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連載

榎田ユウリ「武士とジェントルマン」 vol.12

深夜、おじいさんがいなくなったという連絡が。街で捜索する武士に緊急事態が! 榎田ユウリ「武士とジェントルマン」#3-3

榎田ユウリ「武士とジェントルマン」

※この記事は、期間限定公開です。

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3.The Black Bento

 深夜、その連絡は入った。
 隼人は早寝早起きだし、私もそろそろ眠ろうと思っていた頃だった。布団を敷き、えいが洗濯しておいてくれた、気持ちのいいシーツを張る。隅のしわを指先でシュッと伸ばしていた時、電話が鳴る。隼人はスマホを持ってはいるが、しばしばどこかに置き忘れるため、伊能家では固定電話がまだよく使われているのだ。この電話は廊下に設置されており、私は出ても出なくてもいい。
 この時は出た。夜十一時を過ぎての電話ならば、緊急だろうと思ったからだ。実際、緊急の連絡であり、田中先生の声はとても硬かった。
 ──宙くんのおじいさんが、いなくなってしまって。
 受話器を握ったまま、私は緊張した。
 ──アンソニーさん、今日、隼人先生と一緒に宙くんの家に行かれましたよね? その時の様子はどうでしたか?
 気づくと、背後に隼人が立っていた。髪を下ろした浴衣ゆかた姿の顔が強ばっている。私は「タナカ先生からです」と受話器を渡した。
「もしもし。伊能にござりまする。……いえ、どうぞ、なんなりと。……はい、確かに伺いました。……その折は、多少記憶の混乱は見られたものの、ご健勝なご様子で……はい、宙の話などを。帰り道で宙に会い…………そうです。聞きました」
 情報を共有すべきと思ったのだろう、隼人はスピーカー機能を使った。田中先生の話では、今日の夜、宙は母親に痣の原因を話したそうだ。そして宙が寝た後で、母親は義父にその件を尋ねたという。
 ──問い詰めるようなことはしていないそうです。むしろ遠回しに聞いたと。おじいさんの認知機能の低下については、お母さんも気がついていたそうで、専門医に診せたほうがいいと考えていたようですが……。
 先生は言葉を濁した。宙が話していたように、本人が強く拒んだのだろう。
 ──おじいさんは、痣のことなど知らないと。噓をついている様子はなく、本気で驚き、誰が宙にそんなことをしたんだと、憤っていらしたと。
 しばらくすると落ち着き、そのあとはいつも通りに床に入ったはずなのに、気がついた時には姿が消えていた。それが十時半くらいだったという。すでに警察には連絡し、親しくしているご近所と、田中先生、宙の母親で捜しているそうだ。
 私と隼人も合流することにした。
 隼人は、ざんばらだった髪を簡単に後ろでくくり、支度の時間すら惜しんで、浴衣のまま外に出た。私はパジャマのままというわけにはいかず、急いで着替えて隼人を追う。あのご老体は膝が悪いのだから、そう遠くには行っていないはずだ。
「駅」
 隼人が言った。
「駅のほうを捜しまする。以前いた家に、帰ろうとしているやも」
「しかし、もう遠距離の電車は……」
 私は途中で言葉を止めた。認知症ならば、そういった論理的な判断は期待できない。まず最初に駅まで急ぎ、構内を捜す。それらしき人はいなかった。駅員に事情を話し、荷物を持たない高齢の男性がいたら声をかけてほしいとお願いしておく。とはいえ、夜遅くでもある程度の乗客が行き来する駅だ。必ず見つけられるとは限らない。
 その後は、宙の自宅と駅を結ぶ経路を捜すことにした。
 線路沿いは桜並木になっている。花はいよいよ終わりで、街の淡い闇の中、音もなく散り続けていた。昼の朗らかさは消え、どこか不穏な夜の姿へ……桜は大きくその印象を変えてしまう。もちろん桜そのものが変わるはずもなく、私たちの心の持ちようが変わるのだ。
 小走りを続ける。息が上がり、苦しい。走りながらあらゆる方向に気を配り、宙の祖父を捜しているのだから、疲れはいっそうだ。私は隼人より十も上で、完全なインドア派で本の虫だからなおさらだ。どんどん距離が開いてしまう。
「森田殿! いずれか!」
 桜が降る。
