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連載

有川ひろ 物語の種、募集します。 vol.3

有川ひろ「胡瓜と白菜、柚子を一添え」――「物語の種、募集します。」小説その3

有川ひろ 物語の種、募集します。

図書館戦争』『県庁おもてなし課』などで知られる小説家・有川ひろさんによる、読者からの投稿を「種」として小説を書く企画。

投稿内容は、思い出話でも体験談でも、心に留まったキーワードでも写真でも。あなたが物語の種になりそうだと思ったものなら、なんでもOKです。

投稿募集ページはこちら
https://kadobun.jp/news/press-release/dz61anf341s0.html

「種」から今回芽吹いた小説は……




胡瓜と白菜、柚子を一添え  有川ひろ

         *

 じいさんはまあまあ料理をやる。ばあさんもまあまあやる。
 それがまあまあ問題なのであった。

 夫の実家は静岡であり、彼女は高知で、出会ったのは大学の英会話サークルであった。進学先であった東京でお互い就職してからも長い長い友情が続き、もうこのまま一生の友人であろうと思っていたところ、三十路過ぎにひょんなことから恋人にクラスチェンジした。
 長らくの友人期間はお互いのひととなりを知るには充分だったし、これから先の人生すごろくを意識したためもあって、婚約指輪を装備するのは早かった。両家に結婚の挨拶に行くのも。
 夫の実家は、新幹線の駅から海っぺたに向かう道の途中にあった。
「意外とのどかなのね」
 駅周りはさすがに賑やかだったが、タクシーを拾って少し離れるとすぐ閑静な住宅街になった。畑や田んぼも景色の割合をそれなりに占めている。そんな中、敷地が大らかに広い家が多いことものどかな空気を生み出す一因だろう。
「そりゃあ大阪に比べたらね」
「比べるのは高知よ。郊外の景色が似てる」
 彼女の家族は父が亡くなった後、母が大阪で家庭を持った弟宅に身を寄せたことで高知を引き払った。だが、彼女がふるさととして思い出すのはやはり高知だ。ただし、泊まりに帰れるほど気楽な親類は残っていない。
 車が走る街並みは、もう手放した父の家の辺りに似ていた。
「こっちのほうが地べたが多いけどね」
「お? それは誉めてるのかけなしてるのか?」
「誉め言葉に聞こえなかったか、街の子よ」
「いや、高知は山が豊かとかいう自慢かと」
「平地が多い地方は農業的には豊かなのよ。県土の83.4%が山林になってみ、耕す地べたがそもそもないんだから」
 海の際まで山が迫っているような地形も少なくない高知である。
「そんなことも分からぬとは所詮街の子」
「クッソ、結局ディスられた」
「実用県土16.6%でシェア上位の作物いくつも持ってる高知農民のガッツにひれ伏せ」
「ディスった上に誇られた」
「なす、ピーマン、ししとう、ミョウガ、ニラ、ショウガ、大体この辺生産量一位ね。ミョウガのシェアは90%だったかな、あたし調べ」
「ボコ殴り来た」
「あと忘れちゃいけない、ゆずもね」
 夫の軽口がふと止んだ。そういえば自分たちの馴れ初めは高知のゆずであった。
 行きずりのタクシー運転手がそんなことを知るわけもないのに、急に気恥ずかしくなった。
「おとうさんとおかあさん、気に入ってくれるかな」
 トランクに入っている手土産である。東京で評判のお菓子の他に、高知ゆず商品の第一人者、馬路うまじ村のギフトセットを取り寄せた。
 自分のルーツをまだ見ぬ義理の両親に贈りたかった。全国どこにでも通用すると彼女が信じているふるさとのゆずに、一つ願を掛けてあった。
