異世界から侵略してくる大怪獣軍団との、生存を賭けた大決戦から十年、人類は着々とその文明を再建しつつあった。そんな中、対怪獣戦闘の立役者であった環太平洋防衛軍(PPDC)にも変革の波が押し寄せつつあった。かつて、自らの命を犠牲にして作戦を成功させた英雄、スタッカー・ペントコストの息子であるジェイクは、ひょんなことからそんなPPDCに復帰することとなるのだが、やがて、とんでもない陰謀に巻き込まれていく。そして、ついに新たな大怪獣たちが……。
 というわけで、凶悪な大怪獣と人が乗って操縦する巨大ロボットとがガチンコで激突するという、世界中の怪獣および巨大ロボファンたちを狂喜乱舞させた快作『パシフィック・リム』の公開から五年、ついにその続編『パシフィック・リム:アップライジング』が公開されることとなった。本書はその完全ノベライズ版の翻訳である。観てから読むか、読んでから観るか(古いね、我ながら)。前作のファンもそうでない人も、何はともあれ、是非ともお手にとっていただきたい。
 それにしても、前作『パシフィック・リム』(二〇一三年)の公開から数年で、世界における怪獣映画の有り様はずいぶんと変わった。前作を製作したレジェンダリー・ピクチャーズがその後も『GODZILLA ゴジラ』(一四年)、『キングコング:髑髏(どくろ)島の巨神』(一七年)と立て続けに怪獣映画を製作、かつては日本のお家芸だった怪獣映画をすっかりハリウッドにも根づかせつつある。それは、かつての『ロスト・ワールド』(一九二五年)や『キングコング』(三三年)、『放射能X』(五四年)といったハリウッド製モンスター・ムービーの大復権でもある。しかも今やKAIJU(カイジュウ)という単語が『パシフィック・リム』によってしっかりと英語化してしまったというおまけつきだ。
 だが、『パシフィック・リム』には怪獣映画だけでなく、巨大ロボット映画という、さらに世界でも前例の少ない(まれ)なジャンルの映画としての側面もあるのだ。
 今でこそ、『トランスフォーマー』(〇七年)の実写映画版シリーズが何作も作られ、巨大ロボものもハリウッド映画のサブジャンルとして確立しつつあるが、あれに登場するロボットのトランスフォーマーたちと、本作に登場するロボットであるイェーガーには大きな違いがある。それは、人が乗って操縦するか否かという点だ。人が乗って動かす巨大ロボが、恐るべき怪獣たちに立ち向かっていくところにこそ、本作のおもしろさと感動が詰まっているのである。
 元々、ロボットが活躍する娯楽作品と言えば、怪獣映画が日本のお家芸だったのと同じく、日本のテレビアニメのお家芸なのだが、その最初期の作品に登場するロボットたちは、『トランスフォーマー』と同じように、人間が乗り込むスタイルではなかった。
 日本のテレビアニメの始祖といえば、なんといっても『鉄腕アトム』(六三~六六年)と『鉄人28号』(六三~六六年)、『エイトマン』(六三~六四年)だが、いずれの作品に登場するロボットも、人間搭乗型ではない。
 アトムは自分で考え行動する、(トランスフォーマーと同じ)いわゆる自律型ロボットだし、エイトマンも(作中ではサイボーグと言われているが)人間の記憶を電子頭脳に書き込んだ自律型ロボットだ。また、鉄人は人が操縦するとはいえ、中に乗り込むのではなく、外からリモコンで操縦するスタイルだった。
 そこへ人間搭乗型巨大ロボットの草分けとして登場したのが『マジンガーZ』(七二~七四年)だった。強大な力を持つ巨大な人型の機械と一体化して、それを自在に操る。しかもそれは、街場の天才科学者が作り出したこの世にたった一機しかない唯一無二のマシンなのだ。この万能感溢れる設定は、当時の子供たちを見事に魅了し、続々と似た設定の作品が生み出されていくこととなった。いわゆるロボットアニメのブームが到来したのだ。
