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連載

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」 vol.9

遣唐使・井真成が、生死を賭けた試練に挑む! 真成に託された役目とは果たして――。夢枕獏「蠱毒の城――月の船――」#85〈前編〉

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」

※この記事は、期間限定公開です。



前回までのあらすじ

遣唐使の井真成は、閉ざされた城内で黄金の杯を奪い合う殺し合いに参加する。そこで椿麗、毛天籟、夢蘭、黄雲雕の仲間を得、立ちはだかる敵・銭惟演を打ち破る。殺し合いが終わると、杜子春と呼ばれる青年が現れ、真成ら生き残った十二名を含む四十九名で旅に出るのだと告げる。かつて杜子春は、恩人の仙人に、何が起きても言葉を発しないよう命じられ、それを守り続けていたが、ある時思わず声をあげてしまい、仙人になりそびれてしまった。

詳しくは 「この連載の一覧
または 電子書籍「カドブンノベル」へ

 十七章 死者の帝国

  擬明月何皎皎
落宿半遥城
浮雲藹曾闕
玉宇来清風
羅帳延秋月
結思想伊人
沈憂懐明発
誰謂客行久
屢見流芳歇
河広川無梁
山高路難越

  めいげつ なんこうこうたるに
らく宿しゆう ようじようなかばにして
うん そうけつあいたり
ぎよく せいふうたり
ちよう しゆうげつ
おもいをむすびてひとおも
うれいにしずみてめいはつまでおも
たれおもわん かくこうひさしくして
しばしばりゆうほうくるをんとは
かわひろくしてかわはし
やまたかくしてみちがた
  岩波文庫『文選』(六)

(一)

 昼過ぎ──
「なんだか、騒がしいな……」
 草の上に腰を下ろし、そうつぶやいたのは、こううんちようであった。
 しんせいにも、その意味はわかっている。
 城門を、兵士たちが、朝から頻繁に出入りしているのである。
 城から出た日を一日目とすれば、今日が五日目だ。
 昨日は、しゆんが現われて〝旅〟にゆく人間たちの名が告げられている。
 この五日間の間に、二十人に余る兵士たちが、城の中へ入ってゆくのは、日々にしていた。城の中で何かやっているらしいということは、真成たちにもわかっていたが、実際に何をやっているのかということまではわからない。
 もう、二度と足を踏み入れたくない場所であった。
 それは、真成、雲雕、てんらいぼうらん椿ちんれいの共通した思いだった。
 兵士たちが、毎日城の中で何かをやっている──興味がないわけではなかったが、それをことさら話題にしたり、ちんはんれいにわざわざたずねたりはしなかったのだ。
 しかし、今日は、朝から城への出入りがいつになく多かったのである。
「気になるかい……」
 草の上にあおけになっていた真成が、上半身を起こした。
 城の方に眼をやると、城から出てきた三人の兵士が、杜子春のいる天幕に向かって、早足に歩いてゆくのが見えた。
 三人が天幕に消えた後、しばらくして天幕からその三人と、陳範礼が出てきた。
 真成たちのいる方に向かって歩いてくる。
 自然、おうでんたいけんなど、他の者たちの視線も集まっている。
 陳範礼が足を止めたのは、真成の前であった。
せい真成──」
 そう声をかけてきたのは、三人の兵士たちのひとりで、陳範礼の横に並んだ、はくえいしんである。
「なんだい」
 真成が立ちあがる。
「これから、城の中へ入る。おまえも一緒に来るんだ」
 これは、陳範礼が言った。
「なに!?」
 のっそりと、雲雕も立ちあがる。
「おまえはいい。真成、来るのはおまえだけだ──」
 陳範礼の言葉に、
「ふん……」
 雲雕がまた、腰を下ろす。
 天籟、夢蘭、椿麗が、座したまま、そのやりとりを聞いている。
「何をしにゆくんだ?」
「来ればわかる」
 陳範礼は、この前と似たような言葉を口にした。
「わかった──」
 少し間をおいて、真成がうなずいた時、椿麗が立ちあがって、
「本気なの?」
 真成に声をかけてきた。
「断ると、ややこしいことになりそうだからな──」
 真成は言った。
「よくわかっているな」
 陳範礼は、表情を変えぬまま言った。
「行きたくはないが、行くことで、あれが何だったのか、少しでもわかるっていうんなら、行かなきゃならないだろう」
「何事にせよ、興味を持つということは、よいことだ。会ったばかりのおまえだったら、絶対に口にしない言葉だな──」
「そうだな……」
「すぐに準備をしろ」
「もうできてるよ」
 真成は言った。

後編につづく
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