 彼女の好きな高知のゆずを気に入ってくれたら、夫の両親と上手くいく。
 そんな願掛けを知る由もないが、夫は大丈夫大丈夫と安請け合いした。
「割と話合うと思うよ。うちの両親も最近家庭菜園やってるから、さっきみたいな話は好きだと思う」
 市民農園でも借りているのかなと思ったら、大雑把に広い庭を掘っくり返した実家に着いた。芝生を途中まで引っぺがした跡が生々しい手作り感あふれる畑に、ひょろひょろと菜っ葉やネギが植えてあった。
 なるほどビギナー。この大雑把さは嫌いではない。
 結論から言うと、大歓迎であった。義父も義母も緊張していたのか、玄関でまあまあまあまあ、まあまあまあまあの連呼になったが、部屋に上がって手土産を出すと義母から「あらまあっ」が出た。
「これ、高知の、ねえ! 知ってるわ」
 すかさず義父が「馬路村だよ、馬路村」と被せてくる。義母は競うように更に被せた。
「スーパーでも置いてあるのよ、これ。ぽん酢。お父さん自分で買ったことないでしょ」
 ぽん酢はすでに全国区になっているので、他の商品もセットになったものを選んだ。その名もごっくん馬路村というゆずドリンクに、ゆず七味やゆず味噌である。
「あらぁ、馬路村公認飲料なの。面白いことするわねぇ」
 ごっくん馬路村が摑んだ。ふるさと様、馬路村様。
「お酒の割り物にしても美味おいしいんです、焼酎とか」
「じゃあ晩酌でさっそく僕とやろうか、秘蔵のがある」
 義父の焼酎好きはリサーチ済みだ。
「母さんは下戸だからのままやってなさい」
「こういうものはそのままが一番美味しいと相場が決まってるんです」
 端々はしばし張り合うな、と思っていたら夕飯でピークが来た。
「ちらし寿司どうぞ、お口に合うといいんだけど」
「酒を飲む前に飯粒なんてあるか。カルパッチョをおあがりなさい、今日はいい鯛があってね」
「あら、鯛は昆布締めが一番だわよ」
「あらと言うならあら煮もいいぞ。早く出しなさい」
 代わる代わる自分が作ったというものを激推ししてくるのであった。二人とも料理が好きなのだろう、なかなかやる。が、何しろ二人がかりなので品数が多い。
 ちらし寿司も頂戴していいかげん腹がくちくなった頃、義父と義母が何やら目を見交わした。
「あのー、これは作ってみただけだから、無理に食べなくていいんだけどね」
「ああ、母さん、僕のも」
 最後に冷蔵庫からおずおずと登場したのは小鉢が二つであった。
 小松菜とうすあげの煮びたし。ネギのぬた。
「ネギは僕なんだけどね」
「小松菜は私が作ったのよ」
 ひょろひょろ植わっていたあれか。ここへ来て素材勝負。判定やいかに。
「……ど、ち、ら、に、しようかな、裏の権兵衛さんに訊いたら分かるぞね」
 煮びたしとぬたを交互に指差す。
「えー! 高知バージョンそれ!?」
 だいぶ回っているのか、夫の声はでかかった。
「裏の権兵衛さんって誰よ!? 天の神様でしょ、ふつう!」
「は? 権兵衛さんご存じない? 有名よ?」
「どこでよ!」
「高知でよ」
 神聖なお伺いが止まってしまった。最初から唄い直す。
「どちらにしようかな、裏の権兵衛さんに訊いたら分かるぞね」
 右、左、右、左、右、左……
「太鼓を打ってどんどこしょ。もひとつおまけにどーんーどーこーしょっ」
 裏の権兵衛さんは煮びたしと仰ったので、先に煮びたしの小鉢を取る。
「太鼓!? 打ち鳴らしちゃうの!? ウケる!」
 やかましい。
「静岡はどうだっちゅうのよ」
「おずずのずのずのず」
「何じゃそら! 呪文か!」
 突っ込んでから我に返る。しまった、ご両親の前だった。
