自閉症の僕が 跳びはねる理由』の作家・東田直樹さん。人とは違うこだわりや困難を持ちながら過ごす25歳の日常生活で、気づいたことや感じたことを、初の公開日記で綴ります。思いがけない発想に目からウロコ…!?
>>【連載第32回】東田直樹の絆創膏日記「父の日、ありがとう」
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2018年6月20日(水)

 サッカーワールドカップの日本代表が2対1でコロンビアに勝った。
 歴史的な勝利に日本中が歓喜に包まれた。全力でプレーする選手たちに僕も感動した。どちらが勝つのか最後までわからない試合だったと思う。
 どこかのテレビ番組で、この状況に対する世間の評価を、「手の平返し」という言葉で表現していた。初戦に勝ったことで、日本チームの人気が急上昇したようである。
「手の平返し」という表現は、おもしろい。
 手の平は、すぐにひっくり返すことが出来るうえ、ひっくり返したことを自分であまり意識もしない。でも、何かを受け止める時には、手の平を上に向けなければならない。手の甲と手の平では、役割がまるで違うのだ。
 僕は、サッカーのルールはわからないが、アナウンサーが大きなかすれ声で「ゴール」と叫んだり、家族が「やった!」と歓声を上げたり、テレビの中と外で、みんなが大騒ぎする様子を見るのが楽しい。喜んでいる人たちの様子を眺めながら、僕の気持ちも高揚していく。
 人の感情は、伝染していくものではないだろうか。
 煽られてつい買ってしまったり、真似をしてみたいと思ったり、人は結構流されやすい。
 大きなうねりは、人の気持ちを後押しする。その波をつかまえたいのだ。ビッグウェーブに乗れば、自分も最高の興奮を味わえるに違いない。

2018年6月21日(木)

 人が動物の着ぐるみを着ることがある。顔は人間で、二本足で立ち、言葉を話すにもかかわらず、その動物になりきろうとしている姿は滑稽にも見える。だけど、次第に着ぐるみの人に違和感がなくなって来るのだ。
 僕もウサギの着ぐるみを着た人を見て、最初は「こんな大きなウサギなんていない」と笑っていても、だんだんと愛着がわき、側に近づきたくなる。人参をあげ、頭をなでてあげたいと本気で思うのである。本物のウサギと一緒にいるような気分になるからかもしれない。本物のウサギにしてあげたいことを、着ぐるみのウサギにしてあげたくなるのだ。着ぐるみのウサギであれば、ウサギが好きな僕の気持ちを全て受け止めてくれるだろう。
 でも、実際は着ぐるみのウサギは、ウサギではない。いくら着ぐるみのウサギが喜んでくれても、本物のウサギは、僕が近づくだけで逃げ出すだろう。
 人間はウサギではないから、警戒されるのが当たり前なのだ。押しつけがましい関わりは、動物にとって迷惑なだけである。
 着ぐるみを着ている人は、動物になりきっている間、動物の味方に違いない。人間だけれど、今はウサギ、今はクマ、今はライオンなのである。
 人間は、すぐにその気になる。
 動物になりきる、動物になった人に愛情を感じる。
 着ぐるみを着ている人も、周りで見ている人も、ある意味、大真面目なのだ。
 動物への恐れと畏敬の念を抱きながら、そんな気持ちを心の隅にしまい込み、友達のふりをする人間を、動物たちは、さぞかし笑っていることだろう。
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2018年6月23日(土)

 今日も雨。雨を見ていると、だんだん寂しい気持ちになって来る。
 どこかで誰かが泣いているような、落ち込んでいるような、そんな感じ。
 降り続く雨は、まだ止みそうにない。なんて悲しげな空の色。
 シトシト シトシト ポタポタ ポタポタ、雨の音は滴の音。
 雨音の隙間を埋めるように、僕を呼ぶ君の声が耳の奥に響く。
 ここにいるよ、ここにいるよ、ここにいるよ、僕は答える。
 濡れた町をじっと見つめ、君に思いをはせる。
 君は泣いているのだろうか。
 自分の気が晴れるまで、ただ泣けばいい。涙の滴をポロポロと、ただ流し続ければいい。雨に隠れながら、雨の後ろで。
 雨の日は、どうしてこうも心が弱くなるのだろう。
 今日だけは泣いてもいい、そう空に許しを請う。
 明日は晴れるに違いない、そう思うことで今日を乗り切る。
 雨の音に耳を傾ける。ポトポト音が聞こえたら、それは君の涙の音。
 聞こえないふりをして、僕は君を見守ろう。
 天を仰ぎ見ながら、黙って祈りを捧げる。
 雨の音は滴の音、滴の音は涙の音。
 明日になれば、すべて解決する。それは夢物語かもしれないが、雨上がりの風景は、君の心に変化をもたらす。
 やがて雨も涙も流れ去り、君は新しく生まれ変われるはず。

書籍

『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』

東田 直樹

定価 648円(本体600円+税)

発売日:2018年06月15日

ネット書店で購入する

    書籍

    『ありがとうは僕の耳にこだまする』

    東田 直樹

    定価 648円(本体600円+税)

    発売日:2018年03月24日

    ネット書店で購入する