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連載

湊かなえ『ブロードキャスト』 vol.2

湊かなえ初の試み!『ブロードキャスト』を期間限定で全文無料公開!#2

湊かなえ『ブロードキャスト』

新型コロナウイルスの影響で、長い期間外出を控えて過ごす多くの方に向けて、湊かなえ著『ブロードキャスト』を期間限定で全文無料公開! 高校放送部を舞台に熱き人間ドラマを描いた著者初の青春小説で、素敵な読書体験をお過ごしください。毎日朝と夕方の2回、10日間かけて公開していきます!

>>前話を読む

 ◆ ◆ ◆

僕は県大会のことで頭がいっぱいで、そのあとのことなどまったく考えていなかった。受験勉強をして、自宅から近い公立高校で、陸上部に入るのかどうなのか……。
 ところが、良太はとんでもないことを言い出した。
 ――圭祐も、青海学院行こうよ。陸上部でまた一緒に走ろう。
 僕はぽかんと口を開けたままの、間抜けな顔で、良太を見返したはずだ。
 ――いや、いや、いや……。僕が青海学院なんてありえないよ。第一、良太みたいに推薦の話だって来るはずないし。
 ――一般入試で入ればいいじゃん。
 ――いや、それだって……。
 青海学院はスポーツに特化しているだけの学校ではない。
 人間科学科という、全員がスポーツ推薦で入るコースの他は、名称こそ文理科という単純なものだけれども、超がつくほど偏差値が高い。県内有数の進学校でもあるのだ。
 ――圭祐の成績なら、この冬からスパートかけたらいけるよ。
 ――そうかな。でも、授業料がな……。
 通学できない距離ではない。しかし、公立の三倍かかるといわれる授業料を、母さんに負担してもらうのは気が引ける。
 ――奨学金制度もあるらしいよ。
 前から、僕のために調べてくれていたような口ぶりだ。それでも、まだ抵抗はある。
 ――あのさ、良太が誘ってくれるのは嬉しいけど、僕じゃなくてもいいんじゃない? 青海入ったら、速いヤツ、いっぱいいるわけだし。
 謙遜ではない。そもそも、僕なんか、青海学院に受かっても、陸上部に入れてもらえるかどうかすらわからない。
 ――全国大会を目指してるチームの選手が何言ってんの?
 ――あっ……。
 県大会に出ない良太にとっては、中学での活動は、長い陸上人生の通過点。そんなふうに勝手に解釈し、県大会で走る自分にとっては、陸上人生のゴールだと、無意識のうちに決めつけていた。
 ここがマックス。人生のベストタイム。
 良太が言っていたことと同じ思いを、僕こそが持っていた。だから、良太は僕に、次の道を示してくれているのか。
 ――圭祐はもっと速くなる。
 ――そう、かな……。とりあえず、県大会でベストを尽くすよ。
 嬉しい! ありがとう! そんな単純な言葉を口にすることができず、僕は確実にできそうなことだけを言って、自転車のハンドルを強く握りしめた。
 良太はそれを、帰ろう、の合図だと勘違いしたのか、「じゃあ」と自転車にまたがった。
 互いに無言のまま自転車を走らせる目の前には、真っ赤な夕焼けが広がっていた。
 ペダルを一漕ぎするごとに、全国大会に行けたら、青海学院に行って、陸上部に入ろう、という思いが強まっていった。