 一方、「人間が乗り込む」という部分はそのままに、もう少し現実感のある(言い換えると工業製品らしさを持つ)ロボットを主役に据え、大きなパラダイムシフトを起こしたのが、『機動戦士ガンダム』(七九~八〇年)と、それに登場するモビルスーツと呼ばれる巨大ロボット群だった。この作品が新しかったのは、敵も味方も、そのロボットは大量生産される「兵器」であるという前提のもと、同型機が何体も登場、物語のリアリティを一段押し上げたところにあった。そのリアルさが受け、ガンダムもまた(本放送時には低視聴率に苦しめられたものの)熱狂的な支持層を得て、やはりかつてのマジンガーZ同様、同系統の作品が次々に生み出されることとなった。
 今では、マジンガーZ系列のメカをスーパーロボット、ガンダム系列のメカをリアルロボットと呼ぶ人も多く、いずれも数多(あまた)の作品が存在している。いや、往事の勢いはなくなったものの、これら人間が中に乗って操縦する、いわゆる「ロボットアニメ」は今でも日本のアニメにおいて重要なサブジャンルであり、新作が作られ続けている。
 ただし、さすがに今どきは、ある程度以上のリアリティが求められるため、スーパーロボットよりはリアルロボットが好まれているように見受けられる。
 長々と、日本のロボットアニメについて書いてしまったが、『パシフィック・リム』のすごいところは、日本だとアニメで表現されるのがほとんどな巨大ロボットもの(実写作品もいくつかあるが、それらはどれも『ウルトラマン』のような着ぐるみ巨大特撮ヒーローものの変奏と言ってよく、ロボットアニメの持つ自在なデザイン性や迫力には欠けるものだ)を、実写で作ってしまっていることであり、しかもそれが時代に逆行するかのような、一台一台がオーダーメイドというスーパーロボット系の設定を採用しているところにある。
 その上、各イェーガー(ロボット)のデザインたるや、昨今の日本のロボットアニメに登場するスマートなロボたちとは一線を画する武骨さに溢れている。
 さらに、その使用する武器はというと、銃器の(たぐい)よりも巨大な剣や自分の(こぶし)などといったものがメインだという豪快さだ(前作の日本版吹き替えで、マジンガーZの必殺技「ロケット・パンチ」という名前に変更され、日本のファンを狂喜させた「エルボー・ロケット」はその典型だ)。
 そして、操縦者二名が心を通わせて操作しないと動かないという、近代兵器としてはあるまじき操作性の悪さときている。
「怪獣には通常兵器では歯が立たない」、「巨体を制御するには一人では不十分」などといった根拠から、とんでもなく強引な理屈でこの(おそらくは製作者たちがイメージする理想の)巨大ロボットを成立させてしまう力技には、いっそほれぼれしてしまう。
 巨大な鋼鉄の塊が、その全身を武器として敵に戦いを挑む。そんな破天荒で豪快な姿が、CGによって実写映画の中に具現化したイェーガーこそ、マジンガーZのようなスーパーロボットが現代のハリウッド映画に転生を果たした姿であり、『パシフィック・リム』は日本のロボットアニメを実写で再現することに成功した驚くべき作品なのだと大いに主張したい。
 今回の『アップライジング』に登場する新世代イェーガーたちにも、このスーパーロボットぽさは充分受け継がれている。ただし、今回はそれと対比するかのように、無人の戦闘用「ドローン」たちが登場、主役機交代の危機かという展開になるところがおもしろい。既存のイェーガーと違い、はるかに工業製品らしいこのドローンは、さしずめ『パシフィック・リム』世界におけるリアルロボットといったところだろうか。
 怪獣だけでなく、このドローンとも張り合わなければいけなくなったイェーガーとそのパイロットたちの活躍は、本作の大きな見どころの一つと言っていいだろう。特にクライマックスは、とんでもない無茶な運用による大作戦を展開してくれるので、存分にお楽しみいただきたい。

書籍

『パシフィック・リム:アップライジング』

アレックス・アーバイン

定価 994円(本体920円+税)

発売日:2018年04月12日

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