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連載

小林泰三「未来からの脱出」 vol.32

【連載小説】全ての真相が明かされた。ついにハンドレッズは施設から脱出することに決めるが――。 小林泰三「未来からの脱出」#8-4

小林泰三「未来からの脱出」

※本記事は連載小説です。

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「日記に暗号をひそませたのも、部屋に地図を隠したのも、ミッチに偽指紋の指貫を作らせたのも全部君だったんだよ」
「フェイクだ。今の画像はすべて俺を騙すためにCGで作り上げたフェイクだ」
「まもなく記憶を封印する君に噓の映像を見せても仕方がない。我々は君たちをいつも監視していた。指紋だって、君たちが脱走方法を考案できるように、わざとロボットに取り付けたのだ。だが、君が信じたくないのなら無理に信じる必要はない」
『協力者』は幻だった。そんな者はいなかったのだ。
 サブロウはMF銃を取り落し、拳を握りしめた。
「なぜだ? なぜ、俺にこんな仕打ちをする?」
「仕打ち?」
「俺が大切に思っている人を目の前で殺害し、そしてその人物が人間でないことを俺に突き付けたことだ」
「人生にはスパイスが必要だ。特に君のようなタイプの人間には」
「何だと?」
「君のようなタイプの人間に、単にストレスのない状態を長く続けさせると、それ自体がストレスになってしまうのだ。こうしてときどきストレスを与えることによって、君はより意欲的な生活を送ることができるのだ。たとえ記憶が封印されてもその効果は続く。一方、恋人を失った悲しみ自体は記憶の封印で消えてしまう。メリットしかない訳だ」
「こんなことはもうやめるんだ! こんなことを続けていても誰も幸せになんかなれない」
「その意見は却下する。現に君は改善している。密室殺人の謎を解くのは楽しかったろう?」
「次のサイクルではもう君のことなど好きにならない。俺は自分自身に警告する」
「残念ながら、自分にメッセージを送る時間はもうない」
 サブロウはMF銃を拾った。
 ほぼ同時に窓を破って二体のロボットが飛び込んできた。人型ではない。球体のベースから長い手足のようなものが付き出している。
 殺人用ロボットか? いや。そのはずはない。
 サブロウは一体に向かって、MF銃を発射した。
 ロボットはスパークし、動きを止めた。
 そして、もう一体……。
 だが、もう一体の姿はなかった。サブロウが一体を攻撃している間に姿を消したのだ。
 しまった!
 サブロウは振り返ろうとした。だが、そのときには首に何かが当てられていた。
 サブロウはぎりぎりとぎしりをした。
「エリザ、君に心はあるのか?」
 エリザは即答しなかった。