 バスの中にはどんよりとした空気が漂ったままだ。
 あの日のことを思い返しながら、僕はもう一度、村岡先生の方を見て、それから、良太の方を見て、目を伏せた。
 全国大会を逃した悔しさで忘れていたけれど、今日で引退ということになる。明日から何をするのだろう。
 青海学院を目指して勉強に励む、という選択肢も僕の中から消えた。母さんにまだ相談していなくてよかった。
 母さんはバスの一番後ろの席に、他の保護者たちと並んで座っている。行きは、おやつなんかを食べながら、駅伝とは関係ない話で盛り上がっていたけれど、今は、おしゃべりをしている人など誰もいない。
 下手な慰めの言葉をかけられるよりは、静かな方がマシだ。母さんからは、バスに乗る前に「お疲れさま」とひと言、泣き笑いのような顔で声をかけられただけだ。
 学校に着いて、村岡先生の総評を聞き、解散してから、みんな、それぞれ本当の感情を表すのではないかと思う。
 と、後ろの席から、すすり泣きが聞こえてきた。振り返らなくても、二年生の田中の声だとわかる。
 僕自身も悔しい思いでいるのに、どうして泣いているんだろうと、なぜか、冷めた気持ちで受け止めてしまう。
 病気の父親に、全国大会に行く報告ができなくなったことを悲しんでいるのだろうか。それとも、先生が自分ではなく、山岸良太先輩を選んでいれば、全国大会に行くことができたかもしれないのにと、申し訳ない気持ちでいるのだろうか。
 と、今度は別の席からすすり泣きが聞こえてきた。二年生のエース、僕以外の三年生の選手たちへと、連鎖反応のように、泣き声が広がっている。
 それらを聞きながら、僕の中で膨れ上がっていくのは、良太がとか、先生がとかではなく、やはり、あと三秒速く走れていれば、という思いだった。
 結局、自分に一番ムカついているのだ。
 僕の目にも涙が込み上げてきた。
「泣くって、おかしいよ」
 突然、声の響いた方に顔を向けると、良太がバスのシートから立ち上がり、振り返っていた。ゆっくりと皆を見渡す中、僕とも目が合った。
「走ってない俺が言うのもおかしいけど、泣くような結果じゃないよ。こういうのは、学校に着いたら、先生が話してくれることなんだろうけど……」
 良太は言葉を切って、村岡先生を振り返った。先生が良太に小さく頷くと、良太はまた僕たちの方を向いた。
「あと一八秒だったのは悔しいだろうけど、アップダウンが続く坂道だらけの難コースで、みんな、自己ベストに近いタイムを出したじゃないか。それで堂々の県大会二位。過去最高記録だよ。誇りに思おうよ。それでも悔しいなら、明日からまたがんばればいい。もしかすると、俺を全国大会に連れて行ってやれなかった、なんて悔やんでる人もいるかもしれない。……いや、いないか」
 良太はそこで、表情の薄い彼なりに、少しおどけるような顔をして笑ってみせた。だけど、すぐに真顔に戻る。
「仮にいたとして、それは余計なお世話だから。そもそも、先生とか家族を連れて行くって言うならわかるけど、現役の選手に対してそんなことを思うのは、失礼じゃないかな。俺は高校に入っても、長距離を続ける。そして、自分の力で全国大会に出場する」
 一人分の大きな拍手が上がった。確かに、良太の決意表明に対しては、拍手を送りたい気持ちだけど、このタイミングでは、話を中断させてしまうだけだ。
「やめてよ、父さん。途中なんだから」
 良太が小声で、通路を挟んで隣に座っているおじさんを窘めた。
「うん? そうなのか?」
 おじさんは大きな声でそう返すと、わざとらしい咳払いをしてから、通路越しに振り返り、失礼しましたと言わんばかりに、笑顔で皆に頭を下げた。良太の言葉はもちろんだけど、冷めた良太と暑苦しいお父さん、この対照的な二人の姿がおかしいのか、バスの中のどんよりとした空気は薄くなっていた。
「邪魔が入ってゴメン。……だから二年生、一年生は、来年こそ全国大会に行ってほしい。多分、このあいだの地区大会くらいまで、いや、もしかすると、今日の結果が出るまで、全国大会なんて自分たちには無理だって思ってた人もいるんじゃないかな」
 良太は部員たちを見渡した。僕を含め、図星を指されたとでもいうように肩をすくめた選手がたくさんいるはずだ。
「だけど、今はそんなふうに思っていない。すごいことだよ。強い自信を得ることができたのに、泣いちゃダメだ。自信が敗北感に飲み込まれてしまう」
 良太の言う通りだ。走り終えた直後、僕は達成感に包まれていたはずなのに、その感覚は体の中から消えていた。
「三年生はもう引退だけど、高校行っても陸上やろうな。同じ学校で仲間になるヤツにも、他校でライバルになるヤツにも、三崎中のメンバーがいるって、俺は信じてるから」
 良太は最後、僕の方を向いて頷いたような気がしたけれど、視界がにじんでよくわからなかった。涙は止まっていたはずなのに、悔し涙とは別の涙が込み上げてくる。声を上げて泣き出したのは、やはり田中だった。
「なんか、お疲れのところ、長々とゴメン」
 良太は小さく頭を下げて、シートに座った。
 また一人分の拍手が上がる。良太のお父さんだ。しかし、今度は後部座席からも複数の拍手が起きた。
「お疲れさま」
 母さんの声だ。「よくがんばったぞ」などと、応援に来ていたOBや保護者たちから次々と声が上がる。
 僕はふと、村岡先生の方を見た。良太の言葉をどう捉えたのだろう。帽子をかぶった後ろ姿からでは、やはり、わからない。だけど、先生のことはもうどうでもよかった。
 青海学院高校を目指そう。僕は改めて、そう決意した。
 陸上部の練習と同じくらい、死ぬ気になって勉強しなければ、合格できないかもしれない。母さんに許可してもらえるよう、ちゃんと気持ちを伝えなければならない。
 努力の先に、きっとまた良太と駅伝で全国大会を目指せる日が来る。
 僕はそう強く信じていた。

