【カドブンレビュー】


この本のタイトルを見たとき、私はぼんやりと明治以降の作品について書かれているのだろうと想像していた。
だが実際は、『万葉集』や『日本書紀』などが中心。作品名には見覚えはあったのだが、正直言って「日本文学」というよりは、授業に出てきた「文献」という印象が強い。悔しいことに、作品として楽しめた記憶がないのである。だがこれらの作品とは10年ぶりくらいの再会だし、今回こそは勉強のためではなく、読書としてこの作品を楽しんでやろうと、挑戦心と好奇心の入り混じったような心持ちで読み出した。

本作は、各作品の簡単な紹介と、解釈、原文と意訳という順番で描かれている。これが自分にはどんぴしゃりと読み心地が良い。作品の紹介を読んで、そういえば作者の名前や歴史的な背景はこうだったなと思い出し、解釈のところでなぜこの作品が描かれたのかをなぞり、その魂の所在を感じながら原文を読んでみるという体験は非常に面白かった。自分が社会に身を置いたからこそ、心から分かる部分が大いにあるなと改めて感じた。

特に『雨月物語』の章は、仕事に追われて、お金を稼ぐことに難しさやある種の虚しさを感じている社会人の方に読んでほしい。ここでは、貨幣経済そのものを現した“黄金の精霊”と人間との対話が描かれており、貨幣という流動的な価値に対して、道徳が失われているのではないかと皮肉的に問いている。

社会人になった今この章を読み、学生のときには到底味わえなかった人間の弱さを感じることができた。生きるためにはお金を稼がないといけないが、どのように働くべきかということは、社会人になって、常に問われていると感じる。仕事は成果に向かってなりふり構わず進むこともできる。ともすれば、人を出し抜いて自分だけの成果にもできうる仕組みの中で、自分は、チームメンバーやチームとしての目標を大事にしながら、協調性のもと仕事を通じて成果を追い求めているのだ、と言語化することができた。
『雨月物語』で描かれている人間の脆さから、私たちは働く上で、常に理性や道徳を忘れてはいけないのだというメッセージを受け取ることができたのだ。

本作を通じて、授業中に触れただけの古典日本文学にあらためて出会い、大人になった今だからこその楽しみ方ができたのは素晴らしい発見であった。もしかすると、日常の息苦しさに対する気づきは、日本文学の中にヒントがあるのかもかもしれない。ぜひ本作を手にとっていただき、はるか昔の作者が著した想いや苦悩に、気づきを探してみてほしい。


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書籍

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    中沢 新一

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