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連載

渡辺 優「きみがいた世界は完璧でした、が」 vol.19

親友・ヤマグッチと決別した日野は、突如ザラキを誘ってサバゲーに行くが……。 憧れと狂気が交錯する、青春物語! 渡辺 優「きみがいた世界は完璧でした、が」#7-1

渡辺 優「きみがいた世界は完璧でした、が」


前回までのあらすじ

ゲームオタクの大学生・日野は、偶然訪れたサバゲーサークルの新歓で、かつて熱中していたゲームのヒロインに似た宮城絵茉(エマ)に恋をした。二度告白するも振られ、今後は彼女を遠く見守ることを決意するが、彼女に害をなすストーカーが現れる。犯人を突き止めようと部室に監視力メラをしかけ、後輩女子の榊のランチの誘いも断り調査を優先する日野だったが、エマの男癖の悪さを知り調査をやめると言った親友・ヤマグッチと決別してしまう。

   七

「射線見えた?」
「A4木箱の左ですね」
「まじか。もうそんな来てんの」
「俺左からまわりますよ」
「じゃあ俺はここから狙お」
「お、では」
 バスバスバス、と木箱左に潜んだ敵からの弾が、俺たちが隠れた板の向こう側に着弾しました。向こうにも、こちらの位置がバレているようです。なかなか隙のない射撃をする敵です。開始間もないこの時間に単騎でセンターラインぎりぎりまで攻めてくるプレイスタイルから見ても、腕にそれなりの自信があるのでしょう。
「ゴー」
 隣のおっさんが小声で合図を出しました。低い姿勢で板から身体からだを出し、A4木箱に向けて連射します。俺は敵の射撃が止まった一瞬の隙をつき、左前方ドラム缶へ速やかに移動、距離を詰めます。と、その直後。
「ヒット!」
 援護をしてくれたおっさんがヒットコールを上げました。両手を挙げてフィールドを出て行くおっさんの背中を、じくたる思いで見送ります。ありがとうおっさん、かたきはとる。
 しかし更に移動を重ねようと動線を探る俺の潜んだドラム缶に、BB弾の着弾音が響きました。おっさんをしとめた木箱の陰の敵。俺の移動も見られていたらしい。
 カンカンカン、と、ドラム缶は木製のしやへい物よりも大きな、甲高い着弾音が鳴ります。撃たれている、という圧に、身動きがとれない。しかし動かなければ死ぬだけです。意を決し、更に先の遮蔽物へ向かうため、体勢を整えたそのとき。
 視線の先、センターラインをやや越えた位置にあるフェンスの陰に、味方のあかしである赤のビニールテープを巻いた腕が見えました。身を低くし、木箱の陰の敵への射線を取ったその姿は。
 ザラキ。
 いつの間にそんな敵地にまで。
 カンカンカンカン、と更なる着弾音が響き、俺は首をすくめました。目視はかないませんでしたが、おそらく木箱の陰から射撃を続けている敵。そちらに向け、ザラキがすっと腕を上げ銃を構えるのが見えました。店からレンタルしたどこかチープなハンドガンを、ザラキが今、撃つ。
「ヒット!」
 敵が両手を挙げ高らかにヒットを申告すると、ザラキは左手首の先だけで、ごくごく小さなガッツポーズを決めました。

