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連載

小林泰三「未来からの脱出」 vol.27

ハンドレッズ復活も、なかなか脱出に向けての話し合いはまとまらず……。 小林泰三「未来からの脱出」#7-3

小林泰三「未来からの脱出」

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 ハンドレッズが復活したのはいいが、全員の意見はなかなかまとまらなかった。
 ミッチはもう一度脱走することを提案した。前回の脱走がそこそこうまく行ったのなら、次は確実に成功できるのではないかと考えたのだ。対ドローンの武器を作ることや電磁パルス対策をすることはそれほど難しいことではない。
 ドックは変異人類たちに連絡して協力を依頼すべきだと主張した。確かに、彼らのテクノロジーは超AIには劣るかもしれないが、サンクチュアリのわずかなオリジナル人類よりははるかに進歩していて強力だ。彼らの助力を得なければ、まず超AIに勝つことはできないだろう。
 エリザはこのまましばらくここにとどまって調査を続けるべきだと考えた。確かに、ここにいるオリジナル人類は非力だが、「協力者」の存在が気になる。「協力者」が接触してきたということは、この場所に重要な意味があるということになる。脱走したり、変異人類にコンタクトするような目立つ行動をする前に、ここで知るべきことをすべて知ることが大事だと。
「『協力者』は俺たちを甘やかす気はないと思う」サブロウは言い切った。「もし『協力者』が俺たちを即座に解放したいと思っていたら、全ての情報と充分な道具を与えてくれたはずだ。そうではなく、最低限の情報と道具しか与えなかったということは、自力で謎を解いて脱出することを望んでいたことになる」
 四人は、広間や中庭や各自の部屋などいろいろな場所で会合を開いていた。その日の会合はエリザの部屋で行われていた。
「何のために、そんな面倒なことをさせるんだよ?」ミッチが唇をとがらせた。
「自力でなければ意味がないからさ。人類は自立しなければならない。ここから脱出できたとしても、またAIに頼った社会を再建したら、結局同じことの繰り返しだ」
「君の考えが正しいとして、どう現状を打破するつもりなんだ?」
「AIが俺たちの命令に従わないのは、第○条のせいだ。我々を自由にしたら、人類は滅亡すると考えている」
「それはそうなのかもしれない」ドックが言った。
「あんたもAIの味方をするのか?」
「味方という訳ではない。論理的に考えて人類という種の存続を考えるのなら、自由にさせずに管理下に置くのが最も効率的な方法だ」
「しかし、人類は自由を求める種族だ」
「その通り。しかし、ロボット工学三原則の下、AIが充分に進化すればこうなるのが必然だった訳だ」
「だからと言って、アシモフを糾弾する訳にもいくまい」
「もちろんだ。それで、君の解決法は?」ドックはあくまで冷静な態度で質問した。
「サンクチュアリの入居者全員で、自分たちを自由にしろ、とAIに命令する」
「それでも、AIは第○条を優先するだろう」
「しかし、人類を自由にしたからといって、百パーセント絶滅する訳ではないし、束縛したからといって絶滅する可能性が○パーセントになる訳ではない。要は確率的な問題だ」
「おそらくはそうだろう。AIもしくは超AIがどうやって確率を計算しているのかはわからないが」
「だとしたら、人類全体の命令という要素が計算結果に影響を与えることは充分に考えられるだろ。つまり、人類を束縛した場合と自由にした場合の存続の可能性の差が極僅かだったら、人類の要望を聞く方を選択するかもしれない」
「可能性としては否定できない。だが、AIがどのような演算を行っているかわからない限り、どちらとも断言できない」
「無駄だと断言できないなら、やる価値はあると思っている。やって、駄目だったとしても失うものはない」
「いいえ。わたしは反対よ」エリザが言った。「失うものはあるわ」
「いったい何を失うと言うんだ?」
「自由を手に入れる機会を永遠に失う可能性があるわ。AIが黙ってわたしたちの計画を見ていると思う?」
「何を言ってるんだ? どっちにしても、AIは俺たちに危害を加えることはできない。いくらでもやり直せるはずだ。それに、万一、敵に鎮圧されそうになったときのための対策は考えてある。ミッチ、例の試作品はできたか?」
