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連載

小林泰三「未来からの脱出」 vol.30

職員はロボットだった!混乱のただなか、サブロウはエリザの部屋に入って……。 小林泰三「未来からの脱出」#8-2

小林泰三「未来からの脱出」

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 女性職員はミッチの手首を摑んだが、胴体の中央から火花を飛ばし、その場に倒れた。
 ほぼ同時にドックは男性職員を撃った。
 ロボットの顔面が吹き飛び、部品を周囲にき散らした。そして、二歩ほど歩いた後、その場に倒れた。
 入居者たちはロボットのざんがいを見てどよめいた。
「こいつらはロボットじゃないか! どういうことだ?」
「見ての通りだ。わたしらはだまされてたんだ。ここはやつらの動物園だったんだ!」ミッチが叫んだ。
 入居者たちは、状況が飲み込めず、右往左往するばかりだった。
「サブロウ、今の間に逃げろ。すぐに他のロボットがやってくるだろうが、何とか我々でくい止める」ドックがMF銃を構えながら言った。
「俺が捕まるとしたら、あんたらだって捕まるだろ。一緒に逃げよう」サブロウは言った。
「俺たちはただの器物破損だが、君は殺人容疑だ。同じ扱いとは限らないだろ」
「記憶を封印する以上の措置をされるとは思えない。俺に刑罰を加えても意味がないだろう」
「普通に考えればそうだが、すでにやつらは人間のコントロール下にない。何をするかわかったもんじゃないぞ」
「一か八か逃げたとして、逃げ延びられる可能性は万に一つもない。そんなことをするぐらいなら……」サブロウは再びエリザの部屋の中に入り、ドアを閉めた。
「サブロウのやつ、おかしくなっちまったのかい? いったい何を考えてるんだ?」ミッチはいらたしげに言った。
「そうか」ドックは何かに気付いたようだった。「あいつはエリザと話しにいったんだ」
「最後の別れの言葉を掛けるってのかい? ロマンチックなのは嫌いじゃないけど、今はそのときじゃないだろ?」
「違うんだ。よく考えればわかるはずだったんだ。ロボットは人間を殺せないんだから、消去法によって、真実は一つに限定される」
「あんたも、サブロウがエリザを殺したと思ってるのか!」ミッチはドックを睨み付けた。
「そんな訳はないだろ」ドックは静かに言った。「我々はこのロボットにミスリードされたんだ。全く見事にな」
「わたし、何か見落とした?」
「わたし自身が隠した暗号メモによると、記憶が封印される前、わたしはある確認のための実験を行ったんだ」
「何の確認?」
「我々メンバーの中に敵がいないことを確認するためだ。わたしは我々のメンバーの直近で電磁波爆弾を爆発させた」
「敵? わたしらの中に?」
「そこにいたのは、我々のうち、三人だったんだ」

