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連載

東田直樹の絆創膏日記 vol.20

【連載第20回】東田直樹の絆創膏日記「雨の日のひらめき」

東田直樹の絆創膏日記

自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第19回】「僕とイルカが跳びはねる理由」

 わがままと自由は紙一重だ。思い通りに行動した結果が、誰かに迷惑をかけていると思われた場合「わがままだ」と批判されるし、そうでなければ「自由だね」と好意的に受け止められる。同じ行動でも、相手の感じ方次第で変わるものなのだ。
 人にわがままだと言われると機嫌を害す。自由だねと言われると褒められているような気分になる、それが普通であろう。
 迷惑をかけるのはいけないことだが、罪を犯すような行為でない限り、行動の良し悪しは、はっきりと決められないことの方が、実は多いのではないだろうか。
 人は他人に対して意見する。それは言っている側のストレス解消や心の安定のためかもしれない。他人の行動は、自分が思うようにコントロール出来ないから、いらいらするし、うらやましくもなるのだ。文句のひとつも言いたくなるのが普通である。物事を自分の都合でしか見ない人もいると思う。
 人からの評判を気にしていても仕方ない、そう考えるくらいでちょうどいいのではないだろうか。
 一番大事なのは、自分の気持ちだ。ルールやマナーを守っているなら、思い通りに行動した時間が、自分にとって心地いいものであることが重要だ。
 思いのままに生きることは理想である。制約を受けない生き方を望むのであれば、自分の心に素直に行動すればいい。

 雨の日は、少し寂しくなる。外も暗く、人の声も聞こえて来ないからだろう。
 僕は、ひとり物思いにふける。こんな日は、頭の中にためておいた疑問に向き合う絶好のチャンスである。
 僕は、何かわからないことがあると、疑問を一旦頭の隅に置いておく。狭い箱のような場所に押し込める。
 疑問が解決する日は、いつも突然だ。当たりくじを引いた時みたいに、思いがけず答えが偶然に見つかることもある。
 雨の日は、考えるための集中力が高まる。脳が活性化するような感じがする。雨というのは、人を落ち着かせる作用があるのではないだろうか。じっと物事を考えるのに最適な天気だ。大昔であれば、人は恐らく、外にも出かけず穴倉にこもっていただろう。
 何もすることがない時、人は考える。ただ、静かに考える。最初は、考えなければいけないから考えていたわけではないと思う。たまたま考える時間があったのだ。そうしている内に信じられないようなひらめきが浮かんで来る。すごい発想だ。何だか嬉しい。すると、考えることが楽しくなる。もっと考えよう、もっともっと考えるぞ。きっと、次には、さらにいい考えが浮かぶに違いない。
 考えることが楽しくなると、困ったことが起きても何とかなる。考えることによって、人生はいくらでも切り開くことが出来るからだ。
 雨の日は、窓の外を眺めながら、後回しにしている問題に取り組もう。

 今年の春分の日は3月21日だった。
 春分の日は「自然をたたえ、生物をいつくしむ日」だ。
「たたえる」は、すぐれているとほめるという意味、そして「いつくしむ」は、かわいがって大事にするという意味である。
 自然が僕たちに与えてくれている恩恵は、言葉では言い尽くせないものだと思う。
 人間も自然の一部だという考え方があるが、まさにその通りだ。この地球上においては、決して特別な存在ではない。この世に誕生し寿命が尽きれば、やがて土に還る。他の生物たちと、何ら変わりはないのである。
 人は自然の驚異におびえ、無力さを感じた時、おのずと頭を垂れる。人の存在の小ささを知ると共に、自然という、とてつもなく強大な森羅万象に尊敬の眼差しを向ける。
 災害が起きれば、自然を活用できる人間こそが地球の支配者であるという思い込みを反省する。人間も、地球に生かされている動物に過ぎないと改心するのだが、すぐに忘れ同じ過ちを犯す。
 愚かな自分たちを戒めるための日が、春分の日なのかもしれない。
 哀しくなるくらいの灰色がかった雲の下。万物の命が途切れることのないよう僕は手を合わせる。山も鳥も虫たちも、懸命に生きている。その姿を見ているだけで、畏敬の念が胸に込み上げて来る。
 このまま穏やかな毎日が続きますように。

 ラジオで時々、リスナーの悩みにラジオパーソナリティが答えるコーナーがある。
 少し笑ってしまうような困りごとから、人生を左右する難題まで、さまざまな相談が寄せられる。パーソナリティは話すことが仕事だが、相談者の悩みに対し、満足してもらう答えを出すのは難しそうである。
 解決したいから人に相談する。けれど、自分の思うような回答は返ってこない、よくあることだ。パーソナリティは、相談者についての詳しい状況を何も知らないのだから、当たり前だと思う。その問題が簡単なアドバイスで解決するくらいであれば、とっくに片付いているはずである。それでも、お悩み相談が跡を絶たないのはどうしてか。
 相談者にとっては、誰かに相談している行為そのものが、解決への第一歩になっているからではないだろうか。
 相談者は悶々と悩み、どうしよう、どうしたらいいのだろうと考えた結果、この人に聞いてもらいたいと思う。何を相談したいのか、頭の中を整理する。その過程が重要なのだ。人にわかるように説明することは、自分の思いだけでなく、客観的な視点も必要になる。そのため、今までとは違う解決策が浮かんで来るに違いない。
 番組内でパーソナリティは、相談内容からさまざまな話題に話を広げていく。
 相談者は、自分の問題が解決しなくても、ラジオで取り上げられたことに満足する。自分の悩みは、それだけの価値があったのだ。
 そして、もう一度、自分の悩みに向き合う勇気をもらえる。
 解決の糸口は、些細なことかもしれない。


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