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連載

小林泰三「未来からの脱出」 vol.10

ハンドレッズのメンバーは、施設からの脱出を決行しようとするが……。予測不能の大脱出劇! 小林泰三「未来からの脱出」#3-1

小林泰三「未来からの脱出」

※この記事は、期間限定公開です。



前回までのあらすじ

とある施設で暮らすサブロウは、過去の記憶がないことに違和感を覚えていた。調査を進めるうちに、自分の日記帳に隠された「ピースを集めよ」というメッセージに気付く。指貫のようなアイテムで建物から出られることに気付いたサブロウは、「協力者」がいることを確信する。コミュニケーション力に長けたエリザ、鋭い洞察力のドック、機械に強いミッチの 3 人に声をかけハンドレッズというチームを結成し、脱出への決意を新たにする。

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   8

 何名が外に出るか、そして徒歩か車椅子か、どちらにするかについて、何度も話し合いが持たれた。
 当初、サブロウはハンドレッズのメンバー全員で外に出ることを主張した。おそらくチャンスは一度しかない。この機を逃せば、脱出しなかった残りのメンバーには二度と外に出るチャンスはないだろう。
「いや。それはリスクが高過ぎる」ドックが反論した。「四人も同時に外に出たら、職員に発見される可能性は一気に高くなる。外に出るメンバーは二名が妥当なところだ。それに我々は外については何も知らない。最初から遠くまで進めると考えるのは楽観的過ぎる。最初は付近の偵察に徹するべきだ」
「そんなことを言って、今回の偵察が敵にばれたらどうするつもりなんだ?」
「敵が存在するかどうかはまだわからない」
「敵がいないとしたら、どうして俺たちは閉じ込められているんだ?」
「わたしたちが外に出すと厄介なふうてん老人だからだろ?」ミッチが冗談めかして言った。
「みんなが行かないと言うなら、俺一人で行く」サブロウは宣言した。
「一人は危険だ」ドックが言った。「何かトラブルが起きた時のことを考えると、二人の方がいい」
「トラブルに対処するなら、二人より三人がいいだろう。四人いればもっといい」
「何度言ったらわかるんだ? 四人同時に外に出たら、逆にリスクが高くなる。二度とトライができなくなるぞ」
「……わかった。じゃあ、二人で行こう。一人は俺でいいな?」
「君が外に出る積極的な理由は見付からない。だが、君であってはいけないという理由も見付からない」ドックは慎重な言い回しをした。
「つまり、どっちなんだ?」
「君が行きたいというのなら、わたしは止めない」
「ありがとう。君たちは?」サブロウは女性たちに尋ねた。
「わたしも止めないよ」ミッチが言った。
「できれば、やめて欲しいわ」エリザが言った。「でも、止めてもやるつもりなのね。だとしたら、無理に止めることはできないわ」
「では、もう一人を決める。志願者は手を挙げてくれ」サブロウが言った。
 ドックとエリザが手を挙げた。
「ミッチ、君は外に出たくはないのか?」サブロウは尋ねた。
「出たいかどうかと聞かれたら、出たいよ。だけど、一番乗りじゃなくてもいい。どちらかというと、わたしは車椅子の挙動に興味がある。わたしの改造は有効かどうか知りたい」
「君の改造はうまく行かない可能性があるのか?」サブロウは不安げに言った。
「うまく行くと思っている。だけど、絶対はないからね」
「今回の偵察にミッチが参加するのは、わたしも反対だ」ドックが言った。「彼女の才能は他の人間では代替できない」
