『論考』全体のおおよその構成


 とはいえ、本書を読み進めることに対しても、多くの読者がこれから負担を感じることだろう。この議論はいったい何をしようとしているのか、どこに向かっているのか、という疑問が先に立って、なかなか内容を吞み込めないという人も出てくると思われる。
 したがって、読者の便宜のために、ここで『論考』の議論のごくおおまかな流れを紹介しておくことにしたい。
 まず、『論考』のゴールは、先に確認したように、語りうることと語りえないこととの境界線を引くことである。このゴールに辿り着くために、ウィトゲンシュタインがさしあたり提示しようとするのは、真偽の値をもちうる言葉である「命題」を、現実(実際の世界のあり方)を写し取る像ないし模型として捉える視座であり、そして、言語を命題の総体として特徴づける見方である。つまり、言語と世界を写像・・という関係で把握することが、この著作の当面の目標となる。
 そのために、『論考』ではまず最初に、そもそも世界とは何か、世界はどのような要素からなるか、現実とは異なる世界の可能性はいかにありうるのか、といった問題が取り上げられる(本書§1〜4)。
 そのうえで今度は、現実の模型(像)としての命題とはどのようなものかという問題が扱われ、言語が世界を写し取るということの内実が探究される。その過程で同時に、世界の可能性をこれ以上なくきめ細かい仕方で明晰に描き出せる言語とはどのようなものかも、論理学の道具立てを用いつつ輪郭づけられることになる(§5〜14)。
 そうして、言語と世界の写像関係が明らかにされると、そのことを起点に言語の限界が見定められていくことになる。まず、世界と写像関係をもちえない言葉──つまり、現実の模型たりえない命題──が、無意味な命題もどきとして規定される。そのうえで、我々が哲学の諸問題への解答を語ろうとすると、それらがことごとくそうした命題もどきになるという消息が辿られることで、我々が言葉にできることの限界が示される(§15〜34)。
 本書を読み進めるうえで一番苦しいのは、§14まで──『論考』本体で言えば三番台の節まで──を理解することである。逆に言えば、そこまでの内容を十分に理解できれば、その後の内容を追うのはそれほど大変ではない、ということだ。
 本書を読む過程を登山に喩えるならば、前半部の坂道が最も急で険しく、その後はむしろ緩やかな登りが続くと思ってもらえればいい。本書の解説をガイドに、頂上の第七節、「語りえないことについては、沈黙しなければならない」という一文に辿り着くまで、何とか登り切ってほしい。

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 ともあれ、以上の構造や構成を頭に入れてもらったならば、『論考』の文章に向き合うための準備が整ったことになる。これから早速読み始めることにしよう。

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 これで、本文を読む準備が整いました。
 次回、いよいよ冒頭部分の抜粋と解説をお見せします。お楽しみに!

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書籍

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古田 徹也

定価 1944円(本体1800円+税)

発売日:2019年04月26日

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