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連載

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」 vol.13

【連載小説】ホテルで起きたことを、充代が宮里に打ち明けると……。 赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#4-1

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。


前回までのあらすじ

天本有里がプレミアの会場で出会った矢ノ内香は、恩師・宮里を頼りに上京したところ、宮里がAVを撮影しているのを目撃したという。そこで香の鞄に切断された指が入れられたと睨む有里と村上刑事は宮里のアパートへ行くが、建物は放火されて燃えていた。一方病気の妻の治療費のためAV業界へ入った宮里は、太田充代と一緒に暮らしていた。充代は撮影の打ち上げで飲みすぎホテルで裸で目覚めるが、男の死体を見付け、慌ててそこを立ち去る。

詳しくは 「この連載の一覧
または 電子書籍「カドブンノベル」へ

6 網の中(つづき)

「確かなのか」
 みやざとは怒ったように言った。
「そう言われたって……」
 みつは目を伏せて、「何もおぼえてないんだもの」
「分ってる」
 宮里はいらいらとテーブルをたたいた。
「怒らないでよ」
 充代はちょっと上目使いに宮里を見た。「あんなに飲まされる前に、何とか帰るつもりだったけど……」
「お前に怒ってるんじゃない」
 と、宮里は苦笑して、「お前は悪くない。お前一人残して出て来るんじゃなかった」
「でも、それは私が──」
「その死んでいた男──さなといったか」
「たぶんね」
「全然知らない男なんだな? しかし、あの打上げと関係ないはずはない。スタッフの誰かがかかわってるはずだ」
 宮里はそう言って、「俺が何としても突き止めてやる」
「危いことはやめて」
 と、充代は宮里の手を取った。
「それより……そいつとあったのか」
「それはよく分らないわ」
 と、充代はためらいながら、「もし……何かあったら、私のこと、嫌いになる?」
「馬鹿言うな。だが、現実問題として、病院で診てもらった方がいいと言ってるんだ。病気をうつされたり、妊娠したりしてないかどうか」
「怖いこと言わないで」
 と、充代は身震いした。
「明日、病院へ行こう。俺がついて行く。分ったな?」
 強い口調で言われて、充代は、
「はい」
 とうなずいていた。
「誰かがそいつを殺したわけだ。殺した人間は、当然お前のことも見ている」
「ええ、そうね」
「ぐっすり眠っていたわけだから、目撃者とは言えない。まあ、心配ないとは思うけどな」
「でも、警察に届けなかったわ」
「それは、お前のことが知れたらまずいことになるな。しかし、防犯カメラに映っていても、顔までは特定できないだろう」
「たぶん……大丈夫だと思う。私、警察に目をつけられたこと、ないし」
「おい。──元気出せよ」
 宮里は充代の肩を叩いて、「何か食べに出よう。思い切り甘いケーキでも食べたら、元気になる」
「そうね。ありがとう」
 二人はアパートを出ると、近くのパン屋を兼ねたレストランに入った。普通の洋食が、なかなかおいしい。
「──あの子のことは大丈夫?」
 と、充代が言った。
うちかおりのことか。とりあえず、あまもとという子が、自宅に泊めてくれることになった」
「それなら良かったわね」
「しかし、いつまでも放ってはおけない。ともかく、一度ゆっくり話してみないとな」
「でも、あの手紙には──」
「身寄りのないやつなんだ。しかし、今は東京で仕事を捜すのも大変だろうしな」
「それに……どう説明するの? 今のあなたの仕事を」
「言いわけはしたくない」
 と、宮里は言った。
「それは分るけど……」
「ともかく、金が必要だったんだ」
 宮里は水を飲んだ。
「そういえば、奥様の方は? 手術するかどうか、お医者様と話した?」
「ああ」
 と、宮里は肯いて、「ひさとも話した。結局、来週手術をすることにしたよ」
「そう! ──良かったわ。奥様も納得してのことなら」
「まあ、冒険ではある」
 と、宮里は肯いて、「手術が長引くと、体力的に問題がある」
「でも、一旦始めてしまったら……」
「そうなんだ。外で待つ身もつらいよ」
 食事が来て、二人はしばらく黙って食べていた。
「──おいしかった」
 と、充代は言った。「本当に甘いものを食べるの?」
「もちろんだ!」
 普段甘いものをあまり食べない宮里だが、今はメニューにあった、たっぷり生クリームののったケーキを頼んだ。
 先の暗い見通しばかり考えて、不安がっていても仕方がない。人間は時として、こういう「甘い誘惑」に身を委ねることも必要なのだ。
「そういえば──」
 と、充代もケーキを食べながら、「ルイちゃんからお礼のメールが来たわ」
「ルイから? まだDVD用の編集が終ってないぞ」
「そうじゃないの。今度のビデオのギャラが振り込まれたっていうんで、そのお礼。私たちが払ってるわけじゃないのにね」
「律儀な子だな」
 宮里は、コーヒーを追加して頼むと、「ギャラを何に使ったんだろう?」
いても言わないのよ。ただ、『お金が必要で』って言うだけ」
「そうか。しかし、何かよほどの事情だったんだろうな……」
 と、宮里は言った。

▶#4-2へつづく
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