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レビュー

「考えるって素直に驚くこと」をやさしく親身に教えてくれる本

『「考える人」は本を読む』というタイトルを見て「そう、私は読書家なので思慮深いのだ」と密かに自負する人と、「ああ、痛いところをつかれた」と思う人がいるはずです。もちろん私は後者です。本をちゃんと読んでこなかったことと、物事をちゃんと考えてこなかったことがつくづく悔やまれる40代の中盤にあって、このタイトルには「すみません……」と言うしかありません。実際、ここで河野さんが紹介していらっしゃる本のうちただの一冊も、私は読んだことがありませんでした。
 しかし、このタイトルは決して、「本を読まない人は考えない」という意味ではありません。この春に惜しまれながら休刊した雑誌「考える人」の編集長であり、若き編集者たちがレジェンドと仰ぐ河野さんは、私のような多読精読を怠ってきた人間にも実にやさしいのです。書店の主人が静かな情熱を瞳に湛えて一冊の本をすすめてくれるように、河野さんはご自身の膨大な知識と深い読書体験の中から、最ももの知らずな読者に豊かな知の道をひらいてくれます。

 手に取ったら、まずはあとがきから読んでください。河野さんが「考える人」の編集長として、どのような思いで毎週メルマガを書いてきたのかが簡潔に綴られています。その中から「整理されすぎたガイドブックではなく、どのようにでも読める雑記帳」として抜粋してまとめられた本書は、まさにぱっと開いたところから読める気軽な読書入門であり、本を深く愛する河野さんとの対話の場でもあるのです。
 夜中に原稿を書く合間に各方面に事務連絡のメールを出すと、午前3時や4時に、会社にいる河野さんから返信が来ることがあります。「まだ起きてるんですか!?」「早く寝てください!」と言い合うのですが、あのとき河野さんは明け方の編集部で一人、メルマガを綴っていらしたのですね。改めてそのお姿が目に浮かび、ジーンと胸が熱くなりました。

 本書では25冊の本を「読書を考える」「言葉を考える」「仕事を考える」「家族を考える」「社会を考える」「生と死を考える」の6つの項目に分けて紹介しています。読みたくなる作品紹介であり、会いたくなる著者紹介であり、生き生きとした読書体験の告白でもあります。
 考えるって、素直に驚くことなんだ、と河野さんの文章は教えてくれます。平易な言葉をていねいに選んで、傍らの人に語りかけるような……ああ、何かに似ていると思ったら、読み聞かせです。
 子どもは文字を知らなくても、読むことを知っています。読むとは見つけることであり、見つけるとは驚くことであり、驚くとは変わることであり、変わるときに、人は自分が存在していることに気がつきます。自分と、自分でないものがあると知って、人は世界と出会うのです。

 河野さんは、未だに世界に驚いています。そして驚きを語る言葉を持たない私に、そっとページを指し示し、静かに読み上げてくれるのです。あなたはそこにいるよ、ようこそ世界へと。読書は祝福であるということを、こんなにもやさしく、親身に教えてくれた本はありませんでした。
 本書を読んで注文したのは、デヴィッド・L・ユーリン『それでも、読書をやめない理由』、井上麻矢『夜中の電話—父・井上ひさし 最後の言葉』、末盛千枝子『「私」を受け容れて生きる—父と母の娘』、秋山祐徳太子『秋山祐徳太子の母』、左右社の『〆切本』。他にもメルマガがきっかけで買った和田誠さんの『もう一度倫敦巴里』など、私の小さな書棚には、河野さんを通じて知った作品が並んでいます。
 本は渇いた心を潤す甘露。澱んだ思考を漱ぐ清流。水は身体をめぐり抜けて、一部は血肉に変わります。読書は、代謝と成長の営みなのです。この一冊には、25冊の本との出会いと、河野通和さんという知の巨人の瑞々しい思考の記録が詰まっています。


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