「エリザ、君は脱走に反対じゃなかったのか?」
「反対よ。できれば、誰も出て欲しくはない。だけど、あなたが行くというのなら、わたしは一緒に行かざるを得ないわ。あなたの暴走を止めるために」
「暴走? 何のことだ?」
「今回はあくまで偵察よ。だけど、あなたはあわよくば、このまま逃げ出そうと思っている。違う?」
 どうだろうか? 自分でもよくわからなくなってきた。最初はチャンスさえあれば、いつでも脱出するつもりだった。だが、こうして仲間を得られたからには、彼らを見捨てることはできないような気がする。できれば全員一緒に逃げ出したい。だから、全員で外に出ることを提案したのだ。だが、みんなにその気がないのだとしたら……。
「今回は偵察だけのつもりだ」
「つもり?」
「状況によっては、それ以外の道を選択する可能性もある。自ら行動を制限したくはない」
「では、なおさらわたしは付いていくわ」
「ドック、あんたも参加したいのか?」
「できれば。こんなに好奇心を刺激する冒険はないだろう」
「だが、さっきあんたは他の者では代替できない才能を持つミッチが参加することに反対していた」
「合理的な判断だ」
「だとしたら、あんたも参加すべきではない。あんたの洞察力は貴重だ」
「わたしの洞察力が他の三人より特に優れているという気はしないのだが」
「いや。確かに優れているよ」
「わたしもサブロウに賛同する」ミッチが言った。
「わたしも」エリザが言った。
「ふむ」ドックはあごに手を添えた。「仮にその印象が正しかったとしよう。その場合でも、なおわたしが外に出る方が合理的だ。外では何が起こるかわからない。洞察力が最大の武器にも防具にもなる」
「司令官が前線に立つべきではないと思うよ」サブロウが言った。
「わたしが司令官? 参謀と司令官は別の才能だ。わたしは司令官の器ではない」
「あんた以外に誰がいると言うんだ?」
「君だろ」
「俺が? どうして?」
「この施設のおかしさに最初に気付いたのは君だ」
「あんただって、気付いたじゃないか」
「それは君が動機付けをしてくれたからだ。自分一人では、この発想には至らなかっただろう。そして、我々を集めたのも君だ。君は各人の才能を見抜いて、最小限の人数で脱出チームを組み上げた。それは参謀ではなく、司令官の資質だ」
「偶然だよ」
「何より、『協力者』は君とコンタクトした」
「特に俺を選んだ理由はないのかも」
「それは考えづらい。君の日記やふだん君のいる場所にヒントを隠したということは、『協力者』は我々の行動を熟知しているということだ。その上で君を選んだのだから、君が司令官の適任者だと考えたということだ」
「でも、司令官は後方で待機しなくちゃならないんだろ?」
「それは君の言ったことだ」
「君はどう思う?」
「司令官が後方で指示を出すのは、大軍を率いている場合だ。少人数の場合、司令官自ら行動するのが理にかなっている」
「一番の責任者が前線に出るっていうのは、『宇宙大作戦スター・トレツク』方式だな。あれは少人数って訳でもないけど」そう言ってから、サブロウはドックの表情を見てふふと笑った。まさに彼が『宇宙大作戦スター・トレツク』の参謀役であるスポックに似ていることがおかしく感じられたのだ。
 続いて、ミッチも笑った。彼女も気付いたらしい。
 ドックは笑い出した二人を不思議そうに見て、片眉を上げた。
 ますますスポックにそっくりだ。
「じゃあ、とりあえず俺が暫定リーダーということでいいかな?」サブロウが言った。
 異議は出なかった。
「偵察隊のメンバーについては、もう少し考えることにしよう。先発隊と待機組、それぞれの適性についても考えてみる」