 浴衣の裾を乱し、隼人は走る。
 周囲が暗いせいか、すねの白さが妙に目立っていた。着物とぞうでよくあれほど走れるものだ。線路沿いを抜けて、大通りへ出た。片側二車線の幹線道路は、深夜でも交通量が結構あり、輸送業のトラックなども目立つ。ヘッドライトがいくつも行き過ぎる中、さすがの隼人も、いくらかスピードが落ちてきたようだ。
 ──厳しかったけど、愛情がなかったわけじゃない。いや、たぶんすごくあったはず。
 頼孝の言葉が思い出される。
 ──なんだかんだでじいちゃん子だったんすよね、あいつ。だから今でも、じいちゃんの理想の武士であろうとしてるんじゃないかな。
 隼人は、宙の祖父に自分の祖父を重ねているのだろうか。
 必死、ともいえる隼人を見ると、そう思えてならない。宙の祖父も武士びいであり、なかなか頑固そうだった。隼人の祖父と似ている部分があったのかも…………。
 急に隼人が立ち止まった。
 顔を横に向け、ある一点をほんの二秒ばかり見つめたかと思うと──はじかれたように、再び駆け出す。というより、飛び出す。
 道路へ。
 信号を無視して。
 それはあまりにあっという間のことで、声すら出なかった。
 驚いた時、日本語では『心臓が止まりそう』と言い、英語にも同じような表現がある。私の鼓動もまた、瞬間停止したように思えた。それくらいびっくりした。頭の中が真っ白になって……あるいは真っ黒に? とにかく思考は完全に停止し、身体は凍った。
 心を裂くようなブレーキ音に続き、後続車両がけたたましくクラクションを鳴らす。
 その音に、ようやく私は我に返った。二台のバンと一台の軽自動車が停まり、歩行者や、目の前の飲み屋から出てきた人々で騒然としている。私は何人かにぶつかりながら、道路へと走り出る。隼人の名を呼びたかったが、情けないことに声はまだ出ない。
 隼人はアスファルトの上に倒れていた。
 センターラインよりはだいぶずれた位置で、うつぶせている。私が声の出し方を思い出すより早く、隼人の頭が動いた。ゆるゆると顔を上げ、周囲を確認している。額から血が少し流れ、私はその赤に動揺した。
 やや離れた位置に、宙の祖父がへたり込んでいた。薄青いパジャマを着たご老体は「いたい、いたい」とあわれな声を出していたが、少なくとも命に別状はなさそうだ。
 隼人は彼を見つけると、脱力し、再び頭を落とす。
 けれど私がすぐ横に膝をつくと、また顔を上げてこちらを見た。
「……大事ござらぬ」
 ボソリと言った。
 そしてゆっくりと動き出し、立った。ちゃんと、立てた。
 隼人たちをきかけたバンの運転手も出てきていた。隼人とご老体を見て、「カンベンしてくれよ、もう……」とすっかりろうばいした様子だ。
「あ、あのおじいちゃんがふらふら道路に出てきたんだよ……こっち、信号、青だったもん、そりゃ走ってるよ、せ、制限速度内だったと思うよ? 俺、もう、ブレーキめいっぱい……でもじいちゃん、立ち止まってこっち見てて、うわあって……そしたら、このサムライが……」
 反対側の歩道から、宙の祖父に体当たりして突き飛ばしたのだ。
「ひ、ひ、轢いたかと思ったじゃんかよぅ~」
 彼はへなへなとその場に座り込んでしまった。
 ひとりの女性が「わたし看護師です~」と歩み出てくる。頰が赤くなっているところを見ると、すぐそこの飲み屋から出てきたのかもしれない。
「車に接触はしてないんですよね? 頭は打ってませんか? うん、お名前教えてくださいますか~? はい、森田さんね、呼吸、苦しくないです?」
 顔は赤いがさほど酔ってはいないらしい。的確に質問しながら、脈拍なども確認している。
「ほかに痛いところは? ああ、ここは転んだ時に擦っちゃったんですねえ。じゃあとりあえず歩道まで移動しましょうか。はい、あなた、手を貸してあげて。あと警察と救急手配ね」
 宙の祖父は運転手に支えられ、よろよろと移動する。
「さて、こっちは武士の人。あー、まだ立たないでほしかったなー。……おっと、オデコ擦ってるね。お名前は?」
「……伊能隼人と申しま……っ……」
 さすがに背中の丸かった隼人は胸を張ろうとしたが、途中で息を詰めて固まる。
「ん? 肩、痛い?」
「……たいしたことは…………」
「ほんと?」
「……いッ!」
 肩を軽く押され、隼人がうめく。
