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連載

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」 vol.18

恋と戦争の火花があちこちであがり……。赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」#11-1

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」

※この記事は、2020年3月10日(火)までの期間限定公開です。


前回までのあらすじ

興津山学園に通う須永令奈は通学中、暴走する車から命を救ってくれた刑事・村上に恋をする。運転席の男は死んでおり、手には令奈の姉・美樹の名前のメモがあった。組の息子・大崎裕次は令奈を誘拐し美樹に会おうとするが、令奈は別の男たちに連れ去られてしまう。一方、対立する組の息子・小林志郎と恋愛関係にある香は、組の抗争を機に駆け落ちを企み家を抜け出すが、小林組の男たちがエレンを襲うのに遭遇し発砲、エレンと共に屋敷へ逃げ帰る。

詳しくは 「この連載の一覧
または 電子書籍「カドブンノベル」へ

 16 命の重さ

「え……」
 電話で事情を聞いたながみどりは、しばし絶句していた。
おおさきゆうさんは、そちらには──」
 と、こうとすると、
「そんなおかしなこと!」
 と、緑子が言った。「裕次がを人質にする、って言ってたのに」
 ケータイで外部スピーカーにしていた有里は、たちと顔を見合せた。
「お母さん! それってどういう意味?」
 と、美樹が言うと、
「美樹? あんた、どこにいるの?」
あまもとさんのお宅。ね、裕次が令奈を人質にするって、どういうこと?」
「裕次が、あんたを見付けるために、令奈を人質にするんだと言ってたの」
「どうして早く言ってくれないの!」
「だって、まさかと思って……。令奈が帰らないんで心配になったけど、話がややこしくなると思って……」
「これ以上、ややこしくならないわよ」
 と、美樹は言った。
「じゃあ……。教会のそばの、車の中で撃たれた男の人が死んでたって……。あれがもしかして……」
「令奈を連れて行こうとして、大崎と対立してるばやしって一家の人間に撃たれたんでしょうね」
 と、有里は言った。「ともかく、令奈は捕われてるんです」
「どうしましょう……。裕次を行かせるんじゃなかった」
 緑子の声が震えた。
「ともかく待ってて」
 と、美樹が言った。「こっちでどうするか考えるから」
 通話を切ると、
「令奈を助けないと」
 と、美樹は言った。
「裕次さんは美樹さんに会いたがってるわけでしょ」
 と、有里は言った。「美樹さんが裕次さんを呼び出すのは、難しくないわね」
「そう簡単じゃないでしょ」
 いつの間にか、さちが居間の戸口に立っていた。
「おちゃん……」
「裕次って人は、令奈ちゃんが敵方にさらわれたってことを分ってるでしょう。当然、美樹さんに誘われてもノコノコ出ては来ないわよ」
「あ、そうか」
 と、有里はうなずいて、「そうなると……。でも令奈を見殺しにはできないよ」
「当り前です」
 と、幸代は言った。「まだ二十何時間かある。令奈ちゃんがどこにいるか、捜すのよ。その間に、美樹さんは、裕次と連絡を取って、ともかくどこかで会う手はずを」
「分りました」
 と、美樹は肯いた。「関係ない令奈をさらうなんて、ひどい!」
「落ちついて」
 と、幸代は言った。「切羽詰ったときほど冷静にならないと」
 そこへ、
「──何の会議?」
 と、欠伸あくびしながらふみが出て来た。
「ちょうど良かった。文乃、あなた、コーヒーいれて」
 幸代に言われて、
「は?」
 と、文乃は目をパチクリさせた。
 というわけで──十分後、コーヒーの香りが居間をたす中、「会議」は続いた。
「元はといえば」
 と、幸代が言った。「大崎と小林という二つのグループの争いなわけでしょう」
「そうです」
 と、美樹が肯く。「どっちも、今どき時代遅れな〈武闘派〉で。いわゆる〈裏社会〉では浮いた存在らしいです」
「小林の狙いは、大崎裕次を捕えて、『息子を殺すぞ』と、大崎を降伏させることでしょうね」
 と、幸代は言った。
「私は──正直言って、令奈を助けるためなら、裕次がどうなっても構いません」
 と、美樹が言った。「親の家に戻ってから、裕次はもう別人になりました」
「ただね」
 と、幸代が言った。「言われた通り、裕次をおびき出して、小林方に渡したとしても、そんな連中が、あなたや令奈ちゃんを返すとは限らないってこと」
「本当だ」
 と、有里は言った。「そんな、戦争まがいの闘いをやろうなんて人たちだもの、人一人殺すぐらい、何とも思ってないでしょ」
「ああ……。どうしよう!」
 と、美樹が頭を抱える。
 ゆっくりとコーヒーを飲んで、幸代が言った。
「大崎と小林は、今にも戦争を始めそうなのね?」
むらかみさんの話だとね」
 と、有里が言った。
「じゃあ……いっそ、早く戦争が始まって、勝敗がついてしまえば、令奈ちゃんを人質にしておく意味がなくなるかもしれないわね」
「お祖母ちゃん……。でも、そうなったら、何人も死ぬかも」
「自分で死にたがってドンパチやる人より、かかわりのない令奈ちゃん一人の方が大切です」
 と、幸代は断言した。
 すると、
「──おっしゃる通りです」
 と、声がした。
 居間の戸口に、てらとおるが立っていたのである。
「まあ、あなた──」
は、ぐっすり眠っています」
 と、寺井は言った。「もう思い残すことはありません」
「でも……」
「今のお話、聞かせていただいてました」
 と、寺井は言った。「私に、お役に立てさせて下さい」
「あなたが?」
「私は、大崎の所から逃げて来た者なんです」
 寺井の言葉に、みんなぜんとした。

#11-2へつづく
◎第11回全文は「カドブンノベル」2020年1月号でお楽しみいただけます!


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