   9

 数日後、食後のデザートを楽しんでいるサブロウの元に深刻な顔をしたミッチがやってきた。
「ドックの姿が見えない」ミッチはつぶやくように言った。
「自室に閉じ籠もっている訳じゃないのか?」
「ドックの部屋の中は調べた」
「あいつはいつも部屋に鍵を掛けてるだろ?」
「これで開けた」ミッチはポケットの中にある万能鍵をちらりと見せた。
「ああ。君にはできるんだな。いったい何が起きたんだ?」
 職員が近付いてきた。
「しっ! エリザが今調べている」
 エリザはコミュニケーション能力が高く、人の心理を見抜くのも得意だ。入居者の誰かが異変に気付いていたとしたら、すぐに彼女の知るところとなるだろう。
 職員が二人から離れるのとほぼ入れ違いにエリザがやってきた。
「ドックの居場所はわかったのか?」サブロウは素早く尋ねた。
 エリザは首を振った。
「何か手掛かりは?」
「ドックが出入り口の近くをうろついているのを見ていた人が二、三人いたわ」
「二人か三人かどっちなんだい?」ミッチが口を挟んだ。
「一人は単に話を合わせているだけかもしれないの。一人ずつ引き離して質問する訳にはいかないでしょ」
「職員の動向は?」
「やや緊張が見られるわ。ただし、入居者の一人がいなくなったんだから当然とも言えるわ」
「どっちかな?」サブロウは言った。
「どっちって?」ミッチが尋ねた。
「自分で抜け出したのか、それとも連れ去られたのか」
「それをわたしたちに推理しろと? そういうのは、ドックの担当じゃないのかい?」
「だが、そのドックがいなくなったんだから、仕方がないだろ」
ゆびぬきは五つとも持ってる?」エリザが尋ねた。
「手元にあるのは四つだ」
「ドックが持っていったの?」
「たぶん」
「たぶん?」
「よく覚えていない」
「覚えてないってどういうことだい? 指貫の管理はあんたの担当だろ?」ミッチは鼻息荒く言った。
「指貫を見せてくれと言われたのは覚えているんだけど、返してもらったかどうかは定かじゃない」
「しっかりしろよ」
「無理言うなよ。百歳なんだから、記憶もあいまいになる」
「ドックに手渡したのは確かなのね?」
「そう言われると、自信はないが、おそらくそうだ」
「こんなので大丈夫?」ミッチが馬鹿にしたように言った。
「記憶に自信がないのはみんななんだから仕方がないわ」エリザが言った。「指貫はドックが持っていった。とりあえずそう仮定して対策を練りましょう」
「指貫を持っていったってことは、あいつ一人で外に出ようとしたってことだな」ミッチが言った。「二人でなければ危険だと言ってなかったか?」
「自分なら一人でも大丈夫だと思ってたんじゃないかな?」サブロウは言った。「あいつは相当な自信家だから」
「きっと、あんたがなかなかゴーサインを出さないからしびれを切らしたのよ」
「好奇心を抑えられなかったのかもしれないわね」エリザがめ息をいた。
「で、どっちなんだろ?」
「それは結論出たじゃないか。ドックが自分で一人で脱出を決行したんだよ」ミッチが言った。
「成功したとは限らないだろ」
「つまり、あいつらに見付かったかもしれないってことかい? だとしたら、どうして戻ってこないんだ?」
「どこかで取り調べを受けているのかもしれない」
「その可能性は否定できないわ」
「だとしたら、あいつ、わたしたちのこと、ちくったかな?」ミッチは不安げに言った。
「それはわかりようもない。取り調べがあったとして、それがソフトなものなのか、拷問なのかもわからないし」
「拷問!」ミッチはぞっとした表情をした。
「まさか、高齢者に拷問なんか……」エリザが眉をひそめた。
「なんとも言えないな」サブロウは言った。「敵がどんな組織なのか、全く情報がないから」
「どっちにしても、ドックが捕まったら、敵は警戒するんじゃないか?」ミッチが言った。「システムを変えて、わたしたちが出られないようにするんじゃないか?」
「それはないんじゃないかな? システムを変えるなんて結構大ごとだ。一度の脱走騒ぎぐらいなら、目をつむるんじゃないかな?」
「でも、指貫が見付かったら、わたしたちの指貫も使えなくなるかもしれないわ」
「それもないと思う。職員たちは誰の指紋がコピーされているかわからないはずだから。今更、指紋認証システムを無効にして、鍵を持ったり暗証番号を覚えたりはしないだろう」
「どうして、そう言い切れるの?」
「人間は無精だからさ。なるべく物事を変えずに済まそうとするのが自然だ」
「じゃあ、指貫はまだ有効だと思ってるのね?」
「ああ。だから、脱走はまだ可能だ」
「リスクは高くなっているわ。ドックが成功していたとしても、失敗していたとしても」
「その程度のリスクは受け入れるつもりだよ。なにしろ、俺たちには失うものなんかないんだから」
 しかし、その日の午後、事態は急変した。
 書架の前にひょっこりドックが現れたのだ。
「びっくりさせるなよ。いったい何があったんだ?」サブロウはうれしさで顔をくしゃくしゃにして言った。
 そのままハグしようかとも思ったが、車椅子から立ち上がるのが大変そうだったので、座ったまま、腕をたたくだけにしておいた。
 ドックは無言でサブロウを見詰め、片眉を上げた。
「どうした? 何かしやべってはいけない理由でもあるのか、ドック?」
 ひょっとしたら、俺たちには何も話すなと脅されたのかもしれない。あるいは、今、監視されているので、俺たちと接触できないってことか?
「ドック?」
「そうだ」サブロウは不安を感じた。「まさか自分の名前を忘れた訳じゃないだろうな」
「『ドック』というのは親しい者たちがわたしを呼ぶときのニックネームだ」
「そうだろうよ。俺たちだって、『ドック』があんたの本名だなんて思ってない」
 ドックは自分の顎に手を添えた。
「おいおい。どこに考え込む必要があるんだ?」
「君の名前は?」ドックはサブロウの目を見て言った。

#3-2へつづく
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