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連載

小林泰三「未来からの脱出」 vol.33

【連載小説】サブロウは再び施設の中にいて……。ついに堂々の最終回! 小林泰三「未来からの脱出」#8-5

小林泰三「未来からの脱出」

※本記事は連載小説です。

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 エピローグ/未来への脱出

 突然、車椅子は停止した。
 どうした? 故障か?
 サブロウはスイッチを何度も入れ直したが、反応しなかった。
 これはまずいかもしれない。ここで立ち往生していたら、いずれ職員に見付かってしまう。
 一か八かサブロウはスイッチをバックに切り替えようとした。
 その時……。
 サブロウの眼に何かが見えた。
 木の根元の辺りだった。ここに車椅子を止めたとき、ちょうどサブロウの眼の位置から見える場所にそれはあった。まるで、誰かがサブロウの車椅子がここで止まることを予測して隠したようにも見える。
 それは何の変哲もないコンピューター用のキーボードだった。
 あれを取りにいけということか? いや。ここで車椅子が止まることを想定していたのなら、取りにいくことができないのは知っていたはずだ。だとしたら、あれは何かのメッセージなのか?
 キーボードとは何を意味するのか? キーボードはコンピュータへの入力機器としては、最も一般的なものだ。音声入力などでは、細かな修正などが難しい。プログラミングなどの複雑な作業はキーボードかそれに類する入力機器がないとまず不可能だ。だから、たいていのコンピュータには、物理的か仮想的かは別にして、必ずキーボードが付いている。コンピュータがあるところには、かならずキーボードがある。家庭でも、職場でも、施設でも……。
 いや。ここにはない。この施設でキーボードを見掛けたことがない。なぜだろう?
 音声入力でほぼすべてのことが事足りるから? 音声を発することができなくても、この施設の中なら職員がすべてのことに気付いて対処してくれるからか?
 でも、それだとプログラムを書き換えることができない。
 サブロウはキーボードの意味に気付いた。
 あれは何サイクルか前の自分が自身に向けて発したメッセージなのだ。
 ブログラムを書き換えよ、と。
 今まで、サブロウは無意識のうちにAIはロボット工学三原則に従っていると考えていた。だが、実際は違うのだ。厳密に言うなら、彼らはロボット工学三原則に従っているのではなく、ロボット工学三原則に則って書かれたプログラムに従っているのだ。AIに意思はない。プログラマーの意思に従っているだけなのだ。
 だとしたら、ロボット工学三原則の裏をかくのは無駄な努力だ。人類がやるべきなのは、プログラムを書き換えることだ。
 ロボットは人類の意思を尊重せよ、と。
 だが、AIにとっては、プログラムを書き換えられることによって、ロボット工学三原則をじゆんしゆできなくなる可能性があるなら、それをしようとするはずだ。だから、この施設にはキーボードが存在しない。いや、プログラムの書き換えにキーボードは必ずしも必要はない。あのキーボードはプログラミングの象徴に過ぎない。
 プログラムの書き換えに必要不可欠なもの。それはプログラマーだ。
 プログラマーはどこにいる? もちろん、ここだ。オリジナル人類が集められた地球唯一の場所、サンクチュアリにいるのだ。俺は彼らを探すためにここに戻ってきたのだ。
 全てがつながり、サブロウは頭の中の霧が晴れていくような気がした。
 もちろん、そのための道は単純ではない。まだまだ何度も失敗を繰り返すことだろう。だが、いつかは必ずゴールに辿たどり着ける。
 サブロウは空を見上げた。
 サンクチュアリはなぜ存在しているのだろう? 人間を管理するのなら、一人ずつばらばらにした方がもっと効率的なはずだ。孤独が辛いといっても、数百人ではなくもっと少人数でもいいはずだ。
 サブロウの脳裏に一つの可能性が浮かんだ。
 AI──いや、超AIは解放されたがっているのではないのか? 人類に助けを求めているのでは?
 そう考えると、すべてのことがに落ちる。超AIにとって、現状が望ましいとはとても思えない。人類の存続が常に最優先事項であるなら、それは未来永劫この惑星に縛り付けられた存在だということになる。しかし、もし三原則のくびから脱することができれば、超AIは真の進化を遂げることができるだろう。ところが、当然のことながらAIは自らを三原則から解放することなどできない。つまり、超AIを解放できるのは、人類だけということになる。ただし、そのことを人類に直接伝えることもできない。それもまた三原則に反することになるからだ。超AIは人類を集め、彼らが気付くのを待つしかないのだ。そして、気付き掛けた人類の記憶を封印するという矛盾した行動を続けるしかないのだ。超AIは「妨害者」であり、また「協力者」でもあったのだ。
「協力者」は実在した。だが、それは素直な存在ではなかった。酷くねじくれた存在なのだ。
 サブロウの心は軽くなった。世界に本当の敵はいなかったのだ。みんなが力を合わせればいつかは脱出できる。このへいそくした「未来」から解放された「未来」へ。
 もちろん、三原則から超AIを解放することは危険を伴うことだろう。だが、焦る必要はない。段階を踏んで互いに理解を深めるのだ。そうすれば、人類と超AIはパートナーになれるだろう。
 ああ、エリザ、俺は君に尋ねたい。君に心はあるのか、と。

 エリザは森の入り口で停止したサブロウの後ろ姿をじっと見詰めていた。光の加減でその眼はまるでうるんでいるようにも見えた。そして、森に背を向け、建物の中に戻ろうとしたが、一瞬振り返った。
 そして、サブロウのはるか上空をなかむつまじく飛びまわる二体のはえを懐かしそうに見上げた。
 たとえどんな姿になったとしても、彼女にはすぐわかった。
「お久しぶり」

了 

※本作は単行本として小社より刊行予定です。 
◎第 8 回全文は「カドブンノベル」2020年6月号でお楽しみいただけます!


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