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連載

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」 vol.21

【連載小説】生死を賭けた試練に挑む、遣唐使・井真成。殺し合いを生き抜いた真成に更なる指令が下される。夢枕獏「蠱毒の城――月の船――」#92〈前編〉

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」

※本記事は連載小説です。



前回までのあらすじ

遣唐使の井真成は、閉ざされた城内での殺し合いに参加する。そこで椿麗、毛天籟、夢蘭、黄雲雕の仲間を得、立ちはだかる敵・銭惟演を打ち破る。殺し合いの後、杜子春と呼ばれる青年が現れ、真成ら生き残った十二名を含む四十九名で旅に出ると告げる。真成は、城内でかつて人間を贄に使った蠱毒という呪法が行われたこと、自分たちの殺し合いもまた蠱毒であったことを知る。目的地を告げられぬまま旅立った一行は、大きな屋敷にたどり着く――。

十九章 旅する死者

(三)承前

 この四人の集まりに、どうして自分が呼ばれたのか?
 しんせいには、それがわからない。
「立ったまま聞け」
 真成の横に立っているちんはんれいが、真成の耳に口を寄せて言った。
「このおとこが、こくからやってきた、いのなりじゃな」
 きようげんめいが言った。
 猫をでるような声だった。
 真成が、何か言おうとすると、
「しゃべるな。何かたずねられたら、それに答えるだけでよい。皆、もう、おまえが何者であるか、わかっている」
 陳範礼は、真成を見ずに言った。
 陳範礼の顔が向いているのは、卓を囲んでいる四人の方角である。
ざんけんを手にした漢であろう」
 そう言ったのは姜めいだった。
「はい」
 うなずいたのは、とうせいだ。
 しゆんだけが沈黙している。
「良きかな、良きかな」
 姜玄鳴が、うれしそうな声をあげる。
「まさか、このような日のこようとは──」
 姜亀鳴の顔にも、笑みが浮かぶ。
「そなた、せっかく手に入れた破山剣を、使つこうてしもうたそうじゃな」
 姜玄鳴が、問うてきた。
 陽にしよくがあったあの日、あの洞窟を脱出する時に、今背にしている破山剣で、岩を切り開いたことについて言っているらしかった。
「答えろ」
 陳範礼が言うので、
「ああ、そうだよ」
 真成はうなずいた。
「そなたが一度使うてしもうたが故、今、それはただの剣じゃ。人の首は斬れても、山は切れぬ……」
「惜しい、惜しい、つくづく惜しい。その剣で切れぬものなど、この世になかったによ」
 姜玄鳴と、姜亀鳴が、交互に言った。
「よいか。そなたがここにおるのは、あの女が選んだ漢だからじゃ」
 姜玄鳴が言う。
 あの女?
 それはつまり、この自分に、ペルシャ人屋敷に来いと告げた女のことであろう。
 しかし、どうして、この姜玄鳴がそのことを知っているのか。おそらく、陳範礼か、ここにいる誰かが話したということなのであろう。
「あの女が、そなたを選んだということは、つまり、そなたには秘密があるということじゃな。誰にも言えぬ秘密がのう……」
 姜玄鳴の唇の両端が、これまでよりも大きくりあがった。
「まあ、よい。そなたは、ここで、これから起こることを、黙って見ておればよい。今は何も問うな。話がややこしうなるでなあ……」
 姜玄鳴は、ここで、ぽんぽんと手を二度たたき、
「では、用意のものを、これへ──」

後編につづく
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