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連載

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」 vol.11

遣唐使・井真成が、生死を賭けた試練に挑む! 真成に託された役目とは果たして――。夢枕獏「蠱毒の城――月の船――」#86〈前編〉

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」

※この記事は、期間限定公開です。



前回までのあらすじ

遣唐使の井真成は、閉ざされた城内で黄金の杯を奪い合う殺し合いに参加する。そこで椿麗、毛天籟、夢蘭、黄雲雕の仲間を得、立ちはだかる敵・銭惟演を打ち破る。殺し合いが終わると、杜子春と呼ばれる青年が現れ、真成ら生き残った十二名を含む四十九名で旅に出るのだと告げる。その翌日、闘いの主催者・陳範礼に呼ばれ再び城内に足を踏み入れた真成は、そこで夥しい数の人骨を目にする。かつてここで何があったのか、真成は杜子春に訊ねる。

詳しくは 「この連載の一覧
または 電子書籍「カドブンノベル」へ

 十七章 死者の帝国

(二)承前

「儀式だ」
 しゆんは言った。
「儀式?」
「大いなるにえうたげさ」
「何だ、それは!?」
「おまえたちが、この城の中で、二〇日余りに渡って繰り広げたのと同じことが、その昔、ここでもあったということだな」
 杜子春は、うれしそうにを細め、穴の中を見下ろしている。
「贄の宴と言ったか?」
 しんせいが問うと、
「口を慎め、真成」
 ちんはんれいが、硬い声でたしなめた。
 口のきき方が、ぞんざいである──そう言いたいらしかった。
「かまいませんよ。あの儀式で生き残った者たちには敬意を払わねばなりませんからね。それに、この真成は特別ですから──」
「特別!?」
ざんけんを持っている人間は、いつでも特別ですのでね」
「破山剣?」
「そうです」
「どういう意味なんだ」
「いずれ、その剣と、その剣を持つ者が必要になるということです」
 謎めいたことを、謎めいた微笑と共に、杜子春は口にした。
「何に必要になるというんだ」
「いずれ、わかります。いずれね。いやでも、その時がくれば。今は、話す必要もないし、話したところでわかるはずもないことです」
「それは、そっちの事情だろう」
「あなたにはあなたの事情があると?」
「そうだ」
「どんな事情ですか?」
 問われて、真成は言葉に詰まった。
 どういう事情か、それを口にできなかったからだ。
 ふっ、
 と、杜子春は微笑した。
「あなたが知りたいというのは、ただの好奇心からでしょう」
「いけないのかい」
「あなたは、言うなれば人の右腕、左腕、あるいは手のようなものです──」
「右腕と、左腕……」
「人は、自らの手に命じて、剣を握らせたり、箸を持たせたりいたしますが、その時、右手や左手は、その理由を問うたりいたしますか──」
「おれが、あんたの右手、左手だというのかい?」
「真成!」
 鋭い声で、再び陳範礼が、真成をたしなめた。
「かつて、ここで何があったのか、それをたずねているわけですね」
「そうだよ」
 このおびただしい数の白骨。
 真成がここで見た幽鬼たちは、いずれも殺しあい、互いに互いをくらいあっていた。
 それはいったいどういうことなのか。
 しかも、ほんの数日前まで、自分たちも同様に、ここで殺しあいをさせられていたのだ。
ほうですよ……」
 乾いた声で、杜子春は言った。
「呪法?」
「かつて、この城で行なわれた、とてつもない規模の呪法です……」
「いつの話なんだ」
「千年ほど前になりますか。まだ、しんかんちようなどの諸国が争いあっていた頃のことですよ……」
 杜子春は、自分が言葉を発することによって、真成の顔にどのような表情が生ずるのか、それを探るような視線で眺めている。
どくという呪法があるのは、知ってますか?」
「耳にしたことはある」
 真成はうなずく。
 呪法は、日本国、唐を問わず様々あるが、世に知られているものでは、えんと蠱毒がある。
 魘魅は、たとえばひとがたなどを使用する。
 呪いたい相手の人形を、土、木、わらなどで作り、その人形に相手の血を塗ったり、爪や髪などを入れて、手足や身体からだや頭を、針で突いたり火であぶったりする。針で頭を突けば頭が痛くなり、胸を突けば心臓が痛くなる。火で炙れば熱くなる。呪った相手を死に至らしめることもできるおそろしい呪法である。
 蠱毒は、むしを使う。
 どく、毒蟲、百足むかで、蛇などを、大きなつぼに何千匹、何万匹と入れ、餌を与えず放置して、ともいをさせるのだ。互いに啖いあい、やがて、最後に一匹が生き残る。その残った一匹を呪法に使うのである。
 その残った一匹は、他の喰らわれて死んだ蟲の精気を全て我がものにしており、たいへんに強力な呪法の道具となる。
「千年前、その蠱毒を、人でやったのが、この場所さあ……」
 杜子春は、笑った。
「な……」
 なんということを──
 その言葉が出てこなかった。

後編につづく
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