巻頭に掲げられた自序を読み始めるなり、大笑いしてしまった。
 怪談本を読んで笑いだすとは穏やかではないが、本書に限っては、著者の安曇氏(あずみ)も——それこそ苦笑を浮かべつつ——赦してくださるだろう。
 なにしろそこには、著者が山行(さんこう)途次(とじ)感興(かんきょう)のおもむくまま書き記した抒情詩(じょじょうし)のかずかずが披瀝(ひれき)されていたのだから。たとえば、こんな具合に——
空は蒼く白い雲はゆっくりと流れている/吹き上げる山の風が心地よい/さあ行こう/あの頂になにかが待っている
山男にはロマンチストが多いとはいうが、なんとまあ少年のように純真無垢な感性の吐露であろうか。とても今年で還暦を迎える怪談作家が書く詩とは思えない……と、たまたま同い年の私は、濁世の風に汚れ(すさ)んだ我が身を省みつつ恥じ入った次第である。
 それと同時に、かくも瑞々しい感性と、こよなく山行を愛する心ばえあればこそ、著者は二〇〇四年の作家デビューこのかた、実に十四年の長きにわたり、山の怪談ひとすじにクオリティ高い作品を書き続けることができたのだろうと、(あらた)めて感じ入ることになった。
 思えば「幽」の創刊まもない某日、寄稿作家のひとりである旧知の加門七海(かもんななみ)さんから耳よりな情報がもたらされた。自身も大の山好きである加門さん、インターネットで山関連のサイトを眺めていたら、迫真の山の怪談を載せているサイトがあると教えてくださったのだ。「北アルプスの風」と題された(くだん)のサイトは表向き……それこそ先述したような詩情あふれる文章と写真で構成された山行愛好サイトなのだが、隠しページを開くと、一読慄然たる山の怪談が満載されていたのだった。加門さんの証言を引こう。

書籍

『山の霊異記 ケルンは語らず』

安曇 潤平

定価 1404円(本体1300円+税)

発売日:2018年02月17日

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    書籍

    「本の旅人」2018年3月号

    角川書店編集部

    定価 100円(本体93円+税)

    発売日:2018年02月27日

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      書籍

      『山の霊異記 赤いヤッケの男』

      安曇 潤平

      定価 734円(本体680円+税)

      発売日:2017年07月25日

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