自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす26歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第38回】東田直樹の絆創膏日記「食事は大仕事」
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2018年8月3日 (金)

 小さい頃の海水浴での思い出は、今も僕の心を幸せにしてくれる。
 砂浜に次々と押し寄せて来る波打ち際の白い波が、僕を飲み込もうとしているかのように見え、僕は怖くて母にしがみ付いて泣いた。
 ゴボゴボ、ニョゴニョゴ、ブクブクと僕に向かって来る波たち。海は、巨大な生き物なのだ。
 母は「ほら、怖くないよ」と言いながら、僕を抱っこしたまま、ザブザブと海の中に入って行った。
 僕はわんわん泣いたが、母が、にこにこしていたので、泣くのを止めた。そっと下を見ると、波はゆらゆら漂っているだけだ。恐る恐る足をつけてみる、ひやっとした。今度は海水の冷たさに驚いて、べそをかく。
 母は、僕を抱っこした状態で海に浸かった。体がかたまって声も出ない僕。お日様はかんかん照りなのに、僕の瞳は震えていたのだ。
 海は広く、波は穏やかでも、僕の心は初めて見る世界におびえきっていた。
 それからも海には、毎年のように遊びに行った。最初は嫌がっていた僕も、徐々に慣れていった。
 浮き輪をつけて泳げるようになると、僕は、大はしゃぎで海に入った。魚に生まれたかったと本気で思ったくらいに、ただ、ただ、楽しかった。
 あふれるほどの幸せな記憶は、自分の人生が、とても価値のあるものだと思わせてくれる魔法の力を持っている。その記憶は生きている限り、輝き続けるのだと思う。
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2018年8月4日(土)

 どれだけ自分が正しいかを切々と訴える人がいる。仲間うちでなら、胸を打つ良い話なのかもしれない。けれど、社会に向けて発信するとなると、注意が必要になる。世間の人たちが、仲間や家族みたいに味方になってくれるとは限らないからだ。
 周囲が同じような方向性の人ばかりだと、反対意見の人が存在することに気づかなくなってしまうことがある。自分とは違う意見の人がいることを知ったとしても、到底受け入れられない。今後は自分の意見を支持してくれる人とだけ付き合っていけばいい、そういう思考になる人も多い。
 気持ちは、わからなくもない。それくらい真剣に目の前の問題と向き合っているのだ。
 社会とは、さまざまな人が一緒に生きる場所なのである。
 多様性を認めるということは、違う考え方の人を排除しないことではないのだろうか。多様性を認めて欲しいと自分の考えを主張しても、他の人の考えは認めない。そこには、ある意味、矛盾が生じている。
 意見の違いはあって当然だと思うし、言論の自由は保障されるべきものだ。
 たとえば自分にとって都合のいい社会が、多様性を認める社会ではないことを、誰しもわかっているのではないだろうか。
 理解を求めることよりも、理解をすることの方が難しいのだ。
 理解をして欲しいと強く望んでいる時、人は理解してもらえれば、相手がわかってくれると期待する。だが、実際のところ、自分の期待通りになるとは限らない。
 僕は、自分がどれくらい他の人の訴えに耳を傾けているのか、逆の立場になって考えてみることがある。
 どうすれば、世の中の人みんなが幸せになれるのか、その答えをまだ、誰も見出せてはいない。

2018年8月5日(日)

 小学生の時、アサガオを育てたことがある。
 指先で土に穴をあけ、種をまく。一週間くらい経つと根が伸びて発芽する。本葉が数枚出てつるが伸び始めたら支柱を立て、つるを巻きつける。アサガオが日に日に成長していく様子は僕にもよくわかった。
 何色の花が咲くのだろう、どんな大きさの花なのか、想像するだけで、僕はわくわくした。
 ある朝、ラッパみたいな形の青いアサガオの花がひとつ咲いた。僕は小躍りして喜んだ。友達のアサガオも次々に咲いていく。
 毎朝、アサガオを見るのが楽しみだった。
 でも、一度開いた花は二度と咲かない。せっかく咲いた花も、お昼にはしゅんとしおれてしまう。アサガオの花が見られるのは、一日の内の数時間なのだ。
 そんなに短い間だけしか咲かないなんて、寂し過ぎる。
 それに気づいてからは、咲いた花の数より、しぼんだ花の数を数えるようになった。種が収穫できるようになっても、花が見られなくなるのは嫌だ。
 最後のアサガオの花がしぼんだ後、アサガオのつるや葉は、だんだんと茶色に変化していった。このアサガオの命は終わったのだ。
 からからに乾いたつるや葉には、もう、光合成する力も、水を吸う力もない。あんなにきれいな花を咲かせていたのに。
 みんなのアサガオも、ひからびていった。
 これが僕のアサガオだったのかどうか、その答えを、どうやって探したらいいのだろう。
 種を収穫できた喜び以上に命を終えたアサガオは、僕の心を重たくさせた。

書籍

『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

東田 直樹

定価 648円(本体600円+税)

発売日:2018年06月15日

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    書籍

    『ありがとうは僕の耳にこだまする』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年03月24日

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