自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす26歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第47回】東田直樹の絆創膏日記「雨音と雨粒の関係」
画像

2018年10月11日(木)

 悪口を言う。
 自分が嫌な思いをしたり、何らかの被害にあったりすると、つい愚痴のように、誰かの悪口が出てしまう。悪口を言うことで、自分の気を晴らしたいのだろう。多かれ少なかれ、みんなが経験することだと思う。この反対に、誰かに悪口を言われることだってある。
 自分と関係のない人への悪口は、社会に対する批判や意見の表出なのかもしれない。悪口を言って他の人の反応を見る。自分と同じような意見があれば安心するし、なければがっかりする。
 悪口というのは、気持ちのはけ口なのだ。
「人の悪口を言ってはいけない」と学校で教えられたが、悪口ではなく批判なら、注意は受けない。だが、そうなると、批判された人も黙ってはいない。意見の違いは戦ってこそ生きて来る。ただし、戦っている内に、批判か悪口か、区別がつかなくなる場合も少なくない。
 悪口に対する対応は難しい。
 悪口を言われた人は、反撃すべきなのか、我慢すべきなのか。
 学校の先生は悪口を言う人を叱ってくれたが、悪口を言われた人が、どうすべきかは教えてくれなかった。
 大人になったら、悪口を言う人を叱ってくれる先生は、もういない。自分で何とかするしかないのだ。
 子どもの時、学ぶべきことは、悪口に対して、どのように対処すべきかを知ることだったのではないだろうか。
 生きるためには処世術が必要なのに、それを学ぶ場は、実社会にしか用意されていない。

2018年10月12日(金)

 物事にくよくよしないで、いつも明るい方に考えられる人は、楽天的だと言われる。楽天的の反対語は、厭世的(えんせいてき)である。人生や世の中をはかなむ傾向にあるという意味らしい。
 楽天的な人は、考え方に柔軟性があるのだろう。
 普通なら行き詰りそうな場面でも、逃げ道を探せる。自分を逃がすための抜け道だ。
 生きていれば、さまざまな場面に遭遇する。
 もう、どうにもならないと思う瞬間は、人によって違う。
 楽天的な人は、どんな時にも余裕があるように見える。困難な状況も、楽しむだけの心のゆとりがあるのだと思う。
 僕自身は、あまり楽天的ではないような気がする。どちらかというと、いつも、いっぱいいっぱいである。
 気がつけば、周囲は全部壁だらけ。途方に暮れていると、どこからか手が差し伸べられる。僕は懸命にしがみつく。すると、いつの間にか、元いたところに戻っている感じなのである。
 どうやって戻ったのかは記憶にない。
 本当に必死になっている際には、それほど鮮明な記憶は残らないのではないだろうか。
 直面した現実が重過ぎると、記憶に残す労力さえ惜しくなるからかもしれない。
 今日も生きている。
 それは、自分ひとりの力ではない。誰かのおかげで、僕の道は続いているのだ。
画像

2018年10月13日(土)

 そろそろ衣替えをしなければいけない。
 すでに秋だというのに、ずっと暑かったけれど、ようやく日中でも肌寒く感じる気温になって来た。
 僕は、長袖が好きではない。元々暑がりなせいもあるかもしれないが、服を着ることそのものに違和感がある。
 長袖だと余計にである。腕の長さが縮んだように感じるからだ。
 僕は自分の手が身体のどの部分についていて、どんな長さなのか、よくわかっていない。
 長袖を着ると、手首まで服に覆われる。すると、手首を強く意識するためか、肩の下に手首がついているみたいな感覚になるのだ。
 僕の腕は、どこにいったのだろう。
 思うように手が使えなくなった感じがして、少しいらいらする。
 こんな時、自分の意思で腕を伸ばして物を取っているのに、誰かに取ってもらったような錯覚に陥ることがある。
「あれが欲しい」と思っている内、それはいつの間にか僕の手元にあるのだ。
 自分で取った自覚があまりない。手が短く感じる分、不自由さが増したような気分がして、もどかしい。
 だから、僕は半袖の方が好きなのである。
 腕は伸ばしたり、曲げたり、自由自在に操作できる。意識して動かすというよりは、無意識の内に動いてくれる。
 無意識に働きかけるには、意識的な訓練が必要なのだろうか。無意識とは、意識の先にあるものなのか。

書籍

『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

東田 直樹

定価 648円(本体600円+税)

発売日:2018年06月15日

ネット書店で購入する

    書籍

    『ありがとうは僕の耳にこだまする』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年03月24日

    ネット書店で購入する