第1章 オンエア

 桜の花は春休み中に散っていたので、入学式らしいものといえば、正門に立てかけられた「青海学院高等学校 入学式」と書かれたシンプルな看板くらいだった。
 めでたさも華やかさもない。そして、夢も希望もない。僕の高校生活を暗示しているかのようだ。
 高校生にもなるとさすがに母さんも、二人並んで写真を撮ろうとは言い出さなかった。看板横があいた隙に、「速く速く」と僕を急かして立たせ、スマホで数枚写した。
 画像を確認し、満足そうに頷いている。その様子をぼんやり眺めていると、五、六人の男女を交えた上級生がバッと寄ってきて、「よろしくね」などと言いながら、僕の手にザラ紙を押し付けてきた。
 部活動の勧誘チラシだった。サッカー部、バレー部、書道部、吹奏楽部、放送部、陸上部……。僕はそれらを全部まとめてぐしゃぐしゃに丸め、新品の制服のブレザーのポケットに押し込んだ。
「何か食べて帰る?」
 横から、明るい口調で母さんに訊かれた。
「午後から出勤じゃなかった?」
「フルコースさえ食べなきゃ、大丈夫よ」
 明らかに、僕を気遣ってくれているとわかるのがつらい。
「でもな……」
 僕は足元に目を落とした。新品の黒い革靴が、妙に浮いて見える。
「町田くん!」
 突然、背後から声をかけられた。振り返ると、見憶えのあるヤツが立っていた。名前は思い出せない。入試の会場で、僕の二つ後ろの席に座っていた……。
「三崎中出身の、宮本正也です」
 そう、宮本! 僕が名前を憶えていないことを悟って、わざわざ母さんに自己紹介してくれたのだろうか。
「あら、お友だちが、他にもいたのね」
 母さんはそう言って、嬉しそうに、宮本に「何組なの?」などと話しかけている。
 友だちじゃない、と訂正はしない。同じ中学出身という広い意味で「友だち」と言っていることはわかっている。
 それより、他にも、の方が気に障る。良太くん以外にも、と言えばいいのに。
 良太は春休み中から陸上部の練習に出ていたのか、今朝、偶然、この門の前で会ったときも、上級生のように慣れた様子で、体育館の場所を教えてくれた。
 お気に入りの「カモシカくん」に会えたというのに、母さんは「入学おめでとう」と笑いかけただけだった。陸上の「り」の字も出していない。
 良太も同じで、「ありがとうございます」と答えただけだ。そして、僕に言った。
 ――また、いろいろと、よろしく。
 いろいろ、とは何だろう。便利な言葉だ。近頃の僕に対する周囲からの声かけは、こんな曖昧な表現ばかりが使われる。
 目指せ全国大会! と周囲も自分も、明確な目的を口にしていたころが何年も前、はるかに遠い日のように感じられた。
 ――こっちも、いろいろと、よろしく。
 僕は良太にそう返した。そして、クルッと背中を向けて軽快に走っていく良太を見つめながら後悔した。どうして「部活、がんばれよ」と言わなかったのか、と。
 僕がこんな調子だから、気を遣われてしまうのだ。良太にも、母さんにも……。
「宮本くん、家の人は?」
 少し辺りを見回して訊ねた。
「俺の親、来ていないんだ」
 宮本は愛想のいい口調で答えたけれど、軽率な質問だったかもと、今になって気付く。
「今日って、妹の、三崎中入学式だから、そっちに行ってるんだよ」
 僕が思ったことを顔に出しやすいのか、宮本の勘がいいのか。とにかく、なんだそうか、と安心した。そして、高校では、学校行事に必ずしも親が参加する必要はない、ということに思い至った。
「そっか。じゃあ、昼飯、一緒に食べない?」
 自分から誰かを誘うのは、もしかすると人生初ではないだろうか。デートではなく昼飯で、おまけに相手は男子だけど。
「いいけど、お母さんは?」
 宮本は遠慮がちに母さんの方を見た。
「いいのよ。友だち同士の方が楽しいに決まってるじゃない。迷惑じゃなかったら、付き合ってやって、ね」
 母さんはそう言うと、両手をひらひらと振りながら、足早に去っていった。
「ホントによかったの?」
 宮本に訊かれる。
「午後から、仕事だから」
 とっさに、宮本を誘ったものの、何を食べて、どんな話をするのか。
 とりあえず、駅に向かうことにした。