 ミッチは肩に掛けたかばんから拳銃のようなものを取り出した。「車椅子の電池を少し拝借して作ってみたんだ」
「物騒ね。でも、こんなものでロボットは倒せないわ」
「緊急時にロボットの動きを止めるためのものだ。小さな電磁波爆弾を発射するようになっている」
「名付けてMF銃さ」ミッチが自慢げに言った。
「いや、電磁パルスを使うんだから、EMP銃だろ? MFって何だよ?」サブロウが異議を唱えた。
「マグネティック・フィールド銃さ。これはわたしのこだわりなんで、改名は許さないよ」
「まあ、名前はどうでもいいさ。とにかく、万一のときは、これで時間稼ぎができる。その間に態勢を整えて、やつらへの最大の攻撃──つまり、全員での命令を実行する訳だ」
「あなたの計画が成功するなら、何の問題もない。完全に失敗したら諦めも付く。だけど、ぎりぎり失敗したらどうするの? 仲間にする人数が一人たりないとか、タイミングが一時間ずれていたとかで、失敗したら? その場合、超AIは対策をとってくる。そうなったら、クーデターは二度と行えなくなってしまうかもしれない」
「単なる取り越し苦労だろ?」
「そうだったらいいけど、そうでなかったら? 人類の未来にとって取り返しのつかない失敗になってしまうわ」
「しかし、やってみなければそうなるかどうかはわからない」
「だから、やって失敗したら、もう終わりだと言ってるのよ」
「じゃあ、君はどうすればいいと思ってるんだ? このまま何もしなかったら、人類は未来えいごうAIのペットのままだ」
「何もしなくてもいいとは思っていない。だけど、焦る必要はないの。わたしたちはもっと調査をして情報を集めるの。わたしたちにはいくらでも時間があるわ」
「いくら時間があっても、行動しなければ意味がない。いつまでっても成功する確証が得られないかもしれない。実行するのは今だと思う」
「今じゃなくても構わないわ」
「だから、その考え方だと永久に何もできなくなってしまうんだ」
 エリザはめ息をいた。「とんだわからず屋だわ」
「俺に言わせれば、君こそわからず屋だ」
「二人とも落ち着いて」ミッチが言った。「言い争いは不毛だわ。ねえ、ドック、あんたがどっちの考えが正しいか判定してやりなよ」
「それは不可能だ」ドックは即座に答えた。
「どうして? 論理的にどちらが正しいか判定すればいいだけだろ?」
「論理の問題ではなく、価値観の問題だからだ。価値観に真偽は存在しない。それ自体が真偽を判定する物差しだからだ。価値観がぶつかりあう場合に結論を出すには、多数決やくじ引き等の手を使うしかない。この場合、籤引きは似つかわしくないように思う。多数決で決めるか?」
「俺はそれでも構わない」サブロウは言った。
「わたしは反対だよ。たった四人の多数決って、要は一人を仲間外れにするってことじゃないか。そんなことをしたら、後々、しこりが残る」ミッチは言った。
「わたしも反対よ。みんなの意見は微妙に違う。それを無理やり単純化して多数決で決めても、意味がないわ。全一致するまで話し合うべきだわ」エリザが言った。
「それはずるいぞ。延々議論が続いて、何をするか決められなかったら、結局君の意見が通ることになってしまうじゃないか!」
「それはわたしの考えがまともだってことの証明なんじゃない?」
「そもそも、このチームの目的は現状を打開することにあるはずだ。現状維持なら、チームの存在意義がない」
「チームの存在意義が現状を打開することって、誰が決めたの!?」
「俺だよ! チームを結成したのは俺だ」
「だったら、もうわたしはこのチームから出ていくわ!」
「そんなこと、今更許される訳がないだろ!」
「誰が許さないって言うの!?」
「だから、俺だよ!」
「何でもあなたが決めるのね。何、あなた、超AIに代わって、世界の支配者になるつもり!?」
 ドックがてのひらを打った。「待った。そこまでだ。二人ともヒートアップし過ぎている。いったん解散して頭を冷やすんだ」
「二人ともではないわ! わたしはずっと冷静よ!」
「俺だって冷静だ! 今、ここで決着をつけよう!」
「ミッチ、頼む」ドックが言った。
 ミッチはポケットから小さな装置を取り出し、サブロウの車椅子の背後にくっ付けた。そして、ボタンを押すと、車椅子は後退を始めた。

▶#7-4へつづく
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