【カドブンレビュー9月号】

『ししりばの家』の語り手である2人の人物に共通するのは、何かが潜んでいる「砂の家」に悩まされていることだ。
物語は、男の子の過去の思い出から始まる。その男の子は小学生のころに友達の家へ遊びに行き、そこでの奇妙な体験が忘れられない。
視点が切り替わる。夫の転勤で生活がガラリと変わってしまい、寂しい生活を送っている妻の話が始まる。偶然旧友と出会ったことから、日常に刺激を求めていた妻は変化を求めて旧友の家を訪問することになる。しかしそこで目の当たりにしたのは、日常に、自然に溶け込む「砂」の存在であった。
ここから、男の子と妻の視点が交互に入れ替わり、ストーリーがシンクロしながら進んでいるように描かれていく。
男の子は、昔友達の家であったが、空き家になってしまった「幽霊屋敷」に探検しにいく。そこでの体験が人生を変えることになり、いつまでもその家の存在に怯えながら長らく過ごすことになるのであった。それも頭の中で「ザリザリ」と砂の音が聞こえながら……。
一方で妻は、旧友の家庭の問題に巻き込まれながらも、問題の解決までたどり着く。しかし、解決したかに見えたその家では、そこら中に積もっている砂の存在が、当たり前のように旧友夫婦に受け入れられているのであった!その家を避けようと思っている矢先に、妻は大切にしている結婚指輪をその家に落としたことに気づく……。
物語の重要なファクターの一つは砂だ。
体中が砂に覆われている。
服の中に砂が入ってくる。
家の中が砂にまみれている。
口の中で砂を噛んでしまう。
想像しただけでも不快な感じがしてならない。この本はホラー特有の恐怖感だけでなく、生々しい不快感を存分に味わえるような内容になっている。
特に印象に残ったのは、砂を感じさせる音の表現である。砂が落ちる「さああ」、砂が口に入ったときの「ジャリッ」。これらの表現が数多く記載されているため、読んでいて背筋がこそばゆい感じを抱いてしまう。物語に没入するにつれ、本当に砂の音が聞こえてくるような、不思議な陶酔感を味わうことができるのである。
今までは純文学や推理小説ばかりを読んでおり、恥ずかしながらホラー小説はほとんど読んだことがなかった。ここまで手に汗握るようなドキドキ感を味わえるとは思ってもみなかった!いや、本を読み進めていくと、まるで手汗と共に砂を握っているような不気味な感覚に陥るが、先が気になって仕方がない。
砂に襲われる不愉快さを味わいながらも、物語同様、何かに操られるようにページをめくってしまうのだ。

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