秋山寛貴(ハナコ) 人前に立つのは苦手だけど 第7回「笑って欲しくてネタを書く」
秋山寛貴(ハナコ) 人前に立つのは苦手だけど

コツコツ作業するのが好きで、小さいころから慎重派、なのに芸人。
そんなハナコ・秋山が文章とイラストで綴る、ゆるくてニヤリの初エッセイ。
第7回「笑って欲しくてネタを書く」
今日は北海道でライブ。ワタナベの芸人五組で行うライブ。みんなで新千歳空港からバスに乗り、会場である札幌市の道新ホールへ向かう。所要時間約一時間。この間になんとか新ネタ作りを進めたい。
スマホのメモを開く。メモのタイトルが並んでいる。
やることリスト、ネタ8、収録ネタリスト、ハナコ「〇〇」ネタパレ、菊田……。
その中から「ネタ8」を開く。ここには主にネタに使えそうな設定などを書き留めている。ある程度内容が多くなると見にくくなるため、数字を振って新しいメモを作っている、八個目のネタメモだ。
シンバル奏者のドキュメンタリー
アカウントを分けてる人
うるさすぎる居酒屋
飲み込んでないのに飲食店から出てくるおじいちゃん
スペインの飲食店、美味しいと床にゴミ捨てるらしい
ガタガタ揺れる机
ボロボロこぼしながら食べるクロワッサン
喫煙を応援「がんばれがんばれタバコ!」
にんにくが好きなだけのジョブチューンの審査員達
「今やろうと思ってたのに!」
乾燥機終わりの服の山で暖をとる……
このように箇条書きで続いていく。意味がわからない羅列を見せて申し訳ない。設定、見かけたこと、情報、言いたいセリフ、様々なメモが並ぶ。とにかく何でもメモするように心がけている。家族と出かけている時でも、ドラマを見ている時でも。よくメモをするし、してしまう。だがほとんどはネタには使えない。それでも何がいつネタになるかはわからないし、書き留め忘れて後悔したこともある。芸歴を重ねるごとにメモする頻度も増えている気がする。
情景だけをメモしていたこともあった。商店街を歩いていた時、大手チェーンではない商店街ならではの靴屋さんの棚がすっからかんなのが目に入った。いつもびっしり靴が並んでいるはずのそこには点々と十足ほどの靴があるだけだった。妙に切ない気持ちになった僕は、これを何かにしたいとメモした。どう扱えるかわからずも残したこのメモから生まれたのが、ハナコ単独公演「タロウ5」で披露した「終わる靴屋」というコントだ。このコントはメモに残した情景を再現したシーンから始まる。天気は雨。店の横には「六十九年間ありがとうございました」と赤い看板が立てかけてあり……。このコントはタロウ5のDVDで見られるので、ぜひいつか見ていただきたい。情景だけのメモからコントを作れたのはこれが初めてだった。
メモを見返すが新ネタ作りは進まない。進まないときゃ、まー進まない。よくあることである。一旦やめてザ・マミィの単独ライブの配信を見たい。やさしいズたちが出ている「変な日」もTVerで見たいのに見られないでいる。ああ、あの宿題もある……。そうこうしている内にバスは会場に着く。
リハーサルが終わり、本番までの時間もメモを見る。「ネタ7」や「ネタ6」以外のメモも開いてみたりする。「?」というタイトルの雑多なことや日記感覚の内容を残すメモもある。
ある日の楽屋でのパーパーあいなぷぅとの会話が書いてあったり。
あいなぷぅ「トリオのネタってどう書いてますか?」
僕「コンビのネタ書くみたいに書いてる」
あいなぷぅ「話になんない」
ある日の家族三人での花見の時のことが書いてあったり。
花見ですれ違った女性の声。「見てかわいい赤ちゃん〜。え、かわいい赤ちゃん……!」うちの子見てほんとに可愛かった時のリアクションしてた。
ある日聞いた空気階段もぐらの靴についての話が書いてあったり。
もぐらはかたまりの結婚式にダンロップのスニーカーを履いて行ったらしい。以前他の方の結婚式の時は穴の空いた革靴で、中の白い靴下が見えてしまっていたためそこを黒マジックで塗っていた、その時よりはマシだろと。あと「黒のダンロップですから」と黒で乗り切ろうとしてた。
メモを見返すのは楽しいが、新ネタは進まず気が重くなる。そうこうしている内に開演。みんなのネタを見たり、楽屋でファイヤーサンダーが喧嘩しているのを見たり、自分たちのコントで笑ってもらったりで元気が出てくる。
一部の公演が終わり、二部の公演までの空き時間。近くへラーメンを食べに行ったり、少しでも観光をとそれぞれ出て行ってしまい、人が少なくなった楽屋でiPadに向かう。新ネタ作り再開。
新しいカギ収録合間のせいや。お弁当の蓋に「豚」「魚」など中身をマジックで書いてくれてるやつ見る時、雑誌見るみたいに弁当傾けて見てた。それ見た松尾さん「斜めにすんな!汁出るぞ!」
息子がちっちゃいクッパのフィギュア踏んで泣いてた。クッパは痛いね。
有吉の壁を見た感想を喋ってくれてた時のおばあちゃん「おもしろいなぁ思うたけどペケじゃった」
いかん。気づけばまた「?」と題されたメモを見返していた。開いたiPadに触らずただニコニコとスマホを見つめている小柄な男と化していた。これではダメだ。頑張れ。他の仕事もある。やりたいことや見たいものもある。お絵描きしてインスタだって更新したい。帰れば家族との時間も欲しい。
あっという間に夜。新千歳空港。帰りの羽田行きの便を待っている。お察しの通り、新ネタを諦めてはメモを見たり、エッセイを書き進めたりしていた。時刻は夜九時をすぎている。夕方ごろには新ネタもでき、その後このエッセイに取り掛かり素敵な文章を書き上げ、帰りのバスではみんなと和気藹々談笑しながら帰る。はずだった。そう簡単にはいかないものである。「ネタどうやって作ってるんですか?」いまだにこの答えにちゃんと答えられたことがない。どうやったら書けるのだろうか。難しい。でも書きたい。ネタを見て笑って欲しい。ネタ作りに悩んでいる合間に息継ぎのようにエッセイを書いてしまった。申し訳ない。ありがとう。
メモの話になったので最後に、メモ項目「菊田」の中から最近記したメモを。
ロケ中。パスタを食べる菊田。「ゾゾゾゾゾ!!!」と気持ちがいいくらいパスタを啜っていた。晴れ晴れとした育ちの悪さ。快悪。カメラが止まると八つほど年下のマネージャーが菊田に近づき「パスタは啜らない」と躾していた。
今後菊田がパスタを啜っていなかった場合、それは山川マネージャーの功績である。
