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連載

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」 vol.6

赤川次郎が描く、祖母・母・娘の三世代ミステリ! 「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」#8-2

赤川次郎「三世代探偵団3 生命の旗がはためくとき」

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「お前がそんな家の人間だったとはな」
 と、ながしようは言った。「しかも、神を捨てて行きおって」
「やめて下さいよ」
 と、裕次は笑って、「人のことを言える立場ですか。信者の人妻とよろしくやってるくせに」
「大きなお世話だ」
 と、須永は渋い顔をして、「少なくとも、俺は暴力とは縁がない」
「ああ、それはいい」
 と、裕次は首を振って、「問題はですよ」
「どこにいるか、俺は知らん」
「捜して下さい。何でも心当りはすべて当って」
「しかし……」
「今は、もとって娘と一緒のようです」
「誰だ、それは?」
「よく分りませんが……」
 裕次は、根本加代子の父親が入院している病院へも行ってみたが、結局むだ足に終った。
 だが、万一のときのために、手下を一人、病院に置いて来ていた。
「美樹のことは分ってるだろう」
 と、須永が言いかけたとき、
「あなた。ここにいたの」
 と、みどりがやって来て、裕次を見ると真青になって立ちすくんだ。
「奥さん、どうも……」
 と、裕次は平然と言った。
「あんた……何しに来たの……」
 緑子の声は震えていた。
「話しに来たんですよ。美樹のことでね」
「おい、お前は家に戻ってろ」
 と、須永は妻に言った。
「あなた……。裕次は私をひどい目にあわせたのよ」
「分ってる。しかし、済んだことは仕方ないだろう。ともかく、今はこいつと話があるんだ」
「そう……。分ったわ」
 緑子は何とかまつぐに裕次を見つめて、「こんな男に娘がついて行ったのかと思うと、情ないわね」
 と言うと、出て行った。
 緑子の、精一杯のだった。
「──お前も、美樹のことは分ってるだろう」
 と、須永が話を続けた。「気紛れで、先のことなど考えないで行動する奴だ。俺だって、どこにいるのか、見当もつかん」
「困ったもんですね」
「お前が駆け落ちしたんだ。後のことは責任を持て」
「しかし、うちの親父の関係で、暴力沙汰になったとき、もし美樹の名が出たら、あなたも、牧師としてまずいんじゃないですか?」
 須永は苦虫をかみつぶしたような顔になって、
「どうしろと言うんだ?」
「美樹も、妹のことはわいがってる。そうでしょ?」
がどうかしたのか」
「令奈ちゃんが、どうにかなったと聞いたら、きっと美樹も現われると思うんです」
 須永は当惑して、
「令奈が──どうにかなる、ってのはどういう意味だ?」
「ですから、令奈ちゃんが襲われる、とかですね」
「何だと?」
「本当に襲われなくてもいいんです。そういうニュースが流れたら、ってことですよ」
 裕次は口もとに笑みを浮かべて、「ちょっと思い切った方法を取らないと。時間がないんですよ」
 と言った……。

12 招かれざる客

「今日は邪魔をしないでね」
 いつものことで、母、さちの言葉を、ふみは、
「はいはい」
 と、聞き流していた。
 全くね。──いつも、「これが私の人生の総決算」なんて言っておいて、いつの間にか次の仕事を引き受けている。
 まあ、描き続けているから、いつまでも元気でいるのだろう。元気という点では、文乃の方がよほど疲れている。
「誰も私のことなんか知っちゃいないのよね」
 と、を言っても、聞いている人間はいない。「そりゃ、私はの世話係ですからね」
 雑誌のインタビューなどが来ても、お茶を出したりする文乃のことを、あまもと幸代の娘だとは誰も思わない。
「ちょっと、お手伝いさん」
 なんて呼ばれるのも年中なので、
「はい、何か?」
 と、しないでいる。
 後で幸代の娘と分ると、仰天して、
「失礼しました!」
 と謝ってくれたりするが、別にうれしくはない。
 幸代はK大病院の新しい棟に大壁画を描いて、大いに話題になった。勲章をくれるという話もあったが、幸代はアッサリ断ってしまった。
 肩書や家柄といったものに本能的に反発する人なのだ。
「さて、と……」

>>#8-3へつづく ※9/27(金)公開
◎第8回全文は「カドブンノベル」2019年10月号に掲載されております。


「カドブンノベル」2019年10月号

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