『BLOODARM』を読み解くための手引き

 空想特撮映画は映画創世紀から数々あるが、日本の「怪獣映画」というジャンルを決定付けたのは一作目の『ゴジラ』(一九五四年公開)である。そこから派生した怪獣映画を好きで観続けている私のような人種は、『BLOODARM』にちりばめられた数々のネタでニヤニヤしてしまったのである。その手のジャンルをあまり通っていない読者の皆さんにも、そのニヤニヤを体験してほしい。『BLOODARM』をより深く楽しむため、僭越(せんえつ)ながら私の好きな映画をいくつか紹介しつつ、この世界観を思い描くための手引きを書いてみたいと思う。

 怪獣映画において発端になる怪事件が起こるのは、南海の小さな島か船、または山に抱かれた地方の町というのが鉄板である。その中でも後者の代表『空の大怪獣ラドン』(一九五六年公開)を紹介したい。ある炭鉱町に起こる怪事件。それは坑道に(うごめ)く怪獣メガヌロンの仕業だった。体長八メートル。大人三人が縦に並んでムカデ競走しているようなヤゴのバケモノが、突然庭に出現して民家に乱入、両手の鋭利なハサミで襲ってくるシーンは恐ろしい。事件の真相を究明するべく奔走する主人公たちは更にエスカレートする大事件を目撃する事になる。怪獣映画の教科書の様な本作品は、『BLOODARM』にも脈々とその血が流れている様に感じられた。前半戦の日常が不穏な空気に満たされていく描写、そしてホラー映画のごとき恐怖からの超展開つるべ打ち。これが読んでいて一番燃えた部分であり、大倉(おおくら)さんに「お好きですねぇ」と親近感を持ってしまった所以(ゆえん)である。

『ゴジラ』『ラドン』等で空前の怪獣ブームを巻き起こした円谷英二(つぶらやえいじ)特技監督は、その後テレビシリーズでも怪獣モノをスタートさせる。『ウルトラマン』の前身となるテレビシリーズ『ウルトラQ』(一九六六年放送)である。毎週テレビで放送される怪獣事件。まだウルトラマンのような便利な解決方法は無い分、各話怪獣が中心の話であり、それに対する民間人のドラマなのである。この辺が大好きな私には『BLOODARM』が『ウルトラQ』の一本のようにも読めて、これまた燃えてしまった。これが分かる読者の方に暗号を飛ばすなら、私はアレが「パゴス」のイメージだった、とだけ書き添えておきたい。一話完結の怪奇譚『ウルトラQ』が参考にしたと言われるアメリカのテレビシリーズ『トワイライトゾーン』(一九五九~一九六四年放送)と大きく違う点としては、とにかく「怪獣が出ること」である。通常のお話であれば、どんな形であれ怪獣が出てくるだけでもう超展開な訳だが、それを当たり前として毎週登場した「ウルトラ怪獣」は子供たちを虜にし、後のウルトラブームの火付け役となった。ここから、現実の生物や科学を超越したデザインの個性的な日本製怪獣たちが、どんどん量産されていく。その特異性が、日本映画の「怪獣」と、アメリカ映画の「モンスター」とを明らかに違うものにしていったのではないだろうか。
 アメリカ映画に登場する「モンスター」は、極力実在の生物をベースにしているものが多い。とにかく排除されるべきものとして描かれる事がほとんどなので、その姿は凶悪で醜悪である。ある頃からそれは「クリーチャー」とも呼ばれ始め、その醜悪さ(褒め言葉)は近年になるにつれどんどん磨きがかかっていく。それに対して、日本の怪獣は不思議と必ず愛嬌(あいきょう)がある。これは、ウルトラ怪獣の影響が大きいと思う。
 さらに、宗教観の違いから発生する差異もひとつの理由なのではないだろうか。アメリカのモンスターは完全に悪の象徴「悪魔」がイメージの根っこにある。しかし日本では、人間に危害を及ぼす怪獣だとしても、それは崇拝の対象、「神様」なのである。醜悪なものにするつもりも、その必要もないのだ。ゴジラから始まる怪獣たちは、狛犬(こまいぬ)を始めとする日本古来の彫刻デザインセンスが色濃く入っている。それがあの不思議な憎めなさ、崇高な愛嬌に繋がっているのだと思う。ちなみに日本一有名な宇宙人・ウルトラマン。初代のあの口元は、広隆寺(こうりゅうじ)弥勒菩薩(みろくぼさつ)のアルカイックスマイルを参考にしていたといわれる。
『BLOODARM』にももちろん、何かが、登場する。アイツやコイツが、「怪獣」なのか? 「クリーチャー」なのか? その辺をあれこれ想像して読むのも楽しいのではないだろうか。

