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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.12

【連載小説】取調中に豹変したのは──? はみだし女性警官コンビが巨悪に挑む‼  矢月秀作「プラチナゴールド」#3-4

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。
>>前話を読む

 そろそろ助け船を出そうか……と思った時、りおがいきなり、机の天板をバンッと叩いた。
 安谷の尻が跳ねた。思わず、背筋を伸ばして座り直す。
 顔を上げたりおは天を仰いで大きく深呼吸をし、ゆっくりと安谷に視線を戻した。
「誰が不細工だって?」
 りおの目尻がり上がっている。
 安谷の笑みが強ばった。
「ナメんじゃねえぞ、チンピラが!」
 もう一度、天板を叩く。
 安谷は椅子が倒れそうになるほど、飛び上がった。
 まずい!
 つばきはりおを落ち着かせようと、二の腕を握ろうとした。
 が、りおはつばきを見ず、その手を振り払い、腰を浮かせた。天板に両手をつき、身を乗り出して安谷を見下す。
 安谷は椅子ごと傾け、背を反らした。
「てめえは事実をしゃべりゃいいんだ。今度、不細工なんて言いやがったら、その口に指突っ込んで引き裂いちまうぞ。わかったか?」
 りおの目が血走る。
 安谷はひようへんぶりにおののいた。
「わかったのか、チンピラ!」
「はい! すみませんでした!」
 安谷は太腿に両手を置いて上体を直立させ、歯切れよく返事をした。
 りおは睨んだまま椅子に戻った。座り直して目を閉じ、もう一度深呼吸をする。
 ゆっくりと目を開ける。先ほどまでのキレた猛獣のような目の色はせ、元のりおの目に戻った。
 つばきは男性警察官の方を見た。その指が、録画装置のボタンに触れているのを認めた。
 りおが豹変した瞬間、録画を止めてくれたようだ。
 つばきは目礼をし、うなずいた。男性警察官もうなずき返し、録画を再開した。
 りおがおもむろに口を開いた。
「もう一度、お聞きしますね。あなたに仕事を依頼した人、もしくは会社の名前を教えてください」
「ホントに知らねえんだって……」
 安谷が言う。りおの目が鋭くなりかける。
「マジだって、マジ!」
 安谷はあわてて、両手のひらをりおに向けて振った。
「サイトで仕事を請け負ったんだ」
「サイトって?」
 つばきが訊いた。
 安谷は他の者から声をかけられ、ホッとしたように強ばった表情を緩めた。つばきに顔を向ける。
「マッチングサイトってのがあってさ。俺みたいにフリーでやってるヤツと人手がほしい会社を引き合わせるところがあるんだよ。どうせ、あんたら調べてるだろうからわかってると思うけど、俺、二年前に電気工事の会社を辞めてから、ずっとネットで電気工事関係の仕事請け負って、食ってたんだ」
「工事の仕事だけ?」
「この頃はな。どこも人手が足りねえんで、けっこういい手間賃くれるところが多くてな。辞めた頃は、工事関係の仕事だけじゃ食えなかったんで、飲み屋とかでバイトしてたけどよ」
 安谷は素直に語った。
「マッチングサイトの名前かURLわかる?」
「一番使ってたのは、ガテンマッチというサイト。建設関係の仕事を紹介しているところだよ」
 安谷が言う。
 つばきは男性警察官を見た。男性警察官はうなずき、すぐ、手元のノートパソコンで検索した。
「ありました」
 男性警察官は言い、ノートパソコンをつばきの元まで持ってきた。
 つばきは受け取り、机に置いて、画面を見せた。
「これ?」
「そう、これ」
「他は?」
「あとは、電気関連だけをマッチングさせるところとか、普通の日雇い紹介をしているところとか。検索したらいっぱい出てくるから、そこで割のいい仕事を探して、そのつど契約してたんだよ」
「マッチングサイトだけ?」
「ツイッターなんかでもあったよ。ただ、SNS経由の仕事はヤバそうなのが多いんで、あんまり請けなかったけど」
「今回の仕事は、どこで見つけたの?」
「触っていいか?」
 安谷がノートパソコンを見やる。
 つばきはうなずき、安谷の前にパソコンを差し出した。そして、安谷の後ろに回る。
 安谷はつばきを肩越しに見上げ、りおや男性警察官をいちべつすると、キーを叩き始めた。
 検索する。
「あれ?」
 安谷は何度も検索をしながら、首をかしげた。
「おかしいなあ……」
「どうしたの?」
 つばきは後ろから声をかけた。
「いや、なくなってるんだよ、サイトが……」
「ほんとにあったの?」
 りおが睨む。
「マジだって! いや、ホントです。あったんですよ、携帯基地局の撤収って仕事が!」
 安谷はなぜか、りおには敬語になっていた。
 つまり、安谷がりおを〝上〟と認めたということ。安谷の性格からして、上と認めた者にうそはつかない。
「仕事の依頼はメール?」
 つばきが訊く。
「いや、サイト上のメッセージでやりとりしてたんだ」
「パソコン?」
「スマホだよ」
「そう。彩川、ちょっと出るから、その間にいろいろと訊いといて」
 つばきが言うと、りおの黒目が一瞬不安げに揺れた。だがすぐにりんとした眼力を取り戻し、首肯した。
「任せてください」
「頼んだよ」
 つばきは言うと、後ろから安谷の肩に手を回し、耳元に顔を近づけた。
「二度とうちの彩川をからかわないようにね。ブチ切れたら、後ろの男性警官も止められないくらい怖い。素直に話しゃ、この部屋から無事に出られるからさ」
 つばきの言葉に、安谷は息を吞んで、小さく何度もうなずいた。

▶#4-1へつづく
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「カドブンノベル」2020年9月号

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