 ファストフードのハンバーガーショップで定番のセットメニューを注文した。
 周囲は青海学院の新入生ばかりだ。親と一緒のヤツなんてほとんどいない。芸術の選択科目を何にしたかという会話が聞こえてきて、僕も同様のことを宮本に訊ねた。
 とはいえ、クラスも違うし、同じ科目を選んでいても、一緒だね、と喜ぶ気持ちは湧かない。互いに、へえ、と興味なさそうに返すだけだ。
 友だちらしい会話といえば、宮本から「くんを付けなくてもいいよ」と言われ、「僕もいいよ」と返し、互いにぎこちなく呼び捨てし合うようになったことくらいか。
 時折、僕が話している途中で、宮本が目を閉じるのが気になった。きっと、退屈なのだろう。食べ終わったら速攻で解散だな、などと思いながら、フライドポテトをまとめて数本口に運んだ。
「ところで、町田は部活、もう決めた?」
 耳を疑った。正面からミサイルが飛んできたような衝撃だった。
 母さんも良太も入るのをためらっている領域に、宮本はポテトを片手に、呑気な口調で踏み込んできた。
 ポテトをほおばっていたおかげで、すぐに答えずにすんでいるけれど、自分は今どんな表情になっているのか、見当もつかない。
「中学のときは、何部だった?」
 宮本が呑気さに輪をかけて訊いてくる。
 しかし、ふと、肩からボトリと何か重い塊が落ちたような気分になった。
 宮本は僕が陸上部だったことを知らない。僕も宮本が何部だったかを知らない。
 互いに、青海学院を受験した理由も知らない。
 スポーツ推薦ではないのだから、青海学院に入学した理由を、一流大学への進学が目的だと思われる方が自然だ。
 宮本から、同情されることはない。
「陸上部、だったけど」
「そうなんだ……。あっ!」
 宮本はハッとしたように、フライドポテトの油で指先がテラテラと光る片手で口を押さえた。
 あのことは知っているのだろう。
「ゴメン。失礼なこと訊いたかも」
「何で?」
 とぼけた調子で訊き返した。
「町田って、卒業式、松葉杖で来てたよな。確か、交通事故に遭ったって」
「そうだけど」
 合格発表の帰り道、自転車で青信号の交差点を直進していると、ものすごい勢いで自動車が右折してきて、僕の意識はぶっとんだ。
 意識が戻った僕の目に、最初に飛び込んできたのは、ギプスで固められた足だった。
「杖なしで歩いてるから忘れてたけど、もう大丈夫なの?」
「まあ、ぼちぼちかな」
「そっか。もし、陸上とか、何かスポーツしたかったのに、ケガのせいで、なんてことになってたらと思ってさ……」
 本当に勘のいいヤツだ。僕の左足にはボルトが入っている。
「いや、いや、いや。事故とか関係なく、運動部なんて最初から考えてなかったから。スポーツ推薦で、どの種目も県内の精鋭が集まってきてるのに、そこに交ざっていける根性なんてないよ」
 入学前から、必死で自分自身に言い聞かせていたことを、他人の前で口にしてみると、事故に遭う前からそう思っていたような気分になれた。
 同時に、自分がどうしようもなくつまらない生き物のように思えてきて、魂が蒸発していくのをぼんやり眺めるように、ガラス越しの空を見上げた。
「根性ね……」
 宮本は僕に同調するようにつぶやいた。コーラの入ったLサイズのカップを取り、ズズッと音を立てて飲み干す。
 互いのトレイの上は紙くずだけになり、そろそろ解散の頃合いだ。
「でもさ!」
 宮本がカップを置いた。手際よく、自分のゴミと僕のゴミをひとまとめにすると、二枚のトレイを重ねて、脇へ寄せる。
「中学のときは、吹奏楽部以外、よほどの理由がない限り、運動部に入らなきゃいけないって空気が流れてたけど、高校って、そういうの感じないよな」
 宮本は声を若干弾ませて言った。
「そうかな……」
 僕だって、交通事故後、高校生活を一度も前向きに考えなかったわけではない。
 部活動は必須ではないけれど、スポーツ以外の何か新しいことを始めてみようと思い、青海学院の入学案内に記載されている、文化部をチェックした。
 音楽が好きだから、軽音楽部はどうだろうと考えてみたものの、歌う自分も、楽器を演奏する自分も想像できなかった。好きな歌と一緒に思い浮かぶのは、それを聞きながら走っている自分の姿だけだ。
「俺はさ、入りたい部活があるんだ。そのために、青海、受けたようなものだし」
 宮本のまっすぐな物言いに、ピキン、と音が聞こえたような気がした。テーブルを挟んだ二人の間にひびが入り、溝が生じた音が。
 希望を持たずに入学した僕と、希望を抱いて入学した宮本。
 選択科目のことを話しているときとは、目の輝きがまったく違う。
「宮本って、中学、何部だった?」
「卓球だけど、それはもういいんだ」
 宮本は新品のブレザーの袖口でテーブルを拭った。たいして汚れていなかったけど、母さんが見たら卒倒しそうだ。
 よほど大切なものを置くのかと思いきや、ブレザーのポケットから、折りたたんだザラ紙を取り出して広げた。僕が読みやすい向きで、テーブルの真ん中に置く。
 部活勧誘のチラシだ。
「放送部?」
 確認するように宮本に訊ねた。もったいぶりながら出したけど、間違えたんじゃないのか、と。
「そう、放送部」
 宮本は大きく頷いた。
 中学のとき、放送委員会というのがあった。給食の時間に好きな音楽を流してくれるので、何度かリクエストしたことがある。あれと同じだろうか。
 チラシに書かれた、活動内容を見てみる。
*学校行事の司会・撮影
*地域行事の司会・撮影等の補助
*作品制作
*アナウンス・朗読
 以上。
 音楽については書かれていないため、こちらが思う内容とは違うみたいだけど、目を輝かせるようなポイントは見当たらない。
 強いていえばアナウンスだろうか。
 宮本はアナウンサーを目指している? 申し訳ないけれど、それほどいい声をしているとは思えない。
 だけど、僕はその道のプロではない。向き不向きや、才能があるかないかなんて、本人にもわからないということは、身を以て知っている。
 他人の夢を否定してはならない、ということも。

