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連載

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」 vol.1

【カドブン連載第1回 「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」】赤川次郎が描く、祖母・母・娘の三世代ミステリ!#7-1

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」


これまでのあらすじ

興津山学園に通う須永令奈は通学中、車に轢かれそうなところを救ってくれた刑事・村上に恋をする。運転席の男は死んでおり、手には令奈の姉・美樹の名前が書かれたメモがあった。駆け落ちをしたはずの美樹と、暴力を振るっていた父を刺してくれた寺井徹に恋をする根本加代子は、学園に身を潜める。一方、裏社会のボス・大崎康の娘の香は、対抗する組の息子・志郎と恋愛関係にあった。

   9 ツイてない話(つづき)

 頭に来たとき、思いの丈をぶちまける相手がいるかどうかは、大きな問題である。
 ほそかわは、浮気していて心臓発作で倒れた夫のために入院の手続をしながら、段々腹が立って来ていた。
「──本当にもう!」
 グチをこぼしたい友人といっても──。希代子が牧師のながと不倫中ということは、仲のいい妻たちの間で知られていて、このところ評判が悪い。
 希代子がグチをこぼそうものなら、
「自業自得でしょ」
 と、冷たく言われるのは目に見えていた。
「──そうだ」
 病院を出たところで、食事していて思い出したのは、兄のことだった。
 大分年上で、希代子のことをいつも気にかけてくれている。
「兄さんにかけてみよう」
 食堂は空いていたので、席でケータイを取り出した。
 しかし──かけても出ない。
「仕事中かしら……」
 気になった希代子は、兄の会社へかけてみることにした。
「──あ、もしもし。あめみや、おりますでしょうか。妹ですが」
 向うは、しばらく黙っていた。
「あの──」
「失礼ですが」
「は?」
「雨宮かつさんでしたら、亡くなりました」
「え……」
 希代子はしばらくポカンとしていた。
 気が付くと、もう電話は切れてしまっていた。
「今……何て言った?」
 亡くなりました? それって──どういうこと?
「聞き違いだわ。絶対にそうよ!」
 どうしよう? もう一度、電話してみようか。
 迷っていると、ケータイが鳴った。──兄さんかしら?
「もしもし?」
「失礼ですが」
 と、男の声で、「今、雨宮さんのことで、会社へ電話されましたか?」
「ええ。あなたは?」
「警察の者です。むらかみと申します」
「警察?」
「雨宮克郎さんとはどういう……」
「妹です。細川希代子といいますが」
「なるほど。結婚されて姓が細川に」
「そうです。あの──会社の人が言ってたのは……」
「ご存じなかったんですね。雨宮克郎さんは亡くなりました。殺されたんです」
「殺された……」
 希代子は食堂の中を見回して、この話を周囲の人に聞かれたくない、と思った。
「あの、ちょっと待って下さい。こちらからかけ直します!」
 やっと、まともな対応ができた希代子だった。
 食堂を出ると、夫の入院している病院の方へ戻って行って、ケータイに着信した番号へかけた。
「──失礼しました。あんまりびっくりして」
「分ります。お話を伺いたいのですが、その前に、遺体の確認をお願いできないでしょうか」
「はあ……」
 断るわけにもいかず、希代子はどこへ行けばいいのか聞いて、「すぐ伺います」
 ──どういうこと?
 ともかく、兄、雨宮克郎が死んだことは確かなようだ。
 兄は三十代半ばだが、独身だった。遺体の確認を希代子がしなくてはならないのも分る。しかし、「殺された」ってどういうことよ!
 殺されたというからには殺した人間がいるのだろう。刑事にはかなかったが、犯人は捕まっているのだろうか?
 夫は入院、兄は殺される。──何てひどい日なんだろう!
 この嘆きを聞いてくれる人はいない。
「そうだわ」
 と、希代子はつぶやいた。「に話を聞いてもらおう!」
 兄のケータイへかけようとして──思い付いた。その兄が死んだのだ。
「ひどいわ!」
 希代子は天を仰いで叫んだ。
 近くを歩いていた人が、びっくりして、あわてて希代子から遠くへよけて通って行った……。

>>#7-2へつづく ※8/23(金)公開
※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。

「カドブンノベル」2019年9月号収録「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」第 7 回より
○第 1 回~第 6 回は文芸カドカワでお楽しみいただけます。

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最新号 2019年10月号

9月9日 配信

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