自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす26歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第50回】東田直樹の絆創膏日記「ひょうひょうと生きる」
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2018年11月1日(木)

 ロダン作「考える人」のブロンズ像は有名である。
 腰掛けた男性が、右手の肘と手首を曲げ、手の甲に顔をのせている姿の像だ。
 考えるという行為は、脳が行うものだが、それを行動で表現するなら、このような動作になるのかもしれない。
 僕が気になったのは、像のうつむき加減の表情である。
 何かを考えている時、人の目は、いつもの視線の高さより上を向いていることが多いように思う。
 無意識の内に、より視界を広げようとしているのではないのか。きっと、探している答えを導き出すヒントが欲しいのだろう。
 走り回って宝探しをしているわけではないのだ。ならば考えるためのヒントは、どうやって見つけるのか。
 何かを求めている時、人の感覚は研ぎ澄まされる。
 じっとしていても、目は頭上を流れる空気をとらえ、耳は、自身の呼吸の音までも拾おうとする。
 思考を働かせるには、何らかの刺激が必要である。
 僕が思考を巡らしている時も、お風呂に入ったり、蛍光灯の光を見たり、ふとしたきっかけで求めていた答えが見つかることがある。
 やがて頭の中が整理され、ふむふむと思考はまとまる。
 かなり結論に近づいた頃に、疲れた頭を手で支える。その様子を「考える人」は表現しているに違いない。

2018年11月2日(金)

 女の子は、お姫様に憧れることが多いが、男の子が王子様に憧れることは、少ないように思う。
 女の子は、どうしてお姫様になりたいのだろう。
 誰よりも大事にされたいからなのか、それとも、きれいなドレスを着て、一生幸せでいたいからなのか、恐らく、男には理解できない心理があるのだろう。
 自分が王子様になった姿を僕は想像できない。人の上に立つことなど到底無理だ。王子様になったら、どんなに大変だろうと考えるだけで頭を抱えてしまう。それなら、地道に身の丈に合った幸せを築いていこうと思う訳である。 
 お姫様になるまでのストーリーには、さまざまなものがある。けれど、物語のその後は、あまり知られてはいない。
「王子様とお姫様のふたりは、ずっと幸せに暮らしました。」この文章で終わる物語がほとんどだからだ。
 お姫様になるという夢を叶えてからが本当の幸せの始まりなのに、お姫様になったとたん、物語は終わってしまう。
 夢というのは、現実的ではないところがいいのだ。だから、お姫様になってからの暮らしぶりは、物語には描かれていないのかもしれない。
 どうやって王子様になるのかより、王子様になってからの生活そのものを心配してしまう僕のような男は、少しでも悲しみを減らすことばかりに気を配る小心者なのだろう。
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2018年11月3日(土)

 文化の日である。僕も久しぶりに画集を開いてみた。
 有名な画家の絵というのは、ひと目でその人の描いた作品だとわかるところがすごい。
 絵は正面からじっくり見るのが正しい見方だと思うが、僕は最初に、画集をパラパラとめくり、何枚もの絵を続けて見る。こうすると、一枚の絵からだけでは伝え切れない画家のメッセージが伝わって来るような気がするのだ。
 次に一枚の絵をあらゆる角度から眺めてみる。上から下から横から斜めから、画集をぐるぐる回して、僕は絵を鑑賞する。
 正面からでは見ることの出来ない角度の風景や人物の表情が目に入る。見る方向が違うだけなのに、描かれた形や色が変化して見える。別の絵みたいに見えて来るから不思議だ。そうしているうちに、何だか、自分も絵の中に入り込んだ気分になる。
 絵の中の登場人物になるわけではない。だんだんと僕は自分が絵の具になったような感覚に陥ってしまうのだ。
 赤、青、黄色……僕の体の細胞が絵の具の色に染まる。
「僕という色をこの絵の中のどこに置こう」
 頭をひねるが、僕のスペースなどあるわけがない。
 目の前の完成された絵画の美しさに感動しながら、僕は画集を静かに閉じた。

書籍

『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

東田 直樹

定価 648円(本体600円+税)

発売日:2018年06月15日

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    書籍

    『ありがとうは僕の耳にこだまする』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年03月24日

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