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連載

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」 vol.5

赤川次郎が描く、祖母・母・娘の三世代ミステリ! 「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」#8-1

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」


前回までのあらすじ

興津山学園に通う須永令奈は通学中、暴走車から命を救ってくれた刑事・村上に恋をする。運転席の男は死んでおり、ポケットには令奈の姉・美樹の名前が書かれたメモがあった。美樹と、寺井徹に恋をする根本加代子は、学園に身を潜めていたが、急に姿を消してしまった。美樹の父で牧師の章二は、浮気相手の細川希代子から夫が心臓発作で倒れ、兄が亡くなったと電話で聞き面食らうが、そこへ美樹と駆け落ちしたはずの大崎裕次が訪ねて来る。

11 つながる(つづき)

 吐く息が白い。
 ハッ、ハッと時計が秒を刻むように規則的に呼吸をする。
 土手の道でのランニング。──おおさきかおりは、今朝も同じ道を走っていた。
 もうすぐ。──もう少しだわ。
 つい、ペースが上ってしまう。
 いけない、いけない。怪しまれたら大変だ。
 父の、要塞のような邸宅に移った香だが、父が敵対しているばやししんすけの息子、ろうとの恋は諦めたくない。
 父の館にいる限り、必ずボディガードという見張りが付いている。
 もちろん、父がどう言おうと、香は行きたい所があれば出かけて行く。しかし、彼女を守るためのボディガードを拒むことはできない。
 しかし、会えない、となると何が何でも会いたくなるのが恋というものだ。
 香は考えた。
 父に承知させた、この毎朝のランニング。このときに会うしかない。
 といっても、今、土手の上の道を走っていても、左手下の道を、車がずっと並んで走っている。香を守る男たち二人が乗っているのだ。
 香のアイデアとは──土手の道は、土手の一番高い位置にある。そこから右側へは、斜面になっていて、川の流れへと続く。
 ボディガードは土手の下の道にいるから、反対側の斜面は見えない。
 ほぼ半分来た辺りで、川へと下る斜面に、小林志郎が腰をおろしていた。
 香は足を緩めて、立ち止った。
 下の道の車もとまって、窓からボディガードが顔を出した。
「お嬢様! どうかしましたか?」
 と、下から声をかけてくるので、
「何ともないわ! ちょうど半分だから、ひと休みするの。そこにいて」
 と、香は言った。
「承知しました!」
 香は、荒く息をしながら、さりげなく川の方へ向いた。
「──大丈夫か」
 と、志郎がそっと言った。
「ええ。ごめんなさいね、こんな風にしか会えなくて」
 道の側へ背を向けて、香は言った。
 小声で話すしかない。
「どうなってるか、聞いてる?」
「いや、僕の方も、おやが何も言おうとしないんだ」
 と、志郎は言った。
「どうやって出て来たの?」
「早朝練習と言って。──こっちも、ボディガードを付けるって言われたけど、みっともないからやめてくれって怒ってやった」
「ああ……」
 と、香はため息をついた。「こんなに近くにいるのに、手も握れないなんて!」
「そうだなあ……」
 香は少しの間、黙っていたが、
「──もう行くわ」
「うん。また明日」
「ええ」
 とうなずいた香は、「私、考えるわ」
「何を?」
「こんなこと、耐えられない! あなたとずっと一緒にいたい」
「そりゃ僕だって──」
「任せて」
 と、香は言った。「必ず、いい方法を考えるから」
 そして、反対側の車の方へ、
「行くわよ!」
 と、声をかけ、土手の道を軽快に走り出した。

「恋をしてる?」
 と、大崎やすしは顔を上げて、「香がか」
「はい」
 と肯いたのは、秘書のくわエレン。
「香が……。そうか」
 と、大崎は大きなソファにゆったりと身をもたせかけると、「確かに、恋をしてもおかしくない年ごろだ。しかし──確かなのか?」
「もちろんご本人にいてはいませんが、間違いありません。女ですから分ります」
「相手が誰か、分ってるのか」
「いえ、まだです。でも調べます」
「頼むぞ。香はゆうと違って、何にでも真剣になるやつだからな」
「おっしゃる通りです」
 と、エレンは肯いて、「それだけに心配です。当分、好きな人に会えないのですから」
「うむ……」
 大崎は、ちょっと困ったように、「しかし、今はどうしようもない。好き勝手に出歩かせるのは、あまりに危険すぎる」
「何かの形で、私たちに知られることなく相手と連絡ができるような道を残しておくのが賢明でしょう」
「そうだな」
 大崎はほほんで、「さすがだ。やはり女の気持は女が一番よく分る」
「からかっておいでですか?」
 と、エレンは微笑んだ。
 ソファにくつろいでいた大崎は、立ったまま報告しているエレンへ、
「そばへ来い」
 と促した。
 エレンがソファに並んで座ると、大崎は彼女の肩を抱いて、
「この争いが終ったら、はっきりさせよう」
 と言った。
「無理をなさらないで下さい」
「少しは無理しないと、何ごとも決らない。違うか?」
「それはそうですが……」
 大崎が抱き寄せると、エレンは逆らわなかったが、「香さんが、私に、お父さんとどういう仲なのか、と……」
「あいつがそう言ったのか」
「もう大人なんですよ、香さんは」
「うん。──その点、裕次の方が、わがままな子供かもしれん」
「ですが……」
 と、エレンが口ごもる。
「──何だ?」
「あなたに万一のことがあれば、裕次さんが……」
「そんなことを心配しているのか」
「だって、あなたがおっしゃったんですよ。『何が起るか分らない』って」
「そうだったな」
 と、大崎は肯いて、「しかし、大丈夫。俺は死なない」
「ええ、絶対に死なないで下さいね」
 エレンはそっと大崎にキスした。

>>#8-2へつづく ※9/20(金)公開
◎第8回全文は「カドブンノベル」2019年10月号に掲載されております。


「カドブンノベル」2019年10月号

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