自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす26歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載57回】東田直樹の絆創膏日記「僕のもやもや」
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2018年12月19日(水)

 和食のレストランに行ったら、テーブルの上に砂時計が置いてあった。
 そこでは、ご飯は小さな釜で、ひとりひとり炊くというスタイルのようで、食事が運ばれて来たら、まずは、ご飯の釜の蓋を取り、しゃもじでかき混ぜ、もう一度蓋をして2分間蒸らす。そのための砂時計らしい。
 砂時計を見た瞬間、砂時計の下の部分で、僕は膝を抱え座り込み、うずくまっているような気分に陥った。
 砂が、顔に肩にふりかかる。背中をつたい砂時計の底に積もり続ける。さらさらと上から落ちて来る砂の感触が気持ちいい。気づくと僕は、いつの間にか首まで積もった砂の中で身動きも出来ず、息苦しさを感じる。だけど、砂時計をひっくり返されたとたん、砂は消えるのだ。安心したのもつかの間、また、すぐさま砂が頭上から降って来る。僕は、うっとりと砂の感触に浸っていたが、「食べてもいいんだよ」と家族に言われ、我にかえった。
 砂時計の中の僕は消えたのだ。かぐや姫がお月様に帰ったみたいに、こつ然と砂時計の中からいなくなってしまった。
 食べ終わって砂時計を見ても、僕が再び砂時計の中に入り込むことはない。
 白昼夢だったのだろうか。
「今日は大人しいね」という言葉が聞こえて来た。
 夢を見ていた間、みんなが見ていたのは、生気を吸い取られたうつろな僕だったのかもしれない。
 僕は眼鏡を曇らせながら、はふはふとほかほかのご飯を口に運ぶ。
「おいしいね」「うん」
 砂時計の中より、やっぱり現実の方がいいよね。

2018年12月20日(木)

 失敗も笑ってやり過ごすことが出来れば、成功と同じくらいの楽しさがあるのではないだろうか。
 失敗することも、まず挑戦から始まる。
 結果がどうあれ、誰の心の奥底にも、何かに挑みたい気持ちは潜んでいるように思う。挑戦すること自体が、自分を一段上のステージに押し上げるための行為なのだ。
 失敗をくり返し成功する。今たどり着いている成功も、実は成功ではなく失敗だったのかもしれない。そんな風に思ってしまうと、どの段階が本当の成功なのか決めるのは案外難しい。
 全てがいい思い出になるなら、たとえ失敗しても、上出来だったと自分自身を褒めることが出来るだろう。
 挑戦とは、出口のない森の中をさまよい続ける気分に似ていると思う。
 森の中にいる時には、そこでしか味わうことの出来ない空気を吸い続ける。きれいな鳥のさえずりに耳を傾け、珍しい花を見つけては心を躍らせる。
 ようやく出口にたどり着き、喜んだのもつかの間、目の前には次の森が待ち構えている。そこがどんな所かわからないのに、引きずり込まれるかのごとく、再び深い森の中に足を踏み入れてしまうのである。
 僕は、挑戦し続ける人は素敵だと思う。
 森の中でしか見えない景色を見ようとする人は、森の中の素晴らしさを知っている。
 孤独や大変さも含め、挑戦して良かったと思えたなら、失敗という名の否定的な言葉は、その人には似合わない。
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2018年12月24日(月)

 クリスマスがやって来た。
 どこの家からも、楽しい笑い声が聞こえて来そうである。
 街では、いたるところで、きらびやかに装飾されたクリスマスツリーが飾られている。
 流れて来るクリスマスソングに、僕の胸は高鳴る。
「クリスマスだから」という言葉が好きだ。
 少しの失敗や挫折があっても、クリスマスだからという理由で、みんなが寛大になる。この時期は社会全体が、いつもより少し、やさしくなる。
 大事な人に贈るプレゼントを買い、ごちそうを食べたり、ケーキを食べたり、街全体が賑わって来ると、僕の気持ちも明るくなる。
 街ゆく人の笑顔が増える、おしゃべりが歌声みたいにクリスマスソングと響き合う。そんな様子を目にするたび、僕も幸せに包まれるのだ。
 大きなモミの木の下で、僕は空想にふける。
 子どもたちにプレゼントを配るために、サンタさんはトナカイのそりに乗って、一軒一軒の家を訪れるのだろう。
 サンタさんは枕元にプレゼントを置いたら、「メリークリスマス」と小声でつぶやく。子どもたちは眠っているけれど、サンタさんの声は聞こえている。
(やっぱり、サンタさんはいたんだ)
 それがわかったとたん、安心して子どもたちは深い眠りに落ちるのだ。
 サンタさんを信じている間は、子どもでいられる。
 ずっと子どもでいたい気持ちと、早く大人になりたい気持ち、いつもはその間で揺れ動いているのに、クリスマスの時だけは、みんなが子どもに憧れる。

書籍

『自閉症の僕が跳びはねる理由』

東田 直樹

定価 605円(本体560円+税)

発売日:2016年06月18日

ネット書店で購入する

    書籍

    『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年06月15日

    ネット書店で購入する