【カドブンレビュー】

 この作品は主人公である弁護士の横手皐月よこてさつきが、大学時代の友人から依頼された離婚案件を引き受けたばかりに殺人事件に巻き込まれてしまう受難の物語だ。
 横手の事務所に大学時代に山岳同好会で2年先輩だった辻堂俊哉つじどうとしやが離婚問題の相談に訪れる。
 学生時代、真面目に弁護士を目指す横手を小馬鹿にするような態度をとっていた辻堂は、フリーの添乗員となり世界を飛び回る一方で、どうやら胡散臭い仕事にも手を出している様子。海外旅行先で知り合ったという妻は資産家の娘で、出会った当初こそ自由気ままな辻堂に魅力を感じたようだが、間もなく心が離れていったようだ。だが、いざ離婚話を切り出すと妻が頑として認めないという。意地や見栄、復讐心から結婚という形にしがみつく女を良しと思わない横手は辻堂の依頼を受けることにするのだが…。
 このあと単なる離婚問題であったはずの案件は複雑な展開をみせ、2つの殺人事件とも絡み合いながら予想外の結末を迎えることとなる。

 事件の複雑なからくりや主人公の奮闘ぶりを楽しめるのはもちろんだが、それ以上に登場する3名の女性たち(皆中年と呼ばれる年代のそれぞれ人生経験を積んできた女性たちである)の誰に共感するのか、という視点で読み進めることで本作の魅力がより際立ってくる。

 横手皐月。銀座に自らの法律事務所を構える中堅弁護士、45歳。独身。正義感が強く、思い込んだら一直線。周りが見えなくなってしまうのが欠点だが、その決断力と行動力、健康な体と自慢の体力は彼女の大きな武器だ。そんな自分を戦いの女神ミネルヴァに重ねている。
 睦木怜むつぎれい。横手の司法修習生時代からの親友。刑事事件を専門に扱う弁護士で企業法務を扱う夫と法律事務所を営んでいる。横手とは対象的に沈着冷静、常に客観的な視点を持ち慎重に物事を判断するクールな性格。
 横手は自分と全く正反対なタイプであり、事あるごとに的確なアドバイスをくれる睦木を法の女神テミスにたとえている。
 佐伯裕美さえきひろみ。横手皐月法律事務所の事務員、事務所の立ち上げ時から横手と二人三脚でコンビを組んできたいわば戦友。几帳面で頭の回転が速く何かと頼りになるしっかり者だが、若い頃ジャニーズの追っかけをしていたという意外な過去も。横手より5つ下で、たおやかな美人であるにも拘らずなぜか独身。

 物語の展開にメインで絡んでくるのはこの個性的な女性たち。特に同世代の女性からすれば共感、反発、同情、など様々な感情を刺激されるはずだ。理屈ではない感情の揺れや、自分ではどうしようもない情動。男性の私には本当の意味で理解できないであろう女性ならではの心の機微が描かれ、それこそが作者の描きたかった人間ドラマなのではないかと確信する。
 物語のラストで彼女たちの個性が導くそれぞれの運命。あなたは誰のどんな運命に自分を重ねることになるのか。しかと見届けてほしい。

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書籍

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