「どうだった?」
 セーフティエリアに設けられた談話スペース、レンタルの迷彩服から着替え終え一息ついたザラキに、俺はたずねました。
 なにかを振り払うように衝動的にやって来たサバゲー。ちなみに俺は防具もろもろを家に取りに帰る電車代をケチり、レンタル費用もケチり、たまたま持ち歩いていたマイフェイスマスクのみで戦場に立ったので、あちこちにBB弾着弾のとうつうがあります。一番痛むのは近距離での直撃を受けた左小指。まあこれはこれで、装備に恵まれない弱小国家の軍畜設定プレイ、という楽しみ方ができるのでへっちゃらです。
「結構おもしろかった」
「お、マジか」
 ザラキの素朴な感想に、俺も素直にうれしくなりました。サバゲーは最初の一回を楽しめるかどうかでその後が決まります。人生に一度しかない貴重な初サバゲーを、楽しいと感じてくれてよかった。
「ザラキ向いてると思うよ。はじめてでヒット取れるって、なかなか」
「うん」
「ていうか君、なかなか好戦的な性格と見えるね。そんなサブカルな髪型しといて、正体は切り込み隊長かって」
「うん」
 マガジンを抜いたハンドガンをしげしげと眺めながら、ザラキはうなずきます。お、これはもしかして本格的にハマっちゃう勢いで気に入ってくれたのかな? とうきうきしていると、やや離れたテーブルにたむろしていた、今日の後半一緒にゲームに参加していたおっさんの一団から、同じチームで戦ったひとりが近づいてきました。俺らから三メートルほどの距離で立ち止まると、「おつかれ!」とにこやかに声をかけてくれます。
「おつかれさまです」
「ありがとねー、今日」
「いえいえいえこちらこそ。あの、沢山援護してもらったのに活躍できず……」
「いや、もう俺らのとしになるとね、がんがん動かないで援護してた方が楽なんだわ」
 おっさんは額にしわを寄せ、ひとのさそうな顔で笑いました。
「楽しかったよ、またね」
「あ、はい、また」
 去っていくおっさんに、ザラキも会釈を返します。おっさんの一団は自前の装備一式の入った大きな荷物を背負い、楽しげな様子で店を出ていきました。
「いいおっさん」
 俺が考えていたまさにそのままを、ザラキがつぶやきました。そう、今日のサバゲーが和気あいあいとした和やかな雰囲気で終われたのは、後半一緒に遊んだあのおっさんたちのおかげと言う他ありません。おっさんたちは俺らがザコ装備と初心者のふたり組だと見て取ると、せっかく持ってきたガチな装備を置いて、フィールドでの攻め方においても俺らのレベルに合わせてくれたような感があったのでした。みんなで楽しく遊べるように。
「な、ほんと、優しいおっさん」
「うん……なんか、わかった」
「わかった?」
「うん。なんか、サバゲーにはまるひとの特徴っていうか。なんでみんなサバゲーやるのか」
「え、それは」
 魅力の神髄を知った、ということでしょうか。やばいなザラキ、サバゲー本格参入か、と期待してその前髪をのぞき込むと、ザラキは相変わらずの曇った瞳で、「みんな運動部へのコンプが根にあるんじゃない」と、意外なことを言いました。運動部への?
「コンプ? コンプレックス?」
「うん。なんか、チームに分かれてゲームとか、あれじゃん。サッカー部とかバスケ部とか……そういうやつらが楽しんでやってたやつじゃん。休み時間とか、体育の授業とかで。俺らはいっさい楽しくなかったやつ。あいつらマジでなにが楽しくて動いてんだろ、って思ってたけど、今日ちょっとわかった。その、チーム感とか、得点決めたときのアドレナリン出る感じとか。そういうの学生時代に得られなかった層がやってんじゃない? これ」
 彼にしては長い分量を一気にしやべり、ザラキはそこで思い出したように息を継ぎました。
「今日の前半に一緒にやった人達とかさ、あのイキり方すごい懐かしかった。体育の時間にもガチになってすげえウザかった運動部まんまで」
「あ、おう」
 前半に一緒になったのは、後半共に遊んだおっさんたちよりは若い、俺らより十歳かそこら年上とおぼしき大人たちでした。他にもふたり、俺らと同年代らしき、サバゲーデートな雰囲気のカップルが一組いたのですが、大人らはゲームの開始と同時に、俺らふたりやカップルの存在も眼中にない様子で、仲間内で本気のドンパチを繰り広げ始めました。フラッグ戦でもせんめつ戦でも、速やかに動線を取りヒットを取るのは彼らのみ。しかしそれはまあ、まあ、仕方ないことと言えます。客は皆同じ料金を払い、フェアな立場で定例会に参加しているのですから、ガチ勢が本気を出して楽しむことを責める権利など誰にもありはしません。
 しかし確かにそう、ザラキの言う意味もわかります。ヒットを取るたびに、あるいは取られるたびに上がる、自己顕示欲にまみれたアホみたいな叫声。仲間内の悪ふざけで銃口を向けあったり。ハイテンションで、調子が良く、なのに仲間以外とは視線も会話も交わそうとしない、ゲームに組み込もうともしない、排他的な態度。
 体育の時間のおかむらとかがそんなだったな。
 ドッジボールでも、バスケでも、俺らはプレイヤー扱いされてなかった。得点の的か、うろつくモブ。
「でもサバゲーってまず体力いらないじゃん。俺でも普通に参加できるくらいだし……そんな広くもない屋内歩くだけだし、エアガンって大して重くないし、反動もなく指先で撃てるから筋力いらないし。道具に金かけてちょっとコツつかめばくなった気になれる遊びっていうか。だから、学生時代チームスポーツで活躍できなかったやつらが大人になってハマるのかなって思った。あのおっさんたちは良い人だったけど、やっぱ学生時代目立たなかっただろうなって感じしたし。前半イキッてたやつらとか、いい大人なのに中学生みたいだった。なんか、取り戻そうとしてるみたいな」
 取り戻そうと……。
 そのひとことが俺の胸をぎゅっと締めつけ、その苦しさを誤魔化そうと、俺はぐしゃっとした笑顔を作りました。とつに絞り出した返答は、「おう、やだ、しんらつな意見じゃな」とキモい感じの謎の語尾になりました。だって辛辣。あまりにも率直な……。
「え、いや、良い意味で言ったんだけど」
「え?」
「俺らみたいなのでもスポーツの疑似体験できるって……」
「え、いやそれ、めちゃくちゃディスってんのかと思ったよ」
「それは受け取るほうの意識の問題じゃない」
「う、ええ……、そう?」
 まだ苦しい胸をこぶしで押さえながら、俺はザラキの無表情を眺め、返す言葉を探しました。
「いやまあでもさ、ザラキは今日いちにち定例会に参加しただけだからね。目の付け所が甘いと言わざるを得ないのではないかね。ほんといろんなひといるから、サバゲーマーって。本気の本気でやってるひとたちのゲーム見たら、また新たな所感をもつと思いますよ。あの、ほんと、参加するメンツ次第でガラッとかわるから」
みやエマってさ」
「だ……え?」
「こういうコミュニティで憎まれるのわかる気がする。ていうか、憎ませるためにやってんのかなって、思った。ああいうタイプって、憎むとこっちが惨めになる、それが楽しいみたいなとこ」
「いや」
 ザラキの言葉を遮り、俺は、己の下手な笑い顔が更にゆがむのを感じながら、
「それはないでしょ……」
「だってネットで出てきた情報」
「あーうん、それはわかるんだけど」
「あ、あの店員あれじゃない?」
 ザラキは前触れなく話を断ち切ると、ややあを上げて俺の背後を指しました。振り返ると、スタッフカウンターの奥、青い髪の見慣れた顔。
「あ……そうそうそう! ふるしまさん」
「話聞く?」
「おう……行くぜ」
 俺は力強く親指を上げ、ザラキに背を向け足を踏み出しました。
 そう。俺はただ、やるべきことをやるだけです。

#7-2へつづく
◎第 7 回全文は「カドブンノベル」2020年6月号でお楽しみいただけます!


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