あの時代が甦った。
 土曜の夜八時に、テレビの前に座ったこと。会場が一体となってのタイトルコール。テーマソング。コントのコーナーから生まれた数々の流行語やヒット曲。番組がきっかけで人気が出たアイドルグループ。
 その番組を見ていたのは四十年以上も前なのに、試しにテーマソングを歌ってみたら、しっかり覚えていた自分に驚いた。しかも振り付きで。
 小路幸也『テレビ探偵』は、昭和四十年代のテレビ業界が舞台だ。コントもこなす人気のバンド〈トレインズ〉の周辺で起きる事件を、ボーヤ(バンドの付き人)であるチャコこと葛西かさい靖之やすゆきの目から描いた連作である。
 もともとはれっきとしたミュージシャンながら、ステージで笑いをとることに長けていた〈トレインズ〉。昭和四十四年から、土曜日夜八時に生放送のコメディ番組を持つことになった。公会堂のステージを使った大掛かりなコント、ゲスト歌手の歌、そしてそのゲストを巻き込んだミニコント。番組はあっという間にヒットする。
 ──と書けば番組もバンドもモデルはお分かりだろう。しかも〈トレインズ〉のメンバーは、リーダーでベース担当のカンスケを筆頭に、その風貌も特徴も、ほぼそのまんまである。
 だが、もちろんフィクションだ。第一話「〈スパイハンター〉殺人未遂事件」では生放送の最中にゲストが大けがをしかねない事件が起こり、第二話「〈フラワーツインズ〉の哀歌」では人気芸能人同士の恋愛がとある謎を呼ぶ。第三話の「ハードボイルドよ永遠に」ではメンバーのひとりが事件に巻き込まれ、拉致される事態に。第四話「禁じられない逃避行」は、メンバーの恋愛問題と新興宗教が絡んで来る。そして最終話「去りゆく友に花束を」で、バンドとチャコに大きな変化が訪れることになる。
 第一話と二話の事件と謎解き、第三話のエキサイティングなトラブルシューティング(タクシーの運転手さんがとてもいいぞ!)、第四話の切なさがいつまでも残る結末など、それぞれの物語が持つ面白さはさすが。だがやはり本書の最大の魅力は、この当時のテレビ業界の様子と、それを支えていた時代の寵児〈トレインズ〉の描写にある。その二つを描くために事件が存在すると言ってもいい。
 たとえば一発勝負の生放送の裏側。たとえば本職のコメディアンではないミュージシャンがどんな気持ちで番組に臨んでいるか。リアルタイムでこの時代を知っている読者は、この歌手はあの人だな、などとモデルを想像して楽しむだろう。だが楽しんでいるうちに、自分たちが無邪気に笑っていたコントの裏側には多くの人間ドラマがあったであろうことや、あの番組の陰にどれほどの努力と準備が必要だったかが、すっと胸に入ってくる。大人になった今だからそれがわかる。そして湧き上がるのは、当時のプロフェッショナルたちへのリスペクトだ。
 なぜ昭和四十年代か。一家に一台のテレビが当たり前になり、娯楽の王様の地位を確立した時代。日本で初めて「テレビっ子」が誕生した時代(小路幸也もその世代のはずだ)。この番組に限った話ではなく、音楽もお芝居もお笑いもテレビに教えてもらった、テレビがきっかけだった、そんな時代が確かにあったのである。つまり、自分を育ててくれたもの、と言っていい。本書はその「育ててくれた人たち」への感謝の物語なのだ。
 業界の最前線で、演者とスタッフと事務所がまるで家族のようなつながりを持って番組を作る姿を、小路幸也は描いた。そこに浮かび上がるのは、プロとは何か、仲間とは何か、作品とは何か、夢とは何かという、時代も世代も超えた普遍的なテーマだ。決してノスタルジーだけではないのである。
 若い世代にとっては、今とは異なるテレビの世界にまた違った発見と感慨があるはずだ。夢を与える仕事がどういうものか、時代と世代を超えて胸に響く業界物語である。

>>小路幸也『テレビ探偵』

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