短編「ぼっけえ、きょうてえ」で日本ホラー小説大賞《大賞》を受賞、更に同作を含む短編集『ぼっけえ、きょうてえ』で山本周五郎賞を受賞し、鮮烈なデビューを飾った作家・岩井志麻子さん。ファン待望の新シリーズ・第1弾となる『忌まわ昔(いまわむかし)』が今月、角川ホラー文庫より刊行されました。作者の岩井さんに、本作への思いをうかがいます!
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――『忌まわ昔』は、「今昔物語集」を下敷きにした怪談実話ということですが、本作が生まれたきっかけを教えてください。
岩井:まずは担当編集者さんに勧められた、こういうのどうですかとアドバイスを受けたのが直接のきっかけではありますが、もともと古典の説話集は好きでした。
「今とはずいぶん違うな」という部分より、「今と変わりないな」という部分にこそ感動し、心惹かれ、戦慄しました。
たとえば『妻を具して丹波国に行きたる男~』の妻が、自分に直接の危害を加えた見知らぬ男よりも、何もできなかった不甲斐ない夫に腹を立てるところとか、『人妻、死にて後に~』の、捨てた女がいつまでも自分を想ってくれていて必ず許してくれると思い込む男とか。平安女の気持ちは今を生きる私にもわかるし、平安男の考え方も、令和の男もそうだよねと苦笑してしまいます。
そこのところ、その気持ちを書きたいと思いました。
――『忌まわ昔』の読みどころはどんなところですか?
岩井:ここに書いた話はすべて、元になった事件、出来事があります。これまた私はもともと、未解決事件と呼ばれるものにとても興味がありました。
とはいえ、事実を書きつつも、私のフィルターを通して描いています。
「これは元になっているのがあの事件だな」と思い当たったら、読者様が「岩井が思うそれじゃなくて、きっと自分が思うこれが真実だ」というのを考えてみてください。
もしかしたら、それこそが真実、それで事件が解決することがあるかもしれませんから。
――『忌まわ昔』には、10編の物語がおさめられていますが、その中でも特に気に入っている、思い入れのあるお話はありますか。
岩井:近衛舎人の稲荷詣で。現代版の方の元になった話は、82年の歌舞伎町で起きた未解決事件です。昔からこの事件には強く惹かれるものがあり、これ以外にもいくつかの小説にしています。
二人の少女が襲われ、一人は惨殺、一人はほぼ無傷で生き残ります。私はまるで、助かった少女のその後を生きているような気にもなるのです。
たまたま運がよくて生き残っただけなのか。犯人のちょっとした気まぐれで助かったのか。犯人にこいつは可愛げがあると嫌な気に入られ方をしたのか。
私は今、歌舞伎町に住んで20年近くになります。私が歌舞伎町を選び、ここにいるのは、この事件も関係しているのかもしれない。
――シリーズの今後の展開や、書いていきたいものなどを教えてください。

書籍

『忌まわ昔』

岩井 志麻子

定価 626円(本体580円+税)

発売日:2019年06月14日

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