(つづく)


湊かなえ『ブロードキャスト』

湊かなえ『ブロードキャスト』


あらすじ

コンテストの順位より、大事なものがあるんじゃないか。
町田圭祐は中学時代、陸上部に所属し、駅伝で全国大会を目指していたが、3年生の最後の大会、わずかの差で出場を逃してしまう。その後、陸上の名門校、青海学院高校に入学した圭祐だったが、ある理由から陸上部に入ることを諦め、同じ中学出身の正也から誘われてなんとなく放送部に入部することに。陸上への未練を感じつつも、正也や同級生の咲楽、先輩女子たちの熱意に触れながら、その面白さに目覚めていく。目標はラジオドラマ部門で全国高校放送コンテストに出場することだったが、制作の方向性を巡って部内で対立が勃発してしまう。果たして圭祐は、新たな「夢」を見つけられるか――。

著者 湊 かなえ(みなと・かなえ)

1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビュー。本著は、「2009年本屋大賞」を受賞。映画化を経て累計300万部のベストセラーに。12年「望郷、海の星」(『望郷』収録)で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。16年『ユートピア』で山本周五郎賞受賞。18年『贖罪』がエドガー賞ベスト・ペーパーバック・オリジナル部門にノミネートされた。その他の著書に、『少女』『物語のおわり』『絶唱』『リバース』『ポイズンドーター・ホーリーマザー』『未来』『落日』などがある。

書誌情報

発売日:2018年8月23日(木)
定価:本体1500円+税
体裁:四六判並製
頁数:312頁
装丁:片岡忠彦
装画:へびつかい
発行:株式会社KADOKAWA
初出:学芸通信社の配信により神戸新聞、高知新聞、熊本日日新聞、秋田魁新報、北國新聞、中国新聞、信濃毎日新聞の各紙に2017年1月~2018年3月の期間、順次掲載
https://www.kadokawa.co.jp/product/321612000239/

続編連載中!


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