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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.6

【連載小説】りおの豹変ぶりに驚くつばきだが――。 はみだし女性警官コンビが巨悪に挑む‼ 矢月秀作「プラチナゴールド」#2-2

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。

>>前話を読む

 男たちが車から出てきた。流血している者や足を引きずっている者もいるが、車からい出し、四散する。
「待て、てめえら!」
 りおは右足を引きずっている短髪の男に駆け寄った。男は逃げようとしたが、つまずいて両手をついた。
 りおは男の尻を蹴り上げた。男はダイブし、車道の真ん中に突っ伏した。
 りおは歩み寄り、背中を踏みつけた。男はけ反って、うめきを漏らした。
「てめえ、笑っただろ?」
「あ、いえ……」
「人のことをブス呼ばわりして、笑っただろ!」
 見下げて怒鳴り、何度も何度も踏みつける。
 交通を邪魔されている車も、何やら穏やかならぬ雰囲気に戸惑い、停まっているだけ。通行人も遠巻きにりおを見ていた。
「誰がブスだ? 言ってみろ!」
 腰に手を当て、ひたすら踏む。
「あたしは、他人にブス呼ばわりされんのが、この世で一番嫌いなんだよ!」
 脇腹を蹴り上げる。
 男は腹を押さえて、体を丸めた。
「誰がブスだ? もういっぺん言ってみろ、こら! ぶち殺してやろうか?」
 肩口を踏みつける。容赦がない。
「女の子は女の子ってだけでかわいいんだよ! 粋がってんじゃねえぞ、ドチンピラが! てめえの顔、砕いてやろうか!」
 右脚を後ろに引いた。
 騒ぎを聞きつけ、ビルから飛び出してきたつばきがりおに駆け寄った。
 りおは、つばきに気づいていない。
「二度とあたしに向かって、ブスなんて言うんじゃねえ!」
 顔面に向けて、右脚を振る。
 つばきがりおの腰に腕を巻いて、引き離した。りおの右脚は空を切った。
「何すんだ、こらあ!」
 りおが腰をひねり、右肘を振る。
 つばきは額を突き出し、肘を受け止めた。
 つばきを認めた瞬間、りおが、あっと口と目を開いた。
「どうしたんだよ……?」
 つばきは腕をほどいた。あまりのひようへんぶりに困惑を隠せない。
 と、りおはつばきに抱きついてきた。
「先輩! 怖かったー!」
 つばきの胸に顔をうずめ、泣き声をこぼす。
「怖かったって……。あんたのほうがよっぽど怖かったけどね」
 丸まって倒れている短髪の男に目を向ける。
 通報が入ったのか、パトカーが集まってきた。事故車両を囲み、倒れた男を抱き起こす。つばきとりおのもとにも制服警官が駆け寄ってきた。
 つばきはすかさず、ポケットから警察手帳を出し、開いた。中身を確認した警官が敬礼をする。
しいさん、これはどういうことですか?」
 警官は現場を見回した。
「彩川、どういうこと?」
 つばきが訊く。
 りおはつばきの胸に顔を伏せたまま、話した。
「先輩がビルの中へ入った後、すぐに追いかけようとしたら、向かいのビルからアンテナみたいなのを運び出してた人たちがいたんで、勇気を振り絞って、職質をかけたんです。そうしたら、突然、その人たちが暴れ出して。必死に抵抗してたら、歩道のところの金髪の人の顔にパンチが当たっちゃって。それを見て、男の人たちが逃げようとしたんで、なんとかしなきゃと思って車を動かしたらぶつかっちゃって。降りてきた人助けようとして、それで……」
 時折、はなすすりながら、声を詰まらせ詰まらせ話す。
「あー、わかったわかった」
 つばきは話を終わらせた。そして、制服警官に指示をした。
「現場を検証後、車両を撤去して所轄署の駐車場へ。倒れている金髪と短髪の男は確保して、留置場に。応援を頼んで、逃走した男たちの捜索もお願い」
「承知しました!」
 警官が去ろうとする。
「あー、それと、本庁刑事部捜査第三課のすぎひら警部補に連絡を入れて、この周辺の携帯基地局の状況を調べるよう伝えてちょうだい」
 わかりましたと返事をし、警官はパトカーへ駆け戻った。
 つばきは警官を見送ると、りおの背中をバシッとたたいた。
「顔、上げな。泣いてないんだろ?」
「わかりますぅ?」
 りおはちらっと顔を上げ、舌を出した。
「すぅ? じゃないよ。ここは所轄と三課に任せて、戻るよ」
 歩きだそうとする。が、りおがつばきを引き寄せた。
「何?」
 りおを見下ろす。
「近くのデパートかビルのトイレまで連れて行ってください。メイクとか髪が乱れちゃってるんで」
「知らねえよ」
 突き放そうとするが、上着をつかんで離れない。
 警察官たちが、ちらちらとつばきとりおを見ていた。
「なんなんだよ、おまえは……」
「すみませーん」
 小声で言い、つばきの胸元に顔を伏せて隠す。つばきはりおの肩を抱いて、歩きだした。
 それは、周りから見ると、傷ついたりおを支える先輩女性刑事のように映る。
 つばきは不本意ながらも、りおを連れ、近くのデパートに入った。
 案内板を見ながら、フロア右端にある女性用トイレまで連れていく。
「誰かいます?」
 りおが小声で訊いた。
「誰もいないよ」
「そうですかー」
 りおはつばきから離れて、顔を上げた。すぐに大鏡に自分の顔を映す。
「あー、もう、やだー。泣いたから、シャドウが取れてるー」
 りおは言いながら、コンパクトとティッシュを出し、早速化粧を直し始めた。
 つばきは壁にもたれ、腕を組んで、鏡の奥のりおを見つめた。
 りおはティッシュを少しらしてにじんだアイラインを取ると、ファンデーションを軽く叩いて、のばし始めた。手際がいい。
 アイシャドウが取れたからか、りおの目が少し小さくなった感じがする。
 しかし、ファンデーションの厚みを変えてうまく影を作ると、目の大きさが元に戻ってきた。
「いつも、そんなことやってんの?」
 つばきは呆れ顔で訊いた。
「当たり前です。身だしなみですから。椎名先輩は、メイクしないんですか?」
「走り回るのに、化粧はいらないだろ」
「先輩、目鼻立ちがはっきりしてるから、きちんとメイクすると映えるのに。もったいなーい」
 りおは話している間に、メイクを整えた。幼稚園で子供を相手にしていた時より、少し地味な印象になった。
「なんか、疲れた感じの顔になってんな」
 見たままの感想を口にする。
「いいんですよ。この方が、必死に戦ったって感じが出るじゃないですか」

#2-3へつづく
◎第 2 回の全文は「カドブンノベル」2020年8月号でお楽しみいただけます!


「カドブンノベル」2020年8月号

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