自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす26歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第46回】「仲間になりたい」
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2018年10月4日(木)

 知っているようで知らないことは、思いのほか多い。それを自覚していたとしても、「こんなことも知らなかったの?」と他の人から指摘されると、恥ずかしくてたまらなくなる。自分は、ダメな人間だと落ち込む、そういった経験のある人もいるのではないだろうか。
 その人には、「たいしたことじゃないよ」と言ってあげたくなる。「知らないことだらけだけど、僕は元気だよ」と慰めてあげたくなる。たとえ、自分の方が惨めな状況でも、相手を勇気づけたくなるのはどうしてだろう。
 この世に誕生したのは、誰もが運命だからに違いない。
 自分だけの力ではあらがいようもない定めの中、みんな精一杯生きている。
「私は生きていてもいいの?」と、常に誰かに問いかけたい気持ちを持っているのではないか。
 けれど、「生きていてもいいよね」なんて気軽には聞きづらい。「いい」と言われるに決まっているし、「どうしたの?」と心配される。
 だから、事あるごとに、自分こそダメな人間だと打ち明けたいのだと思う。そうすれば、相手は笑ってくれる。すると、生きることを許されたみたいな気分になれるのだ。
 人は弱虫なのだと思う。すぐに「自分なんか」と考えてしまう。「そんなことないよ」と誰かに言ってもらいたいがために、自分よりも先に人を許すのだ。

2018年10月5日(金)

 雨の日、車を停めていると、ボタンボタンという音が車内に響いた。窓を見ると、小さな雨粒が無数についている。
「あれっ、雨粒と音が合わない」そう思ったものの、車の中では雨音が、こんな風に聞こえるのかと僕は妙に納得する。実際は、雨の滴が電線から車の上に落ちた音だったことを、あとから家族に聞いた。
 理由がわからないような不可解な現実を目の当たりにすると、自分の認識のつじつまを合わせるために、何かを修正しようとする。聞こえて来る音が事実だとするなら、記憶の方を修正すれば説明はつく。
 誰への説明?
 それは、おそらく自分自身に対しての説明だ。この場合、その説明の信憑性は、あまり問題ではないような気がする。これ以上考えないのが、僕にとっての一番の解決方法だと脳は判断したのであろう。
 答えが見い出せないからといって、もやもやし続けてはいけない。
 脳が僕を説き伏せるかのごとく日々の疑問は解消される。
 考えるのは大変な労力だ。だから、自動的に脳が取捨選択して、僕が考えるべき課題を選ぼうとしてくれているのかもしれない。
 納得できれば、次に進める。次の新しい疑問に向き合える。
 思考は、ここぞという時にフル回転するのだろう。
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2018年10月6日(土)

 だんだんと秋めいて来た。空や木々の色が、これまでとは違う。
 僕はひとり、物思いにふける。
 なぜ自分は生まれて来たのだろう。秋は、何かをじっくり考えるのに、ぴったりな季節と言えよう。
 はるか遠くの空を見て、雲の形を確認する。目の前には、緑から茶色に変わりつつある哀しみを帯びた葉っぱたち。虫の鳴き声に、心が揺さぶられる。
 僕がここに誕生したことは、ずっと昔から約束されていたこと、それが宇宙における法則なのだ、そう考えると少し気が休まる。何もかもが計算された出来事だとしたら、僕のやるべきことも、すでに決まっているはずだからだ。
 宇宙における法則が人を動かすのか、人が動くから法則は動き出すのか、答えを導き出すために、僕はぎゅっと目を閉じる。
 ふらついた、ここは地上なのか。
 時間が流れているのではなく、自分が流されていたのだ。ああ、この世界の仕組みの中では、立ち止まることも許されず、追い抜くことも出来ない。
 移りゆく季節に惑わされるな。
 生きている自分を自覚しなければ、僕という存在は、この世から消えてしまう。そんな恐怖にたじろぎながら、僕はすぐさま瞼を開けた。
 風景が目に飛び込んで来る。
 時計の針が5秒進んだ。
 僕の5秒は、一体どこに流れ着いたのだろう。

書籍

『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

東田 直樹

定価 648円(本体600円+税)

発売日:2018年06月15日

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    書籍

    『ありがとうは僕の耳にこだまする』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年03月24日

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