自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす26歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第58回】東田直樹の絆創膏日記「読み聞かせの幸福」
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2018年12月28日(金)

 生きている間に、何かを成し遂げたいと思っているのに、それが何なのかすらわからないと気に病むことはないだろうか。
 子どもの時には、夢がたくさんあったような気がする。
 どれだけ大きな夢でも、みんなが真剣に聞いてくれて、目標を掲げるだけで褒めてもらえた。なのに、子どもだった頃の夢は、大人になるにつれ徐々にしぼんで小さくなった。
 純粋過ぎる動機も、もう忘れた。努力の足りなさも単なる言い訳。日々生きることだけに必死で、弁解の言葉もすでに必要ない。
 誰もが、そうなのだろうか。
 夢を実現する人としない人の違いは何だろう。
 それがわかれば、みんなが夢を実現できるのだろうか。
 時間は、刻々と過ぎていくけれど、夢はどんどん遠ざかる。
 僕の目の前には、真っ直ぐな道が続いている。この道は、どこに向かっているの。振り返ると、ひとりの少年が、きらきらした目で僕を見ているではないか。その瞳があまりに美し過ぎて、僕は目を合わせないようにしながら前を向いた。
 はるか向こうに、いつの間にか、おじいさんが立っていた。おじいさんは黙ってうなずくと、僕に背を向け、ゆっくりと歩き出した。足取りは重かったが、決して辛そうには見えない。
 僕は、おじいさんの姿を見守った。そして、おじいさんが見えなくなると、力強く自分の一歩を踏み出した。

2018年12月30日(日)

 深い悲しみは、いつまでたっても癒えない。
 悲しみは、喜び以上に、強く記憶に残るものだからではないだろうか。
 脳裏にこびりつくのだ。忘れよう、忘れようとしても、決して記憶から消し去ることは出来ない。思い出すと、胸が締め付けられる。気分がどん底に落ちる。
 幸せな記憶が、人間にとって生きるための糧となるなら、悲しみの記憶というものは、消し去ってしまうべきものではないだろうか。けれど、忘れることなど出来ない。
 悲しいことさえなければ、人は幸せに生きられると考えるのは、間違いなのかもしれない。
 悲しい記憶があるから、人は強く生きようとするのではないだろうか。
 自分がどう生きるべきか、人生の目標を、人はすぐに見失ってしまう。
 楽しい思い出ばかりなら、幸せに違いない。しかし、慣れてしまえば、それを幸せとは呼ばなくなる。幸せは日常となり、もっと楽しいことが起きないかと期待するだろう。
 人の欲望は果てしない。ひとつ満足しても、次から次にやりたいことが出て来る。けれど、悲しいことが起きれば、何でもない毎日も、こんなに幸せだったのかと改めて知ることになる。
 悲しかった出来事を思い出すたび、今の幸せに満足する。
 悲しみは思い出させてくれるのだ。幸せとは、永遠ではなく限りあるもの、そして、常に変化し続けるものだということを。
 悲しみから逃れられた人はいない。悲しみを恐れて幸せになった人もいない。
 だから僕は悲しみを、僕のありったけで受け止めたい。
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2018年12月31日(月)

 仏教において煩悩とは、心身を悩まし、乱し、煩わせ、惑わし、汚す心の作用である。人間の苦の原因とされるこの煩悩をはらうため、12月31日の大晦日の夜に、多くの寺では、除夜の鐘が108回つかれる。
 静寂の中、しみわたるように鳴り響く鐘の音、合掌する人々の祈りには、一年の幸せを願う気持ちが込められている。
 煩悩が、幸福を遠ざけるという考え方は、悟りの境地に近いのではないだろうか。
 欲との闘いは、自分との闘いである。
 一年を振り返る際、まず、口から出るのは、後悔や懺悔などの反省の言葉だと思う。
 今年起きた出来事を思い起こし、過ちを認め、もう一度、清く正しく生きようと自分に言い聞かせる。
 夜中の12時を過ぎれば元日、初詣に出かける人々で神社は大賑わい、家族や友達同士で、わいわいと出かけた人たちも、参拝の時には、神妙な面持ちになる。
 自分ひとりでは成し遂げられないことも、きっと神様なら叶えてくださる、信じることで人は救われる。
「どうか、御利益がありますように」
 そう願っている時点で、新たな欲に執着している僕らは、生きている限り、幸福になるための修行を続けなければならないのだ。
 白い息を吐きながら神社の境内を下りる。
 新しい年の始まりに、胸を弾ませることの出来る人は、みんなにうらやましがられていることだろう。

書籍

『自閉症の僕が跳びはねる理由』

東田 直樹

定価 605円(本体560円+税)

発売日:2016年06月18日

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    書籍

    『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年06月15日

    ネット書店で購入する