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連載

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」 vol.2

赤川次郎が描く、祖母・母・娘の三世代ミステリ! 「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」#7-2

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」

   10 禁断の扉

「あ……」
 と、が言った。
「どうしたの?」
 並んで歩いていたは、「忘れものでも?」
「いえ……」
 有里にもすぐ分った。
 学校の帰り道、二人の行手に、黒塗りの大きな車がとまっていて、今、そこから黒いコートをはおった男が降り立ったところだった。
ゆうさん……」
 と、令奈は言った。
「やあ、令奈ちゃん」
 これがおおさき裕次か。有里は、この若い男が牧師を目指していた姿を想像できなかった。
「話があるんだ」
 と、裕次は言った。「分るだろ」
「うん……」
「車に乗ってくれ」
 令奈はチラッと有里の方へ目をやった。
「お友達には、ここでさよならしてもらうんだな」
 と、裕次は車のドアを押えて言った。
「この子も一緒に」
 と、令奈は言った。「事情、知ってるの」
「何だって?」
 裕次は有里を見て、「どこまで知ってるんだ?」
「私の知ってることは何もかも」
 と、令奈は言った。「お姉ちゃんとも会ってる」
と会った?」
「でも、またいなくなっちゃったの」
 裕次はちょっと考えていたが、
「いいだろう。──二人とも乗れ」
 有里と令奈はその大きな車に乗り込んだ。
 後部座席が向い合せのシートになっている。
 車は走り出した。
 有里は、祖母のパーティなどにも出ているから、こういう車にもそうびっくりしないが、ここは、わざと目を丸くして、
すごい車ですね!」
 と、驚いて見せた。
「飲物が欲しけりゃ出てくるぜ」
 ボタンを押すと、床からスーッと戸棚がせり上って、パカッと開くと、コーヒーポットが出て来た。
「──で、令奈ちゃん、美樹はどうしたって?」
「逃げて来たって言ってましたよ、お姉ちゃん。何があったんですか?」
 と、令奈は言った。
「まずいことがあってね」
 と、裕次は言って、「ともかく、美樹がどうしたのか、話してくれ。どこで会ったって?」
「学校で」
「学校?」
「〈おきやま学園〉ですよ。そこにひょっこり……」
 令奈は、美樹を部室に泊めたこと、飛び入りで現われたもとのことなど、いきさつを話した。
「──じゃ、その根本とかって女と二人で消えちまったのか」
 と、裕次は首を振って、「のんだな、全く!」
「お姉ちゃんが言ってたように、裕次さんの家って、マフィアの大物みたいなところなの?」
「まあ……そうだ」
「それでいて、牧師になろうって?」
「家業にいやけがさしたんだ。須永さんだって、初めの内は信仰に生きてる人だと思ってたよ」
「誤解だったね」
「全くさ。──須永さん、奥さん、どっちも表と裏じゃ別人のようだった」
「それで、家に戻ったのね」
「他に行く所がなかった。美樹は何だか遊び半分で、本気で二人きりで生きて行こうなんて思ってなかったんだよ」
「もともと、お姉ちゃんはそういう人だよ。分んなかった?」
 令奈の言い方に、裕次は苦笑した。
「気付く前にれてたよ」
「でも、お姉ちゃんは裕次さんの家から逃げ出したんでしょ? 何があったの?」
 裕次は有里の方を気にしていた。どこまで聞かせていいか迷っているのだろう。
「この子、あまもと有里っていって、おさんは有名な画家の天本さちさん」
「天本幸代? 知ってる」
 と、裕次が目を見開いて、「おやが何点か絵を持ってるよ」
「どうも……」
 と、有里は言った。「今の令奈ちゃんの話で、大方のところは分ってもらえました?」
「大体のところはね。しかし、根本とかいう女がどうして一緒なんだ?」
「それは分らないけど、ともかく、あなたのお話を聞かせて下さい」
 有里の口調に、裕次はちょっと面食らったようだったが──。
「あまり詳しくは話せないんだ。君らのためにもね」
 と、裕次は言った。「ともかく、美樹は見ちゃいけないものを見てしまったんだ……」
「だからって、殺さなくたっていいじゃない」
 と、令奈が言った。
「しかしね、は、こっちとは違う。──美樹には、そこがよく分っていなかったんだ」

>>#7-3へつづく ※8/30(金)公開
※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。

「カドブンノベル」2019年9月号収録「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」第 7 回より
○第 1 回~第 6 回は文芸カドカワでお楽しみいただけます。

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