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レビュー

失踪したママ友が抱える秘密とは――『消えたママ友』野原 広子著 書評

書評家・作家・専門家が新刊をご紹介! 本選びにお役立てください。

『消えたママ友』書評

評者:瀧井朝世

 友人だと思っていた相手が突然姿を消してしまったら、あなたは咄嗟にどう思うだろうか。裏切られたと感じる? 分かってあげられなかったと後悔する? その程度の関係だったよね、と冷静に切り捨てる?
 野原広子のコミック『消えたママ友』は、そんな状況におかれた女性たちを描く心理ドラマだ。失踪の理由を探っていくミステリとしての読み心地もある。
 春香、ヨリコ、友子、有紀。年齢も家庭環境も異なるが、同じ保育園に通う4歳の子どもを持つ母親として仲良くしていた彼女たち。ある日たった一人で突然姿を消したのは、いつもほがらかで、優しい夫と面倒見のいい義母に息子の世話を任せながら会社に勤めていた有紀。他の保護者たちは「男と逃げた」と噂するが、親しかった3人は半信半疑だ。だが、反応はそれぞれ。ひたすら心配する春香、信用されていなかったと立腹するヨリコ、そんなものだという体で冷めたポーズをとる友子。次第に、ちょっとしたすれ違いが重なって、3人の仲もギクシャクしていく。それは有紀というムードメーカーを失ったからだけではないだろう。「自分は仲間のことをよく知らなかった」という思いが、互いの信頼感にまでヒビを入れてしまったように見える。3人の視点を交互に交えながら、それぞれの心境の変化、そして有紀の失踪の謎を追いつつ物語は進む。


消えたママ友
著者 野原 広子


 絵は非常に素朴だが、内容はとても繊細。日常のなにげない言動がどれだけ人の心をささくれ立たせるのか、その描き方が絶妙だ。他に趣味などの共通点があればまた違うのだろうが、子どもという一点だけで繋がる関係の脆さが浮かび上がる。本人同士だけではなく子ども同士の関係にも左右されるし、そのため本音が言えない場合もある。子どもが成長するまでの仲だろう、という思いも作用しているかもしれない。
 たが、そうして表出した感情はママ友特有のものではなく、どんな人間関係でも生じうるものだ。悪気のない一言がかすかな棘として残ったり、無理して合わせている部分がストレスになったり、時には相手を羨んだり。そんなことは誰にでも、どこにでもある。春香、ヨリコ、友子の3人の場合は、互いと距離を置くことはあっても致命的な衝突は避け、やがて仲を修復しようとする。その様子に救われる。やはり彼女たちは、互いと一緒にいるのが楽しかったのだ。では、有紀はどうだったのか? やがて3人は彼女の秘密にたどり着くのだが――。
 有紀の真実には茫然としてしまう。一体どうすればよかったのか、他に方法はあったのか。その落ち度を指摘することは簡単だろうが、彼女がすべて悪いとは誰も言えないはずだ。もし自分が有紀と同じ立場だったら、うまく対処できた自信なんてこれっぽっちもない。同じように逃げ出していたかもしれない。
 失踪の理由を知った時は怖く思うと同時に、謎が解けた納得感も得られた。それ以上にぞっとしたことがふたつある。ひとつは、彼女の息子の死んだような目。間違いなく彼はこの出来事の一番の被害者で、見ていて辛い。
 もうひとつは、終盤に出てくる「勝った」という言葉。ここでその言葉が出てくるのか……と、空しくなる。一体、何に勝ったというのだろう? 勝ち負けを気にしている限り、心の安寧は訪れないのではないか。そこで気づく。このコミックには、他人と自分を比較しがちな人間と、そうではない人間がいる。どちらが物事をフラットに見つめ、心の平穏を取り戻しているかは明らかだ。どちらが正解なんてことは言えない。でも、自分はどう生きたいか考えるヒントが、そこにある。

作品紹介



消えたママ友
著者 野原 広子
電子書籍 
税込価格1,210 円 (1,100円+消費税110円)

『離婚してもいいですか?』著者が描くミステリー・コミックエッセイ。
優しい旦那さんとお姑さん、かわいいツバサ君に囲まれてキラキラ幸せそうだった有紀ちゃん。そんな有紀ちゃんがある日突然姿を消した。
保育園のママたちの間ではその話題で持ち切り。噂では有紀ちゃんは男を作って逃げたということらしい。

有紀ちゃんとは仲良しだったはずなのに、何も知らなかった春香、ヨリコ、友子。
しかし、みんなそれぞれに思い当たることがあった・・・。

平凡な日常を襲った時間を巡って、ママたちがじわじわと自分たちの闇に気づいていく。これは、あなたの日常にも起こるかもしれない物語。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000781/

『消えたママ友』試し読み


手塚治虫文化賞短編賞受賞!
仲良しだったはずのママ友・有紀ちゃんが、突然消えた。
やさしい旦那さんとお姑さん、かわいいツバサ君と幸せそうに過ごしていたのに、一体なぜ――?

春香、ヨリコ、友子にはそれぞれ、思い当たる違和感があった。
ミステリタッチで日常に潜む心の闇をあぶりだす、傑作コミックエッセイを21話まで特別無料試し読み!
https://kadobun.jp/trial/kietamamatomo/5f7kftws1iww.html


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