブや容疑者から押収した通信機器の分析をしている。
 つばきは奥から三番目のブースに近づいた。
 眼鏡をかけた女性が猫背になって、右手にマウス、左手にサンドイッチを持ってモニターをじっと見つめている。
「何、見てんの?」
「今、話しかけないで」
 女性はつばきに見向きもせず、強い口調で言った。
 つばきは小さく息をついて、パーティションにもたれ、作業の様子を見つめた。
 女性は、一ノ瀬蘭子という。
 つばきと警察学校の同期で、地域課の勤務を経て、サイバー班に配属された。
 趣味はゲームと愛猫との添い寝、好きな場所は自宅のベッドという見事なインドア派なので、四六時中ブースにこもってモニターとにらみ合う仕事は性に合っていると公言している。
 正装すると、男性陣が振り返るほどの美人でもあるのだが、髪はぼさぼさで化粧っ気もなく、色気というものにまったく興味がないようだった。
 蘭子がマウスをいじるたびに、画面上の矢印ポイントが動き回る。
 つばきには手持ち無沙汰でいじくっているだけにしか見えないが、蘭子いわく、見るところは見ているのだそうだ。
「あー、これか」
 蘭子はつぶやき、サンドイッチをぱくっと食べた。
「終わった?」
 声をかける。
「うん、いいよ」
 蘭子は残りのサンドイッチを口に詰め込み、冷めきったコーヒーで流し込んだ。手のひらで口を拭い、空いた方の手で前髪をき上げ、椅子ごと振り向く。
「何を調べてたの?」
「暗号資産の流れ。こいつがポイントだったのよ」
 蘭子はマウスを操作して、文字列の一カ所を白黒反転させた。
「取引所の所在が転々としてて、つかめなくってさ。でも、大きな金を動かす時は、必ず、メジャーなところで交換してるはずなのよ。このCDaE135972というのが、ダミーでね。本当はこっちのLE39oiPm663というのが──」
「ごめん。何言ってるのか、わかんない」
 つばきが苦笑する。
「まあ、ようするに、ダミーのアドレスを使って、ダークウェブを転々として目くらましかけて、最終的にはシンガポールの取引所で売買してたっていうわけ。ここまでわかれば、あとは他の人たちで追えるわ」
「そう。さすがね」
「基本とセンスよ」
 蘭子はマグカップを取って、残ったコーヒーを飲み干した。
「で、何?」
「これ、調べてほしいんだけど」
 つばきはスマートフォンを差し出した。
「誰の?」
「こないだ、きちじようでパクった金髪男のやつ」
「あー、あんたが派手にやらかしたやつね」
 蘭子は笑いながら受け取る。
「やらかしたのは、あやかわだよ」
「彩川って、広報の彩川りお?」
「そう」
「あの子が、車壊したり、容疑者ぶん殴ったりしたわけ?」
 蘭子が目を丸くする。
 つばきはうなずいた。
「信じらんないなあ。あざといだけが取り柄の女だろ?」
「私もそう思ってたけど、おもしろい顔も持ってるみたい。今度、三人で家飲みしようよ」
「私はいい」
 くるりと椅子ごと回り、背を向ける。
 つばきはデスクの脇に立った。
「このスマホの中身を全部調べてほしいんだけど、特に、求人関係のデータを探してほしいんだ」
「携帯基地局の関係?」
「そう。つかまえた金髪、今は消えてるサイトで仕事を請け負ったと言ってるのよ」
「あー、典型的な裏関係だね」
 話しながら、スマホにUSBケーブルをつなぐ。
 キーボードをたたいて、スマホの中からデータを吸い上げ、モニターに表示した。
 画面をスクロールして文章の交ざった文字列を眺め、モニターに目を向けたまま言う。
「ざっと見た感じ、きれいに消されてんね。いいプログラムだ」
「見つかりそう?」
「痕跡は残ってると思うんだけど、特定は難しいかもしんないね」
「あんたでも?」
「神様じゃないからさ」
 蘭子は言い、いったんスマホからUSBケーブルを抜いた。
「急ぎ?」
「できれば」
「なら、明日の昼までにやっとくよ」
「助かる。ランチ、おごるわ」
「ラッキー。じゃあ、また明日」
 蘭子は素っ気なく右手を上げ、他の作業を始めた。
 つばきは笑みをこぼし、立ち去った。

▶#4-2へつづく
◎第 4 回の全文は「カドブンノベル」2020年10月号でお楽しみいただけます!


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