 ほろ酔い看護師は「脱臼かなー」と小首をかしげた。

 結論から言えば、宙の祖父は擦り傷と軽い打撲のみだったが、血圧がかなり高く、脱水症状も起こしていたため、そのまま入院となった。
 隼人は何カ所かの擦り傷と、肩の脱臼。ただし手術が必要なものではなく、整形外科医に整復してもらったらしい。警察が病院まで話を聞きに来て、隼人は「反対側の歩道から道路にフラフラと出てきた森田さんを見つけ、保護しようととつに自分も飛び出した」と語った。一部始終を見ていた私も聴取を受け、隼人の言葉に間違いはないと証言した。
「なるほどね。いやー、若さんの献身ぶりには感心するけど、びっくりしましたよ。ほんと無事でよかった」
 隼人と顔なじみらしい若い警察官は、苦笑しつつそう言った。
「献身……」
 病院の待合室、長椅子にぐったりと座って私は呟いた。確か、commitmentとかaltruisticとか……そんな意味合いだったはずだ。なるほど、隼人の行為は他者に傾倒し、他者の命を優先するものだった。
「Nonsense」
 その発言がその場に適切かどうか考えるより先に、口に出してしまっていた。言ってしまってから、不穏当だったと気づいたがもう遅い。母国語で口走ったものの、恐らくその単語は容易に聞き取れたはずだ。隣に座っている隼人は無表情なままだったが、私たちの前に立っていた警察官は、はっきりと戸惑う顔を見せた。
「アンソニーさん?」
「失礼。タテマエではなくホンネがこぼれてしまいました。ですが、私から見ればハヤトの行動はナンセンスです。献身だとしても行きすぎてます。タイミングが少し違っただけで、二人とも大怪我をしていたかあるいは」
 死んでいたかもしれないのだ。
 そんな不吉な言葉は口にしたくなかったので、私はそのまま黙り込んだ。警察官は「おっしゃる通りです」とまた苦笑いを見せる。
「ですが、まあ、今回は二人ともご無事でしたし」
「たまたまです」
「ええ、まあ……。若さんは、ほら、武士ですから。身を呈して人を守るのにためらいがないんでしょうねえ」
「仮にそうだとして、それが正しいというのですか? 武士は自分を犠牲にするべきだと?」
 私の問いに、警察官は「正しいかどうかは……その……」と少し狼狽うろたえている様子だった。隼人がちらりとこちらを見た。いつもと変わらない顔だったが、なんとなく責められている感触があり、私は深呼吸を一つした。自分でも心の乱れを感じていたので、警察官に「すみません」とびる。
「私は少し動揺しているようです」
「無理もありません。本当にもう少しで大きな事故になるところでしたから」
 気のいい警察官はそう返し、さらに隼人を見て「若さん、ほんとに気をつけてくださいね」と言い添える。隼人は「かたじけない」と小さく頭を下げた。
 田中先生も病院まで来てたので、帰りは先生の車で送ってもらった。先生は宙の祖父が無事だったことを喜び、隼人の怪我を心配してくれたが、今回の、いわば英雄的無謀については触れなかった。
 車の中、私と隼人の会話は皆無だった。
 帰宅してからも同じである。「おやすみ」の挨拶すらなく、お互い押し黙ってそれぞれの部屋に行き、床についた。
 翌朝私はいつもより遅く起きて、朝食の時間をずらした。隼人に何を言えばいいのか、自分の中で整理がついていなかったからだ。だからといって、昨日の気まずい雰囲気などなかったかのように振る舞う器用さは持ち合わせていない。昼からは大学の講義があり、その夜はほかの講師たちと居酒屋に赴き、枝豆ばかり食べて、帰宅したのは十一時過ぎだった。隼人はもう休んでいたようだ。
 さらにその翌日──つまり今朝は、二日酔いで寝過ごした。
 私は体質的にアルコール耐性が高いようで、なかなか酔わない。さらに、酔っ払って判断力や自制力を低下させるのは好きではないので、飲む機会はそれほど多いわけではない。それでも昨日は飲んだ。いわば憂さ晴らしの酒だったので、酔う必要があった。口当たりのいい日本酒は、私の予想より強く作用したようだ。飲んでいる間に我を忘れるようなことはなかったものの……。
「翌朝ガツンときたわけね」
「…………はい」
 額に冷却ジェルシートを貼ったまま、テーブルにひじまでついただらしない姿勢で私は答えた。栄子が「ポン酒は結構クるからねー」と笑う。
