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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.7

【連載小説】りおを見直し始めたつばきは――。 はみだし女性警官コンビが巨悪に挑む‼ 矢月秀作「プラチナゴールド」#2-3

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。

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 そう言い、濡らしたティッシュで巻いた髪も少し伸ばし始めた。
「そこまで計算してメイクできるとは、たいしたもんだな」
 皮肉を込めて言う。が、りおは「ありがとうございます」と言い、悪びれもせずに笑みを浮かべた。
 つばきはため息をついた。
「まあ、いい。しかしなぜ、あいつらに気づいたんだ?」
「あいつらって?」
「あんたがタコ殴りにした連中だよ」
「ああ、あいつらですか? 化粧直ししてたら、たまたま鏡に作業している様子が映ったんで、声をかけてみただけです」
「私の後から来ずに、化粧直してたの?」
 つばきは呆れて、顔を横に振った。
 鏡越しにつばきの様子を見たりおは、コンパクトとティッシュをポケットに入れ、振り向いた。
「だって、先輩が入ってったビルのアンテナ、られてなかったじゃないですか。だから、もし、基地局のアンテナを盗んだんだとしたら、そこじゃないなーと思って」
「あんた、私が基地局のことで車を出したの、わかってたの?」
「そりゃあ、わかりますよー。先輩がなんで広報へ来たのかも知ってますし、無線のやりとりを聞いてれば、私だって、ピンときます」
「そう。案外、注意深いんだな」
「警察官ですからっ!」
 にこっとして、顔を傾ける。
 つばきは小さく肩を落とした。
「まあ、いいわ。連中が本丸なら、大きく捜査が進むことになるし。よくやったね」
「ありがとうございますっ!」
 満面に笑みをたたえる。
「しかし、あんたが男を蹴り回すほど強いとは思わなかったよ」
「警察官だから、日々鍛えてます!」
「いいことだ。けど、あの短髪蹴っている時、なんか言ってたな。二度とあたしに向かって、ブ──」
 言いかけた時、りおは近づいてきて、つばきの唇に人差し指を立てた。
「私の前で、その言葉は口にしないでください。我慢できなくなる時があるので」
 急に声のトーンが落ちた。大きな瞳に殺気をまとった怒気がふっと滲む。
「ああ……わかった」
 つばきは少したじろいだ。
 同時に、この顔で暴行を受けていたなら、あの男たちは怖かっただろうな……と、多少同情した。
 りおはふっと、いつもの笑顔に戻った。
「あー、もう、今日は疲れちゃったな。先輩、合コンは行かないんでー、一緒にご飯食べに行きません? 安くておいしいフレンチのお店、教えてもらったんです」
「いや、私は──」
「いいじゃないですかあ。行きましょう!」
 りおはつばきの右腕を抱き、身を寄せた。
 なんなんだ、この女は……。
 戸惑いつつ、りおのペースに乗せられ、トイレを後にした。

 吉祥寺で騒動を起こした日から、三日がっていた。
 その日も、つばきは、ピーポくんの着ぐるみで三カ所の幼稚園を回った。もちろん、りおも一緒だった。
 りおとはあの夜、食事に出かけた。
 おしゃれ好きな女の子が好きそうなきらびやかな店かと思ったら、こぢんまりとした小ぎれいな店だった。
 席数は少なく、テーブルも適度に離れていて、少人数で話すにはとてもいい場所だ。
 出てくる料理も、いかにもフランス料理といった凝ったデコレーションのものは少なく、スッキリとしながらも見栄えのする盛り付けで、オーソドックスながらも舌にたっぷりと満足感が残るおいしいものばかりだった。
 ワインも種類が多く、お任せにすると料理に合ったものを出してくれる。
 それで、一人五千円弱の値段だった。
 その店は、合コンに誘ってくれるCAの友達が教えてくれたと、りおは言った。
 安くて気取らないが、品のある店を紹介するのなら、悪くない友達なのだろうと思う。
 また、そういう友達と付き合っているりおは、見た目よりしっかりした女性なのかもしれない。
 食事中に話した内容は、ほとんどが、りおの恋愛相談のようなものだったが、その日以来、つばきの中で少しだけ、りおに対する意識が好意に傾いた。
 つばきは着ぐるみをロッカー脇の荷台に戻し、自分のロッカーを開いた。
 汗臭いTシャツを脱ぎ、スパッツも脱いで下着姿になる。スポーツブラも取り払って、ショーツ一枚の姿になった。
「わあ、先輩、いつも大胆!」
 りおが入ってきた。
「女のロッカールームなんだから、かまわないだろ」
 中からタオルを取り出し、汗を拭う。
「でも、先輩のカラダって、ほんと、いつ見てもきれいですね。おっぱいは上の方にあって大きいし、腰もギュッとくびれてるし、お尻も適度に大きいし」
「乳なんて、めんどくさいだけだよ。肩凝るし、谷間に汗がまって、気持ち悪いし」
 言いながら、大胆に胸の谷間の汗を拭う。
「いいなあ。そのセリフ、一度言ってみたいです」
 りおは自分のロッカーを開いた。扉の陰に隠れて、こそこそと着替え始める。
 つばきは汗を拭いながら、りおの肢体を覗き見た。
 小柄で、胸は大きくないものの、くびれはハッキリしているし、ほっそりと長い脚はまっすぐできれいだ。
 何より、肌はよく手入れしているようでみずみずしく、真珠色に輝いている。胸元を隠しながら着替える様は、実にたおやかで、少し傾けたうなじや横顔は女性から見ても美しかった。
 つばきはしかし、自分の感想は伝えない。
 先日の吉祥寺での一件から、気になっていた。
 りおはなぜか、自信がない。
 周りの女性よりはかわいく、体のラインをキープする努力もして、肌に磨きをかけ、女子力は抜群に高いにもかかわらず、時折、自信なさげな言葉を口にしたり、自らを卑下してみたり。
 初めは、かまってちゃんなのかと思ったが、少しずつ、りおを知るにつれ、そう単純なものではないような感じがしていた。
 そして、そこは深掘りするようなものでもない気がしている。
 誰にでも、胸の奥に押し込めた傷の一つや二つある。そのほとんどは、掘り返さなくてもいいもの。
 そのまま胸の奥底に沈殿しているうちに分解され、消えていく。
 それでも残るおりは、いずれ吐き出す時が来る。
 その時期を決めるのは、他人ではなく、自分自身だ。
 もし、りおが〝澱〟を吐き出したくなった時、自分がそばにいるなら、話くらいは聞いてあげよう。
 そう、つばきは思っていた。
 ネイビーブルーのブラトップTシャツを頭からかぶり、ジーンズに足を通す。上に薄手の黒いジャケットを着て、財布やスマートフォンをジーンズの後ろポケットに突っ込んだ。
 隣のりおも着替えを終えていた。ブイネックの黄色いコクーンシルエットの半袖ワンピースを着ている。ゆったり丸みを帯びたシルエットが、りおの愛らしさを一層演出していた。

#2-4へつづく
◎第 2 回の全文は「カドブンノベル」2020年8月号でお楽しみいただけます!


「カドブンノベル」2020年8月号

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