   7

 ドアを開けて、ドックとミッチがサブロウを部屋の外に連れ出し、その場で車椅子を止めた。二人はその後、部屋に戻ろうとしたが、目の前でばたんとドアが閉じた。
「悪いけど、今日はもう話し合う気になれないの。みんな帰ってくれるかしら?」部屋の中からエリザの声がした。「これから職員さんに部屋の掃除をしてもらうから」
「職員を部屋の中にいれるのは、あまり勧められない」ドックが忠告した。
「わたしは部屋の中に大事なものは置いてないから大丈夫よ」
 三人はしばらく無言でドアの前に立っていた。
「仕方がない。例の計画の話は俺の部屋ででも……」
 ドックが突然き込んだ。
 サブロウが背後を見ると、男性職員が掃除道具を持って近付いてきていた。
 職員は三人に未知の言語で何事かを呼び掛けた。
「ご苦労さんです」サブロウは作り笑いをした。
 職員も何か言いながら微笑ほほえんだ。そして、ドアをノックする。
 ドアが開き、エリザが顔を見せた。
「今だ!」サブロウが言った。
 ミッチは車椅子を急発進させ、職員に体当たりした。
 エリザは素早くドアを閉めようとしたが、車椅子が挟まっているので、閉められない。
「残念でした。強引に閉めたら、わたしがをしてしまうので、あんたは閉められないんだ」ミッチはMF銃を取り出すと、エリザに発砲した。
 エリザはスパークし、ナノマシンの集合体である破片を撒き散らした。
 職員は逃げようとしたが、サブロウとドックの二人に挟まれる形になった。二人は同時にMF銃を発射した。
 職員はエリザほど精巧に造られていなかったらしく、雑に崩壊した。
「よし逃げるぞ!」警報の鳴る中、サブロウは二人に呼び掛けた。「密室殺人のトリックが成立しなかったのは、やつらにとって想定外だったはずだ。わずかに余裕ができる」
 三人は出口に向かい、ミッチの作製した装置で、扉のロックを解除した。
「ドック、あんたがエリザの正体について、教えてくれて助かったよ」
 三人は大急ぎで森の方へと向かった。
「前のサイクルのわたしも実際に確認した訳ではないらしいがな。ただ、論理的に考えて彼女がロボットであるとしか考えられなかったらしい。おそらく君はエリザがロボットである証拠をの当たりにしたのだが、それを暗号にして残す余裕はなかったのだろう」
「一つ、気になることがあるんだけど」ミッチが言った。「これもまた、やつらの掌の上ってことはないのかい?」
「その可能性はある」ドックは言った。「いや。むしろ、その可能性の方が高いだろう」
「じゃあ、この脱走に意味があるのかい?」
「いい質問だ。わたしは脱出できる可能性が一パーセントでもあるなら、するべきだと思う。いつかそのうち成功するだろうから」
「○・一パーセントでも?」
「○・一パーセントでも、○・〇一パーセントでも、一億分の一パーセントでもだ」
「さすがに、一億分の一ってことはないだろう。俺は何度も成功しているようだからな。おそらく、やつらはその程度のことは不可避のロスとして……」サブロウは突然車椅子を停止した。
「どうした?」ミッチは言った。「あんたの車椅子の無線装置は無効にしてあるはずだから自動停止はしないはずだ」
「なるほど。そういうことか」サブロウはつぶやいた。
「どうしたんだ?」
「なぜ、俺はここに戻って来たのか、考えたんだ」
「我々を救出するためだろ?」ドックが言った。
「それもあるだろう。だが、俺は何度も戻ってきたんだ……今回は二人で行ってくれ」
「サブロウ、何を言ってるんだ?」
 警報は鳴り続けている。
「もう時間はない。やつらは俺がここで食い止める」サブロウは二丁のMF銃を取り出した。
「全員は倒せないだろう」
「それでも、構わない。追手を少しでも遅らせる」
「君一人を置いて行くことなんかできない」
「俺にはここでの使命があるんだ。ついさっきわかった」サブロウは前を見詰めていた。
「じゃあ。ハンドレッズは解散なのかい?」ミッチが言った。
「いや。そうじゃない。二手に分かれるだけだ。サンクチュアリの中と外と。……もう時間がない。早く!」サブロウは叱るように言った。
「でも……」
「行こう。ここで躊躇ためらっていたら、全員が脱出できなくなってしまう」ドックがミッチの肩を押した。
 ミッチは一瞬、戸惑いの表情を見せたが、すぐに笑顔に変わった。
「わたしたちはきっと戻ってくるよ。たとえどんな姿になったとしても。さよなら、サブロウ」
「さよなら、ミッチ」
「さよなら、サブロウ」
「さよなら、ドック」
 二人は森の中に消えていった。
 まもなく、建物の中からエリザが現れた。もしくはエリザの姿を実現するナノマシンをまとった別のロボットか。
 まあ、どっちでも同じことだ。
 サブロウは二丁のMF銃を構えた。
「さあ、来い、エリザ! 俺が相手だ!」

▶#8-5へつづく
◎第 8 回全文は「カドブンノベル」2020年6月号でお楽しみいただけます!


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