自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす26歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第40回】東田直樹の絆創膏日記「焼け石に水ってほんと?」
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2018年8月21日(火)

 子どもがテレビを見て、主人公になりきる様子は、とても微笑ましい。
 テレビの世界に、なぜ簡単に入り込めるのか不思議である。
 子どもには、大人には見えないものが見えるとか、子どもは、自分と他人との区別がついていないなどの説もある。
 子どもの気持ちは、大人にはわからないと考えている人も多い。昔は、みんな子どもだったはずなのに。
 もし、子どもの頃の気持ちを思い出せないのだとしたら、当時の気持ちを忘れてしまったわけではなく、気持ちが変化したのではないだろうか。
 どちらにしても、覚えていないのだから一緒だという人もいるかもしれない。けれど「忘れる」では覚えていないことが、悪いことみたいに聞こえる。
 子どもから大人になるにつれて、身長が伸び、体重が増えるように、自分の気持ちが変わっていったのだと思う。
 子どもまでさかのぼらなくても、5年前、10年前の自分の気持ちを覚えている人は少ないのではないのか。
 わからないから昔を懐かしむ。わからないから子どもを思いやる。今の自分を肯定するためにも、その気持ちが大事なのだと思う。
 子どもの頃に僕が憧れていた人は、子どもにはない魅力を持った、成熟した人間味のある大人だった。
 一人の人間の心が時間と共に変化していく。大人は子どもがわからない。子どもは大人がわからない。でも、それでいいのではないだろうか。
 変化を楽しむゆとりが、人生をよりよいものにするような気がする。

2018年8月22日(水)

 相手と向かい合い、両方の手の平を合わせる。
「押して」という合図で、肘を伸ばしながら力を入れ、相手を押す。
「引いて」という合図で、肘を曲げながら力を抜き、相手から押される。
 僕は、こんな簡単なやりとりの動作もうまく出来ない。
「押して」と言われても、「引いて」しまうのだ。
 相手から押されると、相手の動きに合わせて、自分の体も動いてしまう。手を合わせているだけでも精一杯だから、その上新しい動作を加えることに対して、体が反応しづらいのだと思う。
 握手しても、僕が相手の手をぎゅっと握りしめることはなかった。ただ手を差し出して、相手が握ってくれるのを待っているだけなのだ。
 自分の意思で力を入れたり、抜いたりすることは、僕にとってかなり難しい。どうすれば体のどの部分に力が入るのかが、よくわからないせいだろう。
 力を入れる際には、「さぁ、力を入れてみて、せーの、はい!」こんな風に、僕はそのつど、自分の体にエールを送る。
(こんなこと、やったことがないから…)と僕の体は少々不満そうだ。
 それでも、僕は自分の体に言い聞かさなければならない。他の人が、僕に言い聞かせてくれるみたいに。
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2018年8月24日(金)

 子どもの頃、よく砂場で遊んだ。
 僕が砂をさらさら落とし続ける遊びばかりするので、他の遊びにも興味を持ってもらいたかった母は、砂だんごや砂のトンネルを僕に作ってくれた。
 母の作る砂だんごは、まん丸だった。ぎゅうぎゅう握って作った砂だんごを母が僕にそっと手渡す。僕は、当時、砂を投げては、砂煙を見て楽しんでいたので、手渡された砂だんごも、すぐに投げてしまった。
 投げた砂だんごが、砂の上で粉々にくずれる。僕は、壊れた砂だんごを見てびっくりした。周りはさらさらの白い砂で覆われていたのに、中身は黒い土だったからだ。
 母は、少し湿った土で砂だんごを固めた後、まぶすように乾いた砂を表面につけていたのだ。
 僕は、砂だんご作りに興味はなかったが、それからは、自分でも砂だんごを作るようになった。
 砂だんごを作っては壊し、壊しては作った。並べるのも楽しかった。僕が作る砂を固めただけの砂だんごとは違い、母の作る砂だんごは、僕にとっては宝石みたいにきれいだった。
 ただの砂だんごなのに、一所懸命に僕に作ってくれた母。そんな親の姿というのは、思い出の中の一場面として、脳裏に焼き付くものではないだろうか。
 子どもを遊ばせるのではなく、子どもと一緒に遊ぶ。簡単なようでいて、難しい課題であることは、みんなが知っている。

書籍

『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

東田 直樹

定価 648円(本体600円+税)

発売日:2018年06月15日

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    書籍

    『ありがとうは僕の耳にこだまする』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年03月24日

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