「確かに呪文っぽいわね!」
 義母も釣られてか声がでかい。ノリはセーフか? セーフだ。
「太鼓いいじゃないか、太鼓。楽しそうだし景気がいい。さすが南国だ」
 意味の分からない高知アゲ来た。
「それにお前、ふつうと決めつけるのは良くない。父さんの実家のほうは『ぎったんばっこん』だった」
 義父はんんっと喉を調えてから唄いだした。
「ぎったんばっこんぎったんばっこん、白豆赤豆茶色豆、鉄砲撃ってばんばんばん」
「ええー!」
 母と息子でハモった。
「お父さんのほうそうだったの! あらー。私おずずしか知らなかったわー」
「お母さんがおずずだったから合わせたんだ」
 義父母はどちらも静岡だと聞いていたが、バリエーションが広い。
「だから権兵衛さんが太鼓を打ったっていい。鉄砲だと死ぬしな」
「殺すの!?」
「殺す以外に鉄砲何に使うんだ」
「いや、どちらにしようかなで人殺さないよね?」
「人とは限らないでしょ、イノシシとかクマとか鳥とか」
 物騒な父と息子の会話に軟着陸地点を示すと、全員から拍手された。
 さて、煮びたし。次いでぬた。
 義父と義母が熱く見つめる。どっちがおいしい? とは直截に訊かないものの、自分のほうがおいしいと言ってほしそうな気配はありあり。
 言えるか、嫁(予定)の立場になれ。
「どっちもおいしいです」
「じゃ、どっちが好き?」
 義母から問題発言キタ。もっと言えるか!
 夫は助け船を出さなかった。興味津々で聴いている。使えねえなお前。
「お酒に合うのはこっちですね」
 義父の小鼻がぷくり。
「白いごはんと食べたいのはこっちです。朝ごはんでこんな小鉢ついてきたらしみる」
 義母の小鼻がぷくり。
 どちらも自分が勝ったと思っている。
 夕餉ゆうげはそこでお開きとなり、風呂を借りて客間で就寝。
「あのね、ああいうときは助け船出すもんよ」
 もちろんバトルの最終カードである。夫は「面白くなっちゃって」と頭を掻いた。
「嫁の立場でジャッジできるわけないでしょ」
「大丈夫だよ、ああやって対決するのが好きな人たちだから」
「なるほど、あんたのルーツはそこか」
 大学のときもサークルで何かとふるさと対決に持ち込まれた。みかん戦争に鰻戦争。――いや、鰻は自分から突っかかったんだったか。しかし最初の抗争は夫が仕掛けたみかんであった。
 だとしたらその対決のレクリエーション性は知っている。まあまあに楽しい。
「それにしたってさ」
 義父母の対決の審判員は嫁には荷が重すぎる。
「君なら上手く切り抜けると思って」
 苦情の出鼻は笑顔でくじかれた。
「ああ言えばこう言う、みたいなの上手いじゃん。サークルの頃から。俺しょっちゅうやり込められてたけど、君にやり込められるの何か楽しかったんだよね」
 お前もな。彼女のほうは夫に一本取られた記憶ばかりだ。
「うちの両親も上手に手玉に取るんだろうなって思ったら嬉しくなっちゃって」
 しれっと胸にキュンを投げ込んできた夫は、あっなたっのいいとこ見てみたい、それ、と唄いはじめた。今だとアルハラ案件になるやつである。
 助け船を出せぇい、とエルボーを軽めに打ち落とす。
「まあでも、あんたのおとうさんとおかあさん、嫌いじゃないわ」
 好きとは敢えて言わない。嫌いじゃない、そこいらから始めていったほうが関係の伸びしろは多そうだ。
 翌朝はあじの開きをメインにしたお膳に煮びたしがついてきた。
 義母の小鼻はやはりぷくり。
 ほかほかの白いごはんに載せて食べると、滋味が体にしみた。
「うん、一晩寝かせてよくしみてるな」
 そう言ったのは義父であった。
 義母の小鼻はまた嬉しそうにぷくりと膨らんだ。

