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連載

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」 vol.16

いよいよ駆け落ち当日、待ち合わせ場所の公園で香が耳にしたこととは……。赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」#10-3

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」

※この記事は、2020年2月10日(月)までの期間限定公開です。

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 吐く息が白い。
 香は、小林ろうと待ち合せた公園へと入って行った。
 凍えるような寒さだが、一向に気にならなかった。
 出て来てから、あの台車にのせておいたバッグを持たずに来てしまったことに気付いたが、あんなものを持っていたら、とがめられていたかもしれない。
「何とかなるわ……」
 香は、志郎へメールを送った。
〈待ってる〉
 そのひと言で、志郎には分るはずだ。
 この公園は屋敷から離れてはいるが、もしいなくなったことが知れたら、ここへ捜しに来るかもしれない。
 香は、街灯の明りの届かない植込みのかげにしゃがんで、様子をうかがうことにした。
 メールの返事はない。返信できる状況なら、何か言ってくるだろうと思った。
 まだ家を出られないのかもしれない。
 大崎の屋敷が、事故で開門せざるを得なくなったことが偶然なのだ。いくら男の子だといっても、小林の家を出てくるのは容易ではないだろう。
 さすがにじっとしていると寒さが身にしみる。
「早く来て……」
 と、思わず呟いていると、公園の外に車の音がした。
 あれか? 顔を出して覗くと、車は公園の前にとまったものの、中から数人の男たちが降りて来た。
 そして別の方角からも車がやって来た。
 何だろう? ──香は見付からないように、植込みのかげでじっと頭を下げ、息を殺していた。
「おい、他の連中は?」
 と、男たちが話しているのが聞こえた。
「他の場所にいるから、すぐには……」
「そうか。俺たち……七人か。どうする?」
 香も、父の手下たちなら見覚えがある。おそらく小林の所の男たちだろう。
「本当なのか? あの大崎の屋敷の門が、開いたままになってるってのは」
「ああ。いつもこづかいをやってる警官から言って来た。バスがすぐ近くで事故を起して、てんやわんやだそうだ」
「チャンスじゃねえか!」
「ああ。ただ、今はまだパトカーがいる。パトカーの目の前でドンパチやるわけにゃいかねえだろ」
「そうか。しかし、いなくなったら門は閉るだろう」
「そこだ。どさくさに紛れて門の中へ入って、どこかに隠れてる。そして、パトカーがいなくなって落ちついたら、こっそり中から門を開けるんだ。中からなら開けるのも簡単だろう」
「そいつはいい考えだな。──よし、ともかく大崎の屋敷の近くまで行ってみよう」
 ──聞いていて、香は青ざめた。
 どうしたらいいだろう?
 父親がどうなろうと構わない、という思いで出て来たが、小林の所の男たちに殺されるかと思うと、やはり放っておけない。
 そのとき、
「おい! 車が来る」
 と、一人の男が言った。
「うちの連中か?」
「違うぜ。小型の白い車だ」
 それを聞いて、香はハッとした。──白い小型車。エレンがいつも乗っている車だ。
 もしかして、香を捜しに?
 もし、エレンが香の家出に気付いたとしたら、この辺りに捜しに来てもおかしくない。しかし、小林の手下たちがいる!
「おい、その辺に隠れろ!」
 と、声がして、男たちがバラバラと駆け出す。
 香のいる所までは来ないが、同じように暗がりに身を潜めたらしい。
 車の停る音がした。

#10-4へつづく
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