自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす26歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第59回 新年合併号】東田直樹の絆創膏日記「幸福になるための修行」
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2019年1月9日(水)

 たまに、目を覚ました時、夢の中の僕と布団の中にいる僕のどちらが現実なのか、一瞬迷うことがある。
 夢から覚めた僕の目に飛び込んで来るのは、いつもの見慣れた風景。僕は布団の中にいるにもかかわらず、夢の中の自分になり切ろうとする。
 でも、何だかおかしい。夢の世界の僕と、今の僕がうまく結びつかないからであろう。脳が混乱して、頭がくらくらする。まさに、迷宮に入り込んだみたいだ。
 出口を探すかのように目を凝らして、部屋の隅をじっと見る。
 あれっ、あれっ……ああ、こっちか。
 意味不明な言葉をつぶやく。
(えっと、そうそう。)
 自動的に、頭の中のチャンネルが「今」に戻った。
「夢か。」そう思ったものの、どんな夢だったのか、すでに、その記憶は消滅しかけている。さっきまで、夢を現実だと信じていたのに。
(夢が夢で良かった。)
 怖い夢じゃなくても、目覚めた後には、必ずそう思う。
 現実から逃れたいと思っているくせに、別世界に逃避したとたん、僕はすぐに舞い戻って来る。
 数え切れない夢を見ても、最後には現実の生活に気持ちは向かう。
 ここでしか生きられない。いや、ここで生きることこそが、最上級の夢なのだ。

2019年1月12日(土)

 空にぽっかりお月様、きらきら輝くお星様。
 こんな風に月がきれいに見える夜は、僕たちも宇宙の中で生きていることを実感させられる瞬間がある。普段の生活の中では、あまり意識したことはないが、夜空を見れば、地球も宇宙の星の一つだとわかる。
 月を見ていると、哀しい気分になることがある。それは、月に託した人々の思いが、僕に伝わって来るからに違いない。今はもう、この世にいない人たちの分まで。
 思いが残るというのは、どういうことだろう。
 人が、何かを伝えようとする時、誰かに向かって話をする。けれども、自分の気持ちの全てを伝えることは難しい。なぜなら、人の思いは、次から次に溢れ出るものであり、どれだけ話をしても、これで充分だとは思えないものだからである。ああ言えば良かった、こう言えば良かったと後悔することも多い。そんな時には、月を見上げ、独り言みたいに心の中にたまった言葉をつぶやき、気持ちを整理する。ため息まじりの言葉は、ゆっくりと天にのぼり、やがて宇宙の闇に吸い込まれていく。
 迷い子のような言葉たち。お母さんみたいな月のそばで、静かに昇華されるのだろう。
 誰が何を言ったかは関係ない。昔も今も、僕と同じように、この月を見つめ、嘆いた人がいた。
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2019年1月13日(日)

 人生とは、うまくいかないことの方が多い。そう思っている人は、かなりいるだろう。
 もし、その人にとって、これまでの道のりが辛いことの連続だったなら、幸せになるイメージを持って生きることが重要ではないのか。しかし、いつかきっと幸せになれる、そんな希望を抱けない人もいる。
 望み通りにならなかった場合に失望し過ぎないためだとしたら、それは、自分の心が傷つかないよう用意した、一つの安全策なのかもしれない。
 夢の実現には、相当の覚悟がなければいけない。人一倍の努力をするだけではなく、運も必要である。これは、大変なことに違いない。一所懸命やっても、うまくいかなかったら、どうしたらいいのだろうと思うのが普通だ。だからといって、だめだった時のことを考え、期待し過ぎないでと自分に言い聞かせるのは悲しい。
 挫折して立ち直る。そして、また挫折する。人生とは、その繰り返しなのであろう。
 たとえ目標が達成できなくても、最後の最後に立ち直ることが出来ればよし、と思えたなら、心が傷つかないための安全策はなくてもいいような気がする。
 困難に負けない姿は美しく、誰もが見習わなければならない。どれだけ幸せになったのかと同じくらい、どんな風に幸せになったかにも価値がある。
 ドラマは最後に訪れるのだ。

書籍

『自閉症の僕が跳びはねる理由』

東田 直樹

定価 605円(本体560円+税)

発売日:2016年06月18日

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    書籍

    『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年06月15日

    ネット書店で購入する