 あれから十年。思えば遠くへ来たもんだ。
 人生すごろくは男児を一人授かる目が出て、来年には小学生だ。バトルが好きな義父と義母はじいさんとばあさんにクラスチェンジし、やはりバトルが続いている。
 料理もさることながら、園芸がバチバチだ。初孫の心を少しでも自分が捉えようと姑息な争いが繰り広げられている。
 じいさんがイチゴを植えたら、次はばあさんがサツマイモを植える。
 じいじのイチゴはおいしいよなぁ、と練乳をかければばあさんがずるいと練乳の反則をただし、ばあばのおいも掘りが楽しいよねぇ、と言いながら掘った芋を栗きんとんに仕立てる。
「それはずるいんじゃないか、栗は反則だろう。市販の瓶詰めじゃないか、最初からおいしい」
「練乳頼みだった人に言われたくないわね、ホホホ」
「練乳は調味料だ、栗は何ならメインじゃないか」
「おせちできんとんの栗だけほじるような心がけだからそう思うんでしょうよ」
 毎回まあまあ大人げないのであった。
 息子には翻弄するようにと教育している。
「じゃあどっちか決めてあげて~」
 そう促すと、息子はじいさんとばあさんを交互に指差しはじめる。
「どちらにしようかな……」
「じいじから! じいじからだよ!」
「ばあばからよ!」
 じいさんとばあさんが色めき立つのは、実家で主流のおずずだったら先に指差したほうが勝つからだ。
 だが、息子が通う幼稚園では、なのなのな、柿の種、と続くのが主流で、これだと勝敗が逆転するのである。
 そして息子がどちらを先に指差すか、おずずにするかなのなにするかは完全にランダムなのであった。
 そのときはおずずでじいさんが敗北した。
「くっそう。ぎったんばっこんを教えなくては……」
「あのさ、ぎったんばっこんもおずずと結果いっしょだからね」
 夫の指摘にじいさん驚愕。
「じゃあ……」
「裏の権兵衛もいっしょですよ」
 更に驚愕。
 そんなこんなで帰省のときは賑やかに過ごしていたのだが、今年の夏休みはたちの良くない風邪が全国的に流行ったせいで帰省がはばかられる空気になった。
『もう~。一緒にランドセル選ぶの楽しみにしてたのに~』
 夫の実家は、孫の顔を見たいパワーでリモート環境が急速に整い、パソコン越しに対面通話が可能になっていた。
 去年の夏休みは、来年ランドセルを買おうねと約束して帰路についたのだった。
 ただ、ランドセルについてのみは一緒に買う展開がなくなったことに彼女はほっとしている。園のママ友から、男児が戦隊ヒーローばりのギミックや飾りがついたド派手なランドセルを希望して覆せなかった話をいくつも聞いていたからだ。小学校は六年間あるので、流行りすたりがない無難なものを調達したいのが親心である。息子は移ろいやすい流行に飛び乗りたいお年頃なので危険危険。
「お義母さんのセンスですてきなのを選んであげてください」
 じいさんのセンスだと男児とおっつかっつになるということがこれまでの付き合いで判明している。正月にデコトラのような凧を用意して待っていた。含ませたニュアンスにばあさんは合点承知の顔だ。
『そんなことより、お前』
 割って入ったじいさんは、何となく自分が弾かれていることが分かるらしい。つまらないのでさっさと話題を切り替えたい。
『漬け物は届いたのか訊きなさい』
 して、バトルであった。
 息子は酒飲みの両親に似たのか味覚が渋く、漬け物だの佃煮だのちょいと箸休め系のおかずをよく食べるようになってきた。それを聞きつけたじいさんとばあさんは、さっそくそれぞれ自慢の漬け物をクール便で送って寄越したのである。
 じいさんはキュウリの一本漬け。ばあさんは白菜の古漬けであった。白菜は冬が旬だと思っていたが、じいさんのキュウリと戦うためにばあさんは夏撒きの白菜を植えたそうな。
「さっき届いたところです。お茶請けで少し切って食べましたけど、どっちもおいしいですよ」
『そうじゃない』
 画面の向こうで声がハモった。こんなときは息ぴったりだ。孫だ、孫の判定を寄越せ。
 そう来ることは分かっていたし、決着が唄になることも分かっている。