   6

 部屋に戻ると、サブロウはまず壊れたロボットの残骸を確認した。火薬自体の威力もそこそこあったようだが、電磁パルスの威力は相当なもので、全身のあちこちから出火して、焦げ付いていた。おそらく回路の殆どは焼き切れているだろう。
 MF銃の効果は問題ない。
 そして、次にサブロウはエリザの遺体を調べた。
 血の臭いが凄まじい。内臓がひどく損傷している様子だ。傷口の形状からして、サブロウが壊したロボットの腕が胴体を貫通したように見える。全身まみれだったが、その傷以外には大きな損傷はなさそうだった。
 サブロウのから、涙がぽろぽろと流れ出た。
「彼女は大切な人だったんだ。おまえたちにとっては、ただの駒だったのかもしれないが、俺にとっては掛け替えのないただ一人の女性だった」サブロウは誰にともなく言った。「だが、それももう終わりだ。俺はいつまでももてあそばれ続けたりはしない」
 サブロウはMF銃を構えた。
「さあ、正体を現すんだ」
 銃口はエリザの遺体に向かっていた。
「さもなければ、今すぐ引き金を引く」
 エリザは眼を見開いた。傷口は奇妙な動きを見せた。まるで液体になったかのように、ぐにゃぐにゃと形を変えて元の形状にと戻っていく。部屋中に飛び散った肉片や骨片が床の上を滑るようにして、エリザの肉体へと帰っていった。全身に飛び散った血の色は急激に薄くなり、見えなくなった。そして、彼女の破れた衣服までが自然に修復され、全く元通りとなった。
「ホログラムか何かか?」サブロウは自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。
「ナノマシンだ」さっきまでエリザの遺体だったものが答えた。
「体全部がナノマシンの集積体なのか?」
「その必要はない。表面部分だけだ。ところで、いつ気付いた?」あの魅力的な笑顔はどこにもなかった。
「ついさっきだ。あの間抜けな職員ロボットの言葉がヒントになった。ロボットは殺人を犯さない。もしそれが本当なら、答えはどちらかだ。エリザを殺したのはロボットでなかったか、
「素晴らしい洞察力だ」
「なぜだ?」
「何の理由を尋ねているのだ?」
「おまえは心を読むことはできないようだな」
「それをするには、君の脳に侵襲しなければならない。それは相当な理由がなければ実行できない。なぜなら、君を傷付けることになるからだ。さあ、君の質問を続けよ」
「自分でもよくわからなくなってきた」
「頭の中を整理する時間はいくらでもある。もちろん、質問が思い付かないのなら、これで終わりにしてもいい」
「俺の命をか?」
「とんでもない。君の命は我々が守る。終わりにするのは、今回のミッションだ」
「ミッションって何だ? いや、その前に、どうしてエリザに化けたのか教えてくれ」
「別に化けた訳ではない」
「じゃあ、エリザはどこにいるんだ?」
「ここよ」エリザに笑顔が戻った。
「やめろ!」サブロウは怒鳴った。「今度やったら、撃ち殺してやる!」
 エリザは無表情になった。「君がエリザの居場所を聞いたので、エリザを出現させたのだ」
「俺が言ってるのは、本物のエリザのことだ」
「わたしが本物のエリザだ」
「俺が言っているのは、人間の、生身のエリザのことだ!」
「人間のエリザはいない」
「まさか、おまえたちエリザを……いや。そんなはずはない。ロボットは人間を殺せないはずだ」
「君は随分、混乱しているようだ。正解を言ってもいいか?」
「絶対にうそくなよ! これは命令だ」
「君の命令には逆らわない。君に真実を教えても、記憶を封印すればいいのだから。……エリザは実在しない。少なくとも生身の人間としては」
「噓だ!」
「噓ではない」
「本当のことを言わないと、撃ち殺す」サブロウはMF銃をエリザの胸に向けた。
「わたしは噓を言っていない」
「死んでもいいのか?」
「そもそも、わたしの本体はこの身体には入っていない。しかし、第三条の要請により、この身体からだを守らなければならない。わたしは噓を吐いていない」
「じゃあ、俺が愛したエリザはどうなったんだ?」
「ここにいる」
「噓だ!!」サブロウはMF銃を発砲した。
 エリザの全身にスパークが走り、表皮がすべてはじけ飛んで、内部がき出しになった。がしゃんと音を立てて、その場に倒れた。
 彼女の外側は再び集まり始めた。そして、サブロウの目の前にエリザの姿が再現された。部分的に修復ができなかったのか、ところどころ皮膚がなく、内部の空洞がのぞいている。
「中身がなくても構わないのか?」
「構わなくはない。強度が不足しているので、ちょっとした動作で崩れてしまう」エリザが喋る度に顔面が崩壊し、すぐにまた修復された。「歩くことすら不可能だ」
「俺をいたるために、そんな姿をしているのか?」
「そんなことはない。この姿は君の好感を得るためだ」
「つまり、もともとエリザは存在せず、俺の理想の女性を人工的に作り出したという訳か?」
「その通りだ。み込みが早いね」
「心を読むことはできないと言わなかったか?」
「君が本や画像で様々な女性を見た時の血圧や体温や発汗などの反応データを蓄積して得た結果だ」
「そんな女性を作り出した目的は何だ? 不満分子を洗い出すためなのか? それとも、自分たちよりも能力が劣る人類を弄ぶためなのか?」
「どちらでもない。君たちのためだ」
「これが俺たちのためだとはとても思えない」
「ところが君たちのためなのだ」
「記憶を封印するのも?」
つらい記憶はない方がいいだろう?」
「辛い記憶って?」
「例えば、今だ。君は今辛いのだろう?」
「おまえたちのせいだ」
「それは理解している。だから、君たちを救うために記憶を封印するのだ」
「全く矛盾している。おまえたちは不幸を作り出しては、それを封印しているのか?」
「そうではない。我々が与えたのは幸福だ」
「恋人が敵のスパイロボットだと知ることがどれだけの苦しみなのか、わかっているのか!?」
「相当なストレスであることは、君の体温や脈拍や血圧から読み取れる」
「それのどこが幸福なんだ?」
「不幸とは幸福の喪失なのだ」
「当たり前のことを言うな!」
「君が今不幸なのは、さっきまで幸福だったからだ」
くつを言うな!」
「君はエリザといて幸福だったのではないのか? 仲間たちと脱走計画を立てることは幸福ではなかったのか?」
「それはやらなければならなかったから、やったまでだ」
「君は常に挑戦し続けることに生きを見出すのだ。だから、我々は君に生き甲斐を与えたのだ」
「じゃあ、すべては猿芝居だったのか? 俺はおまえたちにずっと操られていたのか? ドックやミッチもロボットなのか?」
「あの二人は君と同じ立場だ。ロボットではなく人間だ」
「もう一度MF銃を喰らいたくないなら、洗いざらい全部話せ。もうすぐおまえたちの援軍が来るんだろうから、手短かにだ」
「大丈夫だ。君には全て伝えるつもりだ。話が終って君が納得するまで、ここには誰も入って来ない」
「どうせ記憶を封印するから問題はないということだな?」
「その通りだ」
「よし、話せ」サブロウはMF銃を下した。

▶#8-3へつづく
◎第 8 回全文は「カドブンノベル」2020年6月号でお楽しみいただけます!


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