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連載

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」 vol.22

抗争に巻き込まれ、引き裂かれた両家の恋人たちの運命は……。赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」#12-2

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」

※この記事は、期間限定公開です。

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 香はベッドに横になっていた。
 もう、どうすることもできない。
 ケータイは取り上げられていたし、部屋の電話も通じない。
「どうなるの……」
 とつぶやいてみたところで、誰も聞いてはいないのだ。
 もう──二度と志郎に会えないのだろうか……。
 ドアが開いて、エレンが入って来た。
「──何かあったの?」
 と起き上る。
「まだです」
 と、エレンは言った。「でも、もうじき、あちこちで殺し合いが始まるでしょう」
「ひどい話ね」
 と、香は言った。「でも、もうどうしようも……」
「香さん」
 と、エレンは言った。「危険なことですが、この争いを止める気はありますか」
「エレンさん……」
 香は目を見開いて、「でも──」
「社長に逆らうのは、本当はつらいんです」
 と、エレンは目を伏せて、「でも、このままでは、社長は間違いなく重い罪に問われる。いえ、それでも生きていればまだいいけど、死ぬかもしれません」
「ええ……」
「社長も、今は何も見えなくなっているんです。戦いの中に飛び込んで行くのが、自分の使命だと思ってらっしゃる。でも、きっと後になれば後悔します」
「エレンさん。──私に何かできることがある?」
「ここの見張りを、何とかします。抜け出して、もう一度、小林志郎さんと会えるように、努力してみます」
「お願いよ! 私、何でもするわ!」
「しっ、表の子分に悟られないように」
 と、エレンは言った。「──少し待っていて下さい。どうにかして外へ出られないか、調べて、見通しがついたら、もう一度来ますから」
「待ってるわ!」
 香は自分の中に、また生きる希望が湧き上って来るのを感じていた……。

 17 犠牲

「もしもし」
か」
ゆうさん。どこにいるの?」
「今さら、そんなこと訊いても、どうしようもないだろ」
「そうはいかないわ。が捕まってるのよ!」
「分ってる。しかし、俺にゃどうにもできない」
「私は妹を助けなきゃならないわ」
 と、美樹は力強く言った。「あなたは私を捜してるんでしょ」
「ああ。しかし、もう戦いは始まる。お前が何を言ったって──」
「そうかしら? 私の知ってることを、あなたのお父さんに話せば?」
 少しの間、裕次は黙っていたが、
「──二人で会おう」
 と言った。「話はそのときだ」
「いいわ。教会の中で。どう?」
「そいつは面白いかもしれねえな」
「じゃ、三十分後に」
「よし、分った。だが、一人で来いよ」
「そっちこそ。一人で来られる?」
「俺を馬鹿にするのか」
 と、裕次がムッとしたように、「一人で行くとも」
「待ってるわ」
 美樹は通話を切った。
 そして──美樹はあまもと家の居間を見回した。
「美樹さん」
 と、が言った。「本当に一人で行くつもりですか」
「令奈のためよ」
 とうなずいて、「でも、外で待っていて。もし私が死んだら……」
「それじゃ、令奈ちゃんを救うことにならないわ」
「私のせいで、こんなことになったんですもの」
 と、美樹はちょっと笑みを浮かべて、「本当に役立たずね、私って」
「私がついて行きます」
 と、てらが言った。「裕次さんは私のことも知っていますし」
「いいえ」
 と、さちが言った。「あなたには別の役割があります」
「おちゃん、何を考えてるの?」
 と、有里がふしぎそうに言った。
「黙って、私の言う通りにしなさい」
 と、幸代は言った。
「で、私は?」
 と、ふみがため息をついて、「さぞ私にも、大きな出番があるんでしょうね」
「お母さん……」
「みんな、勝手なことばっかり言って! 一体、お母さんも有里も、いつから秘密情報部員になったの? 撃ち合いだの殺し合いだの、どうしてそんなことが好きなの? うちはマフィアでもみずちよう一家でもないんです! ごく普通の家庭なの! それなのに、弾丸の飛び交う中へ飛び込んで行こうっていうのね? それならこの私を殺してから行きなさい!」
 文乃は一気に言い終えると、大きく息をついた。
 誰もが黙っていた。──有里には、母親の気持が理解できた。
「お母さん」
 と、有里は文乃の肩に手を置いて、「ごめんね、私たちが無鉄砲で。でも、仕方ないよ。うちはそういう家なんだもの。困ってる人がいたら放っとけないっていう……」
困ってる人じゃないでしょ」
 と、文乃は言った。
「そうねえ」
 と、幸代は顎をなでながら、「文乃を計画の中に入れてなかったわ。これは不公平ってもんだわね」
「入れていただかなくて結構」
「そうむくれないの。それじゃあ……。そうね。私の代りに、天本家代表として、大崎って男に会いに行ってくれる?」
 文乃は目を丸くして幸代を見たが、すぐに笑い出して、
「冗談やめてよ」
 と言った。「私は家庭的な人間なの。この家の台所が、私の居場所。お母さんはどこへでも、好きな所へ行けばいいわ」
 しかし、幸代の方は、文乃の言葉をまるで聞いていないかのように、
「うん。文乃の方がこういう役には向いてるかもしれないわ」
 と肯いている。「文乃、心配しないで。後のことは任せてちょうだい」
「後のこと、って何よ」
 と、文乃が目をむいて、「私が死んだ後のこと? 冗談じゃないわよ!」
 と、かみつきそうな声を出した……。

#12-3へつづく
◎第 12 回全文は「カドブンノベル」2020年2月号でお楽しみいただけます!


「カドブンノベル」2020年2月号

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