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北海道の東、海辺の町で羊を飼いながら小説を書く河﨑秋子さん。そのワイルドでラブリーな日々をご自身で撮られた写真と共にお届けします!
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「はじめまして、河﨑といいます。羊飼いと牛飼いと小説書きをしています」と初対面の人に自己紹介すると、高確率で「はい?」と怪訝な目で見られてしまう。あのですね、実家で酪農従業員しながら敷地のすみっこで羊を飼って肉を出荷してるんです。合間に小説を書いていたら有難いことにこちらも仕事になりまして。ええ、そっちの方も最近『肉弾』という二冊目がKADOKAWAさんから出たので、はい、これもご縁と思って諦めて一度ご覧頂きたく…と長い説明を加えることになる。
 そんなわけで今回は、羊飼いというあまり馴染みのない職業の一端をご説明したい。皆さんは西洋絵画などで、羊飼いが先の曲がった長い杖を持っているのをご覧になったことはあるだろうか。あれは“羊飼いの杖(Shepherd's Crook)”といい、一振りで奇跡を起こす魔法少女気分を味わったり、全てを灰塵と化す伝説の武器を手にした中二病気分を懐かしむためのものではない。立派な実用品だ。
 使い方はいたってシンプル。棒の端を片手で持ち、逃げまどう羊を走って追いかける。そしてフックになった部分で羊の足を素早く引っかけるのだ(フックの大きい杖は首に引っかける)。引っかけただけでは羊が暴れてスポーンと抜けてしまうので、手首を返して羊の足を少しひねるのがコツだ。慣れてくると、キュッとひねっただけで羊をコロンとその場に転ばせることもできる。
 なんだそんな単純な道具、と笑うなかれ。実際に飼育してみるとお分かりになると思うが、羊は非常に臆病ですばしっこい。杖を使って少しでも素早く羊を捕獲することは、何頭分もの毛刈り作業などをスムーズに行うには非常に大事な要素なのだ。
 杖の材質は昔ながらのものだと木製、最近はスチール製のものが丈夫で使いやすいが、形は基本的に変わらない。これこそ、羊飼いの歴史に脈々と受け継がれるグッドデザイン。羊飼いという仕事がある限り、百年後も千年後もきっとこの形と機能であり続けるだろう。
 ちなみにこの杖、国内業者からの通販が可能だ。これ一本あれば、たとえ道路のど真ん中で突然はぐれ羊と遭遇しても、警察や消防の手を煩わせることなく簡単に捕獲が可能だ。ご近所のヒーローになれることうけあい。一家に一本、いかがだろう。是非ご検討いただきたい。
 
 
河﨑秋子(かわさき・あきこ)
羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊を飼育・出荷。
2012年『北夷風人』北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。2014年『颶風の王』三浦綾子文学賞受賞。翌年7月『颶風の王』株式会社KADOKAWAより単行本刊行(2015年度JRA賞馬事文化賞受賞)。

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    『颶風の王』

    河﨑 秋子

    定価 1728円(本体1600円+税)

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