 だが、今回ばかりはじいさんとばあさんの勝敗を決めさせるのがいたたまれなかった。仕方のないこととはいえ、お盆の帰省が飛んだことはじいさんもばあさんも寂しいに決まっているのだ。じいさんは定年退職した会社で少しはパソコンを触っていたが、ばあさんはガラケーの民だった。それが今や二人ともコンピューターおじいちゃんとコンピューターおばあちゃんである。
 愛あればこそ。
『今だ、今食べさせてくれ』
『今食べてくれるよね~え』
 夫が横から大人げないなと苦笑する。合間の会話を夫と息子に任せて彼女は台所に立った。
 トレイに漬け物セットを載せて戻る。ほかほかごはんのお椀をふたつ。夕飯にはまだ早い時間なので、おやつがてらにほんの小盛りで。
「スペシャルコースで行きまーす」
 およよ? 目をぱちくりさせるじいさんとばあさんの前で、お椀にキュウリと白菜をてんてん並べる。ティーバッグだが、急須のほうじ茶を回しかけ、馬路村のぽん酢をひとたらし。最後にきざみ海苔をぱらり。
「お茶漬けー!」
 息子が歓声を上げ、画面の中でじいさんとばあさんがうぬぬとうめいた。
「大人はこれも足してみようか」
 夫のお椀には馬路村のゆず七味をさっと一振り。ぽん酢とゆず七味は常備品だ。東京は銀座の高知県アンテナショップで買えるのがありがたい。
 息子の「おいしい」は怪獣のような金切り声と化した。猛然とかき込む。
「ゆず七味いいね、これ」
 旦那もすすり込む。
「どっちがおいしかった?」
 彼女が尋ねると、息子は元気いっぱいに「お茶漬けがおいしかった!」と答えた。
 ぐぬぬ、とじいさんとばあさんは黙り込んだ。
『嫁に上前をはねられた……』
『ずるいわ、そっちだけそんなおいしいもの』
 冷凍ごはんしかないのよね今、と言いながらばあさんが離席した。馬路村のぽん酢とゆず七味は、結婚の挨拶で手土産にしたときから実家でも通販で常備品になっている。ほぼ同じ仕上がりのものができるはずだ。
 こちらがたいらげたしばらく後に、じいさんとばあさんもお茶漬けをすすった。
『これはいいわね、キュウリと白菜のマリーアントワネットだわ』
 多分マリアージュと言いたかった。しかしまあ、あながち間違っていない。キュウリと白菜、どちらか決められないならお茶漬けにすればいいじゃない。
『いやいや、ゆずが利いてるよ』
 じいさんは嫁を立ててくれたらしい。
 そういや願が叶ったな、と思い出した。挨拶の手土産に馬路村ギフト。気に入ってくれたら夫の両親と上手くいく。
 まあまあ困ったじいさんとばあさんだが、嫁がまあまあ無遠慮にやれる程度に関係は良好だ。
 彼女のルーツは、これからも折々彼女を支えてくれるのだろう。
『馬路村さぁ、一回行ってみたいよねぇ』
 お茶漬けをすすり終えたじいさんが言った。
『ずっとここの買ってるからさ、何か自分のいなかみたいに思えてきちゃってね』
 もう高知に帰る実家はない。生活の基盤は東京に移り、そうなってくるとそうそう行くこともないだろうと思っていた。
『いいわね、旅行できるようになったらみんなで行きましょうよ』
 遠のいたと思っていたふるさとが、急に手繰り寄せられた。まあまあ困ったじいさんばあさんによって。
「馬路村、村営の温泉旅館ありますよ」
『決まりね! お正月に行けるといいわね、寒い時期に南国なんてすてき』
「冬、めっちゃ寒いですよ。暖かいのは静岡のほうが全然上です」
『南国なのに!? どういうこと!?』
 わいわい賑やかに盛り上がり、リモート通話終了。
 いやー、と長く息を吐く。
「いいとことついだわ、あたし」
 恐縮です、と夫がにやり。息子を任せてお膳を下げる。流れるように自然。目元は見せぬ。
 まあまあ困ったじいさんとばあさんにほろりと泣かされたなど、無遠慮な嫁の名折れである。

fin.




なんと、あの物語の続編でした!

今回の物語の「種」は……
===
「胡瓜と白菜どっちが好き?」

投稿者は、りり さん(女・19歳)
===
でした!

「種」の投稿はこちらから
https://kadobun.jp/news/press-release/dz61anf341s0.html


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