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連載

東田直樹の絆創膏日記 vol.8

【連載第8回】東田直樹の絆創膏日記「カラスと僕と冬の空」

東田直樹の絆創膏日記

『自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第7回】東田直樹の絆創膏日記「観覧車に恋をして」

 2017年NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」が先週、最終回を迎えた。僕は毎週のように見ていた。歴史番組を見る機会はあまりないので、大河ドラマは、毎年興味深く視聴させてもらっている。
 僕は、ドラマの筋書きよりも、歴史背景に関心がある。
 その時代の人たちが、どんな風に暮らしていたのか、どのような考え方を持っていたのか、ドラマは当時を忠実に再現しているわけではないと思うが、少なくともこうであっただろうということを垣間見ることが出来る。脚本は、たぶん、今の僕たちの価値観に添うように、つくられているに違いない。そういった裏事情も含め、僕は番組を見ることを楽しんでいるのである。
 役者さんの台詞を聞きながら、どうして、こんなことを言うのだろうと疑問がわいて来ることもある。その後のストーリー展開で疑問が解けると、すっきりする。けれど、つじつまが合わなければ、いらいらする。登場人物の中で、善い人は報われて欲しいし、悪い人はこらしめてもらいたい。たとえ、それが、作者のこしらえた意図だとしてもだ。視聴者が、このように主人公に感情移入出来るところに、ドラマのおもしろさがあるのだろう。一時でも自分がその人になり切ることで、気分転換が出来る。
 僕は大河ドラマのメインテーマ曲も気に入っている。どれも雄大で荘厳、聴くたびに心が揺さぶられる。
 まるで、自分の人生のテーマ曲のような感じがして、テレビの前に釘付けになる。僕が主役のドラマを、どう演じるのか、腕組みしながら考える。

 冬晴れの日は、気持ちがいい。空気が澄んでいて、遠くの景色もよく見える。特に風のない日は最高だ。
 ドライブをしていても、ルンルンな気分になる。
 あっ、カラスだ。
 一羽のカラスが、目の前を飛ぶ。水色の空に黒いカラス。少々アンバランスな組み合わせだが、それもいいと思わせてくれるような空。僕は、こんな冬の空の寛容さが気に入っている。
 気持ちよさそうに飛んでいるカラスを見ていると、僕も空に向かって叫びたくなる。
「おーい!」「わーっ!」「あーあーあー!」こんな風に。
 カラスが、電柱の上に止まって首をかしげた。この絶叫は違うのか。
「ラッラララ」「ヘイヘイヘイ」「ドレミファソー」今度は、ミュージカル調に変えてみたぞ。
 カラスは、気乗りしない様子で僕に背を向け、大空の彼方へ去る。これも、おかしかったのか。僕は、少し恥ずかしくなる。
 カラスがいなくなった後、水色の空の下に、ひとり取り残された。今、この空を、僕は一人占めしているのだろうか。嬉しさ以上に、申し訳なさが心にじんわりと広がる。
 純然たる冬の空を、僕という存在が汚してはいないのだろうか。
 おじけづいた僕は、こっそりと身をかがめた。
 水色の空が僕を許してくれても、僕の心は、僕を受け止め切れない。

「感謝」は、僕の好きな言葉のひとつである。誰かに感謝するのは、とても素晴らしい行為に違いない。感謝とは、人が人であることを示す大切な心のありようを表現した言葉ではないだろうか。それは、心の底から自然にわき起こる心情である。
 そんなことは、誰でもわかっていると思っていたが、意外と耳にするのが、感謝する気持ちを忘れているのではないかという他人に対する批判である。
 きっと、批判している人は、「感謝する気持ちは大事だ。感謝の気持ちがなければ、世の中はうまくいかない」と考えてのことだろう。
 何かしてもらった時、相手に感謝するのは当たり前だと思うし、その気持ちは伝えた方がいいに決まっている。感謝するという行為そのものを批判する人はいない。だからこそ、僕は、感謝は決して、「~でなければならない」というものであってはいけないと思っているのだ。
 感謝しているという行為を自慢したり、感謝するよう人に諭したりしたとたん、感謝という言葉は、色あせてしまうように感じる。感謝という行為そのものに価値を見出すなら、感謝されている人以上に、感謝している人が立派だということにならないとも限らない。
 感謝する気持ちは尊いものである。だからといって、感謝している人が素晴らしいとは言い切れないのではないか。あくまでも素晴らしいのは、感謝するに値する行為をしてくれた人なのである。
 褒められるべきは誰なのかを間違えないようにしなければ、何にでも感謝する人が一番偉いという間違った認識が広がってしまう。
 感謝する行為を大げさに褒め称えたり、感謝を強要する世の中は、生きづらい世界だと思う。

 クリスマスは、特別な日である。僕の家でも、家族でごちそうやケーキを食べる。
 サンタさんに会いたいという思いを、僕は子供の頃から持っていた。今も心のどこかに、この気持ちは残っている。
 サンタさんに会って、どうするのか。
 それは、僕自身にもわからない。ただ、会ってみたいのである。
 サンタさんに会えたなら、僕は、「サンタさん、今までありがとう」とお礼を言うだろう。サンタさんは、うん、うんと、うなずいてくれるに違いない。
 僕は、どんなにサンタさんに会いたかったか、思いのたけを語る。
「君はいい子だね」サンタさんは笑いながら、大きな袋からプレゼントをひとつ取り出し、手渡してくれるかもしれない。
「もう大人になったから、プレゼントはいりません」僕は、すぐさま断ろう。
 サンタさんからのプレゼントは何だったのか?
 それはきっと、一枚の写真だと思う。
 クリスマスツリーの前で、僕と家族が写っている。この写真は、いつのことなのか。
 思い出をたどらなければ見えて来ない景色がある。
 思い出として残すには充分でない風景がある。
 本当のサンタさんは誰なのか。僕は、大急ぎで家族のいるリビングに戻った。

 
 
第9回は1月17日の更新予定です。

『自閉症の僕が跳びはねる理由』もラインナップ
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