「……頭痛が……痛い……日本にKool'n' Sootheがあってよかった……」
「いや、それもともと日本だよ。小林製薬だもん。ほら、スポドリ薄めたから飲んで。ちょっとずつね」
「あ……りが……ござ、ます……」
 だるさの中で礼を言う。ああそうか、こうして『ありがとうございます』が『あざまーす』になっていくのだなと、またひとつ日本語への理解が深まる。
 昼過ぎ、ようやく起きられるようになった私は、栄子に一昨日おとといてんまつとその後を話した。どう見ても二日酔いの私と、いつもよりさらに口数が少なかった隼人を見て、栄子はなにかあったと察したらしい。「さ、吐きなさい」と詰め寄られれば白状するしかない。
「ま、隼人さんっぽいよね」
 自分のランチであるおにぎりにかぶりつき、栄子は言う。さっき作ったばかりなので、かじり口から湯気がふわぁと立ちのぼった。私もおにぎりは好きなのだが、まだ固形物の摂取は無理だ。
「あんなことをしていたら……命が……いくらでも必要……?」
「いくつあっても足りない」
「それです。誰かを助けることと、自分を乱暴に扱うことは違います……」
「あたしもそう思うよ」
「でもハヤトは……イタタ……」
 誰だって、人を助けたいという気持ちはある。特別な善人ではなくとも、人間は基本、他者を助けようとするものだ。可愛げのない見方をすれば、それはヒトという生き物の戦略なのだ。集団社会を作り、助け合うことで生存率を上げる戦略を持ち、進化してきたわけである。それにしたって、隼人は度を越している。
「そもそも……ああいう場面では……足がすくんでしまうと思うのです。でも隼人は、私の見る限り、まったく迷いなく飛び出して……」
 私はそれが怖かった。
 あのためらいのなさ、迷いのなさ、いっそ軽やかと言いたくなるほどの走り出し。
「……武士は、死を恐れないのでしょうか……?」
「んー、『武士道とは死ぬことと見つけたり』みたいな?」
「葉隠、ですね」
「うわ、なんで知ってるの? アンソニー、日本オタクとか武士オタクとかじゃなかったよね?」
「ヨリから聞いたんです。英語版も見つけましたがまだ読めていないので、その言葉の意味がわからず、モフ……モヤモヤしたままです」
 栄子は指先についた米粒をめ取りながら、「ヨリちゃんはなんて?」と聞いた。
「読んでいないからよくわからないと」
「あー、あの子らしいねえ。あたしは一応読んだけど……」
「読んだのですか?」
「うん。読んでみた。まあ、歴女もちょっとたしなんでるし」
「レキジョ?」
「話長くなるから、今度説明するね。とにかく、読んではみたけど、やっぱりよくわからなかったのよねー。長いから途中離脱しちゃったし……」
 その言葉に私はやや落胆した。日本人であり、充分に賢明smartな栄子に理解できないのだとしたら、外国人である私にはもっと無理なのではないだろうか。
「ただ、予想してたような、勇ましい意味じゃなかったような……。しまの捨てがまりみたいなのとは違ってた」
「ステガマリ?」
「戦場で退却する時、チームの一部がとどまって犠牲になり、味方を逃がす戦法、だね」
 それは果たして功を奏したのだろうか。気にはなったが質問が続くと話が進まないので、あとでググるためにメモだけしておく。SUTEGAMARI。
「葉隠が書かれた頃って、もう戦国時代じゃないもんなあ。だから、どっちかというと、主君に徹底して忠を尽くすとか、武士として恥ずかしくない生き方とか、そういう内容だったような……いつ死んでもいいような気持ちで、日々仕事に励みなさい、みたいな」
「つまり、本当に死ぬとかではなく、心構えの問題……?」
「そうね。とはいえ、当時はまだ切腹とかあったからねー。昨今の『死ぬ気でやれ』みたいな精神論とはまた違うんだろうけど……なんか……とにかく、生きるか死ぬかという時、武士なら当然死を選べ、みたいな……」
「なぜです? 生を選ぶべきなのでは?」
「死を選ぶ『覚悟』をしておけ、みたいな……? ごめーん、あたしもちゃんとわかってるわけじゃないからさあ」
「ハヤトはわかっているのでしょうか」
 だから、ためらいなく道路に飛び出せたのだろうか。覚悟とやらが、できているから?武士道とは死ぬことと見つけたり、だから?
