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連載

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」 vol.13

遣唐使・井真成が、生死を賭けた試練に挑む! 真成に託された役目とは果たして――。夢枕獏「蠱毒の城――月の船――」#87〈前編〉

夢枕 獏「蠱毒の城――月の船――」

※この記事は、期間限定公開です。


前回までのあらすじ

遣唐使の井真成は、閉ざされた城内での殺し合いに参加する。そこで椿麗、毛天籟、夢蘭、黄雲雕の仲間を得、立ちはだかる敵・銭惟演を打ち破る。殺し合いが終わると、杜子春と呼ばれる青年が現れ、真成ら生き残った十二名を含む四十九名で旅に出ると告げる。翌日、再び城内に足を踏み入れた真成は、そこで夥しい数の人骨を目にする。それは蠱毒という呪法に用いられたかつての城の住人であり、真成たちの殺し合いもまた蠱毒のためだったのだ。

詳しくは 「この連載の一覧
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 十七章 死者の帝国

(三)

 しんせいは、まだ眠ってはいない。
 を閉じているだけだ。
 昼にあったことを考え続けているのである。
 すぐ隣には、椿ちんれいが横になって眠っている。その規則正しい寝息が、真成まで届いてくる。
 びようから、青いつぼが発見されたことは、すぐに皆の知るところとなった。しかし、その壺の中に何が入っているのか。それは、誰にも知らされなかった。少なくとも、真成の目の前ではその壺は開けられなかったし、中に何が入っているのかとの真成の問いにも、しゆんは一切答えなかったからだ。
 その壺は、蓋を開けられぬまま、杜子春の天幕に運ばれて、そのまま、誰も見てはいないのである。
 これに関しては、何か知っているはずのちんはんれいも、とうせいも無言であった。
 出発は、明日の早朝である。
 どこへゆくのかということは、誰にも知らされていない。
「兄貴、いったい何があったんだい」
 もどった時、城内へ入ることができなかったおうたずねてきたが、真成は見たままを短く答えただけであった。
「何か、まだ、隠しちゃあいねえかい、兄貴よう」
 答えた後にも、そうかれたが、
「知らん」
 真成は素っ気なくそう言った。
「ふうん……」
 首をかしげながら、王菲は去ったのだが、真成がまだ何かを隠しているのではないかという疑いが消えたわけではなさそうだった。
 椿麗、ぼうらんこううんちようてんらいには、王菲よりも、丁寧に状況を説明したが、王菲に語った以上の何かについて、話をしたわけではない。
 真成と話をした後、王菲は他の仲間のところへ行って何か話しあっている様子であったが、わかるのはそこまでで、真成が語ったことを、彼らにどのように伝えているのかはわからなかった。
 真成とうまくやっていることを、皆に示しておきたいのだろうが、真成が口にしたことをどれだけ正確に伝えているかどうか。
「他にも色々耳にしたんだが、後で教えてやるよ」
「真成の兄貴は、まだ何か知ってるらしいぜ。おめえたちには、知らんと言うだろうが、信用しちゃあいけねえぜ」
「わかったな」
 そんなことを口にしているのであろうが、それは確かめようがない。
 眼を閉じて、目蓋の裏で、真成はそんなことを考えている。
 明日、どこへ向かうのかはまだ知らされていないが、過酷な旅になることは想像がつく。早く眠らねばならないのだが、意識が冷えて、眠気がやってこないのだ。
 ざんけんを両腕で抱え、身体からだの右側面を下にして横になっている。
 椿麗が眠っているのは、背中側だ。
 その時──
「おい……」
 耳元でささやく声があった。
 小さな、低い声だ。
 聴き覚えのある声である。
「わしじゃ、こうじゃ」
 その声は言った。
 鼠公!?
 城を出てから、すっかり忘れていた名前であった。
 眼を開く。
 顔のすぐ前に、鼠公が立っていた。
 頭にかぶりものをして、どうぶくごときものを身にまとっている。
 闇の中で、わずかな月明りが、鼠公の小さな眼に映っているのが見える。
「話がある」
 鼠公は言った。
「答えぬでよい。小便にでもゆくつもりで立って、ついてこい」
 真成は、言われるまま、そっと立ちあがった。
 周囲をうかがうと、椿麗も、夢蘭も、みな眠っている。
「ゆくぞ」
 真成の足元に、二本足で立っていた鼠公が、ちょこちょこと歩き出した。
 その後ろに、真成が続く。
 どこからか、こっちを見ている者がいたとしても、歩いているのは真成ひとりだけで、その前をゆく鼠公の姿まではわからないであろう。

後編につづく
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