 人類の超兵器の話もひとつしなければいけない。宇宙からの侵略者「ミステリアン」と、人類の攻防を描く空想科学特撮超大作『地球防衛軍』(一九五七年公開)。故郷の星を失った宇宙人が富士山(ろく)に陣地を築き、地球人女性との結婚の自由を求めて侵略してくる恐るべき映画であるが、これに対抗する人類が凄い。通常兵器では全く歯が立たないミステリアンの軍事力に対して、人類=地球防衛軍は国家を超えて次々と新兵器を開発していくのだ。その中で特撮史に残る傑作超兵器が登場する。ミステリアンの怪光線を()ね返し、さらに強力な破壊光線を発射する、高さ百四十メートルの四脚に取り付けられた直径二百メートルの巨大なパラボラアンテナ「マーカーライトファープ」。これが起死回生の切り札となっていくのが、この映画の最も燃えるシーンである。そのインパクトは強く、その後の日本怪獣映画には形を変えつつ様々な「パラボラ兵器」が登場することとなり、『フランケンシュタインの怪獣サンダ対ガイラ』(一九六六年公開)に登場する「メーサー殺獣光線車」でひとつの頂点を迎える。陸上自衛隊が、凶悪な人食い怪獣であるガイラをあと一息のところまで追い詰める森林での攻防は特撮史に残る名シーンとなった。特撮好きはパラボラアンテナを見ると、目が輝いてしまうのである。

 あえて日本の怪獣映画を例にとってきたが『BLOODARM』中盤戦をより想像しやすくするために、触れておきたいアメリカ映画がある。最初の『ゴジラ』の一年前に公開されていたSF映画『宇宙戦争』(一九五三年公開)。ある日落ちてきた隕石から火星人の兵器が出現し人類との全面戦争が始まる、という古典SF小説を原作にした映画である。町の人々は最初は隕石を使って町興しをしようなどと喜ぶのだが、中から出てきた触手のようなメカに突然焼き尽くされる羽目になる。隕石は世界各国に降り注ぎ、あっという間に人類は絶滅の危機に瀕してしまう。中盤戦から登場する「火星人」は地球上のものではない生物としてデザインされているため、とても奇抜な姿で、極めて怪獣的である。もちろんゴジラより先であるし、空飛ぶ円盤のデザインも含め、後の日本の空想特撮に影響を与えているだろうことはいうまでもない。『宇宙戦争』はスティーブン・スピルバーグ監督が二〇〇五年に再び映画化。一九五三年版では予算的に表現できず円盤となっていた、三本足の侵略ロボット「トライポッド」が登場。『未知との遭遇』(一九七七年公開)や『E.T.』(一九八二年公開)で、宇宙人は必ずしも凶悪な侵略者ではないことを描いたスピルバーグ監督が、真逆の「黒スピルバーグ」と化し、怪光線で次々人々を灰にしていく。貨物船を押し倒し、メカの触手で人々を吊るし上げて捕獲していくトライポッド。あの恐怖感、スリルに満ちたシーンは傑作である。全く歯が立たない、しかも得体の知れない外敵に追われる恐怖感はこの手のジャンルの醍醐味であるが、『BLOODARM』においてもそこは存分に楽しませていただいた。

 隕石落下から始まる地球外生命体との攻防の物語といえば、『ガメラ2レギオン襲来』(一九九六年公開)が私のベストオブ怪獣映画だったりする。北海道に落下した隕石で地球に襲来した怪獣レギオンと、ガメラ、そして人類の死闘。アリの様に兵隊と女王の二種類が存在するレギオンは、嫌らしいことに地下を移動しながら人口過密な都市を目指して巣を張る習性がある。そしてその巣が、その都市を完全に破壊してしまう恐ろしい植物なのだ。札幌、仙台、そして東京へと侵攻する地球外生命体を食い止められるのか。自衛隊全面協力のもと描かれる「現代日本の戦争」は非常に見応えがある。東京が侵攻されようとする状況下で、自衛隊幹部が言う。
「見えない軍隊に侵略されているようなものだ」
 怪獣映画史に残る名台詞でありつつ、現実の世界における何か得体の知れない嫌な予感を言い当ててくれているような気がしてならない。『BLOODARM』の根底にも、現代のこの嫌な雰囲気がべったりと流れている。近隣諸国との問題、大地震、壊れた原発、色々と破滅への予感と覚悟を見ないふりしながら生きている昨今。今回紹介したジャンルの物語は、そんな不安への緩衝材、そんな事態への心理的予行演習としても機能すると個人的には思っている。

『BLOODARM』はもちろん、これらの映画をまったく観ていなくても、ゼロから読んでも楽しめる小説である。この機会に、脈々と流れる日本のこのジャンルの力を、その血に取り込み、流していただきたい。そうすれば皆さんにも、この小説の主人公・沓沢(くつざわ)の、物語最後の状態への変化と同じものが訪れるだろう。読み終わった後の爽快感は、日々の生活での得体の知れない嫌な予感に対して、能天気に対抗できるような不思議な安心感をもたらしてくれるだろう。

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レビュアー:村上 貴史

■本物 大倉崇裕は、本物である。 本物のマニア、もしくはオタクだ。 二〇一五年に発表された…

書籍

『BLOOD ARM』

大倉 崇裕

定価 821円(本体760円+税)

発売日:2018年05月25日

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