 わからない。正直、さっぱりわからない。
 私が外国人だからわからないのか。あるいは私が武士ではないからわからないのか。いや、もっと個人の問題なのか。つまり私が伊能隼人ではないからか? だとしたら一生理解することは不可能ではないか。
「……他人のことを簡単に理解できるとは思っていませんし」
 自分の中に湧き起こっているモヤモヤの名前を探しながら、私は栄子に言った。
「理解しなければいけない、とも思っていません。それは、もしかしたら傲慢な考えかもしれませんし。けれど、今回のハヤトの件についてはどうにも納得がいかないのです」
 あれはまるで自殺だ。口にこそ出さなかったが私はそう思っていた。そんな行為をした隼人に落胆したのかもしれない。短い期間とはいえ、一緒に暮らす中で、私は隼人の自己管理能力を評価していた。まだ若いのに感情に振り回されることなく、自分をきちんと律していて、とても感心していたのだ。その彼が、あんなにも無謀な行為に及んだことに、がっかりした。もちろん、隼人が私の思った通りの人間でいなければならない、などということはなく、私が勝手に彼を理想化していたのかもしれず、だとしたら愚かなのは私のほうということになり…………。
 だめだ。
 いくら考えても、モヤモヤがグルグルに変わるだけである。
「二日酔いの頭で考えても、無駄じゃん?」
 栄子が私に真実を突きつける。
「聞きゃいいんじゃない? 本人に。なんであんな無茶したのかって。危ないじゃないかって」
「それは聞くというより、叱っているのでは……」
「あ、そっか。……でも、まあ、いいんじゃない? 聞くついでに叱れば。隼人さんが危ないことしたのは本当なんだし。おまえ、なんであんな無茶しやがるんだ、見てるこっちがビビりすぎて心臓止まりかけただろうが、自己犠牲にもほどがあるだろ、救世主にでもなったつもりか、いいかげんにしやがれこのクレイジーステューピッドサムライが! って」
「いや、いくらなんでもcrazy stupid SAMURAIなどとは……」
「ごめん。ちょっと言いすぎた。でもFワードは我慢しといたよ?」
 確かに、と私は笑う。栄子はこんなふうに、人をリラックスさせるのがうまい。
「もしかして、エイコは怒っていますか?」
 栄子はにっこり笑い、「あったりー」と答えた。
「もしあたしがその場にいたら、隼人さんの無事を確認したあとで、二、三発平手打ちを食らわせてたね。こう、パンパァーン、って」
「……なんとなく目に浮かびます」
「まったくもー、ヒヤヒヤさせんなっつーの。ねえ」
「はい」
 私は深々と頷く。
「でも今回は、アンソニーに叱ってもらうから、ただの家政婦であるあたしは黙っておく」
「そんな。エイコはただの家政婦ではないと思います。ハヤトはあなたをとても信頼しています。姉のように思っているかも」
 ありがとう、と栄子は微笑ほほえんだ。そして、
「いいものを用意してあげるから、夜までに二日酔いを治しなね」
 二個目のおにぎりをつかみながら言った。

#3-4へつづく
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